第11話ノンアル-酔いざる者-

それは見覚えのある光景だった。


広い荒野の一角で密集した家屋がたっている。


木で雑に仕上げられた家に牛の皮で作ったと思われる装飾品を下げていた。私の身近にある文明よりもいくつか下のものだ。


よくみればその家の外に全裸で浅黒い肌をしたヤツらがこちらを睨んで並んでいる。


 横に広く、分厚く並んでいる騎馬隊の先陣の一人がラッパを高らかに吹き鳴らす。指揮官の号令とともに一斉に低俗な民族の浄化へと馬を走らせる。


だが俺の馬は動かなかった。真新しい制服を着飾った俺とそこそこ歳の愛馬はヤツらが白旗を振るのを見ちまったからだ。


背中の折れ曲がった老人が杖を上がらないであろう肩よりも高く掲げ右へ左へと旗をなびかせる。


それでも軍隊はそこへ何の躊躇もなく突っ込んでいき、そして———


「ガフッグフッ!」


顔に液体が注がれて喉にまで侵入し顔を横にそらせてえずいた。


 口の中にはラベンダーの風味が広がる。ああ、クソッタレなあの時もこんな感じの味をした水だったな。水の味なんて知らねぇけど。


 顔にかかった水滴をシャツの袖で拭きながら重い瞼を2,3度開け閉めして動く相手にピントを合わせる。


 ブロンドで耳が長い美女が何か言いたげに、悩ましげにバケツを片手に持ちこちらをみていた。まぁ、見ようによっちゃ睨んでいるようにも見えないこともない。


「ああ、おはよう。えーと、誰だっけ?」


「・・・ビットマンさん、昨夜はよっぽどお飲みになったようですわね。酔っぱらって帰ってきたと思ったらいびきはうるさいわ酒で臭いわたまったものではありませんわ。」


「昨夜って大げさだな。昼前にちょろっと寄って酔っただけだ。」


「酔っ払いが夜に帰ってくるのなら、こっちからすれば夜に出来上がった酔っ払いですわ。」


「ああ、そりゃすまない・・・二日酔いだから頼むから声量を少し落としてくれ・・・頭が割れそうだ。」


「どうやって割れるの?真ん中からぱっくりと?」


ハルバードの荷台から本を抱えて目を輝かせながらゴールディが顔をだした。


「ああそうだ。そして、その後に割れ目から悪魔サタンが羊に乗って出てくるよ。」


「興味深い・・・中々イカれた身体の作りをしている・・・。」


 見渡すとここは馬小屋の中で木造りの床に横になって寝ていたらしい。体を起こすと肩にかかっていたポンチョがするりと落ちた。


 カルがかけてくれたのだろうか。これは俺のお気に入りで大事にしまっていたのだが・・・ああ、クソッタレ。水でベトベトになっている。


袖を触ると同じようにベトついている。本当に水なのか?一体何をかけやがったんだ。


「これ以上横になってたら水桶に突っ込まれそうだから顔でも洗ってくるよ。」


「ああ、でも今外は―――」


 扉に手をかけて開けるとおいおよそこの村に住んでいる住人全員をかき集めたであろう人がこの馬小屋を囲んでいた。


 ああ、クソッタレ。覚えがある光景だ。なんで俺が酔うとこうなるんだ。呪いでもかかっているのか。


 少し俯いたまま馬小屋から数歩歩きできる限り敵意のない柔らかい笑顔を顔に携え声も丸くしこう言った。


「ワタシは、ダレも、キズツケナイ。エイゴワカル?ああ、わかるのか。なに、ガンデル語!?いや・・・、いいから事情を教えてください。」

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酔っぱらいのガンマンは異世界の西部へ行く シナミカナ @Shinami

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