2β.作成ツールについての補足
ハウツー編に入ってから話がマニアックな方向へ入りっぱなしで、どれだけの方に読んで頂けているものかと不安でしたが、既に実際に制作を行われている方や、これから作成しようと取り組んでおられる皆様から、熱い応援とツッコミを様々頂いております。
自分自身、持っている知識を見つめ直したり、意見交換をするための良い機会にもなっているので、活動続けて行くうえでたいへん刺激になっている次第です。
そんな中、頂いたレビューを拝見していましたところ、「これは」と気になるかなり深い要素に対するツッコミを頂いてしまったので、ちょっと私信ついでに補足させていただきたいと思います。
以下が、頂いたレビューの引用です。
〝一太郎の機能でepubとmobi形式への変換と保存が可能で、自分は一太郎の機能でkdpで出版しました。kdpはwordでの入稿も可能でその為のガイドまで用意しています。
htmlで書いた時との仕上がりの違いについてまで書く必要があるとは思えませんが、有料ではあるが一太郎やwordで簡単に作る事が出来る事を軽く記述しておく必要があるように思います。〟
「でんでんコンバーターの紹介ばかりでその他に対する紹介がないのはアンフェアだ」というご指摘で、僕も「まさしくその通りだな」と気付かされるところが大きかったです。
確かに誰でも簡単に、知識がなくとも凝った装丁を実践できる『一太郎』や『MicrosoftWord』という選択肢は魅力的ですし、自分でイチから学ぶより本来は推奨されるべきものでしょう。
僕自身、初めて紙媒体で自作の同人誌を出したときはWordで入稿しましたし、ATOKも実は常用的に利用しています。これらに対して悪いイメージは持っていませんし、いわゆる〝アンチ〟というわけでは決してありません(笑)
ただ、電子書籍制作という場面において、この二つを自分が推奨していないのは、一つ明確な理由があります。
それは、出来上がったEPUBそのものの完成度ではなく、むしろ制作するためのTEXTの方に対する問題意識からです。
まずHTML5でルビ指定の仕様が登場したことにより、ブラウザ上でルビのついた文字の表現度が向上し、自分たちもその恩恵に意図せずして預かっています。実は僕も、「なろう」で作品を書いてみるまで、自分の作品に自分で振り仮名を振るという機会があまりありませんでした。
商業活動字も、入稿用のテキストデータに膨大な量のルビを執筆しながら指定するのが難しく、そのためのルールも確立されていなかったので、特に振りたいと思う箇所へ個別に指示を添えて編集に渡しているのみでした。これを装丁へ反映させるのは、かなり煩雑な行程を必要とします。
ですが今は、文章を書きながら「あ、ここにルビを入れたい」と思ったとき、軽くキーボードを叩くだけでルビの指定を文中に挿入できますし、その表示もブラウザが解釈して簡単に行ってくれます。
このルビ指定の利便性の向上が、自分にとってはかなり衝撃を受けていて、環境が変わったおかげで昔よりルビを利用する機会が増えたぐらいです。
ここで一つ重要なのは、今まで「テキストとは別の付加要素」だったルビが「テキストと一体化された要素」になったという点です。
「カクヨム」も「でんでんコンバーター」も、最初に書いたテキストデータだけでルビと本文の情報が一緒になったままデータとして完結しています。開くソフトは、メモ帳でもAtomでも、テキストデータを扱えるソフトなら確実に再現可能ですし、特に「でんでんコンバーター」のマークダウンを自動認識してくれる『Tateditor』というソフトが個人的には気に入っています。
ここで重要なのは、あくまで使用するテキストデータは一つだけで、ソフトはその見た目の表示を変えているだけ、という点です。
対して、「Wordで作成してルビを振ったデータ」というのは、あくまでWordのみで利用できるものでしかなく、同じ表示もWordソフト内でしか再現することができません。
Wordでルビを振った文字列を、コピーしてテキストエディタに貼り付けると、いちおうルビの情報は残ってくれますが、ルビの開始位置を示す記号がないため情報の欠落が起きてしまいます。また、文字の位置を変えるとか、スタイルを調節したという情報も、Word内でしか残りません。
『一太郎』は実際に使用したことがないので、ほとんど予想での話になってしまいますが、Wordに感じているような問題は同様に起きうると思います。
自分のように同じ一つの作品を「WEB上で公開をして、書籍にもして、マルチストア販売もしたい」という目的を持っている場合、ソースとなっているテキストデータの再利用性は軽視できない問題です。
たとえ今は問題無くとも、例えばストア側の表示仕様が変更されたり、あるいはソフトがバージョンアップで仕様が変わってしまった場合など、それまで使えていたデータが再利用できなくなる可能性というのは充分考えられます。
エンコードやバイナリレベルの問題を除いて、テキストファイルの再利用性が落ちたり、HTMLの仕様が全く変わってしまうことは、これらに比べておよそ考えられないと思うので、まず安心ではないかと考えています。
また、ソフト側で複雑な処理を行うような制作方式を取ってしまうと、何か問題があったときその解決方法がわからないとか、表現能力がソフトの性能によって制限されてしまうなどの問題もあります。
特に「ソフトを使って作ったファイルが、Kindleではアップロードできたのに他のストアではエラーが出来て登録できなかった」という事例も耳にすることがありました。
自分の作ったファイルの仕様を充分把握しておくというのも、個人が独立してやっていくうえで大切なことだと思っています。作者は自分の作った作品を隅々まで理解しているべきですし、編集もまた自分の担当している書籍を同じく理解しているべきです。
とりまとめて言えば、僕はテキストとHTMLの信奉者なので、よりそれに近い形でデータを管理できる環境にしたい、というのが『Word』や『一太郎』での電子書籍制作を支持しない理由というわけでした。
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