第3話異世界の荒野

 家から出てまず驚いたのは人の多さだ。

外には家の中で詰まっていた軍服の男達が数十人は周りを警戒している。

その外にはさらに一般人が百人ほどこちらの様子を伺っている。

そいつらは俺が家から出てくると、馬鹿でかい声で叫び始めた。


 当然の事だ。家の横で偶然とはいえ賞金首の二人を撃ち殺しその後は勝手に家に侵入して寝ている。

嫌悪と狂気にまみれた変態男だ。誰がどう見ても異常者にしか映らない筈だ。

よその地でバーから酒を盗んだことがあるがその時もこうやって晒されたものだ。


 しかし、二日酔いの頭にジンジンと響く声は罵倒や非難ではなかった。

誰もが明るい顔で俺を称賛している。中には食い物を投げ入れる奴もいた。

`寝床がないなら是非俺の宿に止めってくれ`だの、`私の焼いたパンを食べてほしい`だの、まるで世界の裏まで来た旅人に言っているかのような言葉だ。

よっぽど賞金首には悩まされていたのだろう。


 しかし、荒野はどこも似た景色であるのは当たり前だが俺の知っている荒野とは違う。

土は僅かに湿っていてところどころ緑がある。

俺が知っている乾燥した厳しい荒野とは違っている。

そして、なによりも回転草がない。風だけがむなしく吹いている。

一体、俺は酔っている間にどれだけ歩いてきたんだ・・・?


「ミスター・・・あー、失礼。お名前は何でしたかね?」

立ち尽くしていると老いた軍服の男が腰を低く訪ねてきた。

「私はガンデル王国騎士隊長のマーク・ウェルズと申します。」

右手を腰に当て、左手で両目を覆いながら深く腰を曲げる。


「ああ、申し遅れた。俺はアメリカ合衆国のテキサスから来たロア・ビットマンだ。貸し馬屋を・・・今、なに王国だって言った?」


「ガンデル王国です。ビットマン様。」


 ガンデル王国?アメリカ合衆国ではなくガンデル王国だと?

地理はある程度理解しているが、アメリカ合衆国の周辺にそんな王国は聞いたことがない。

明らかにオカシイ。いや、もしかして俺のただの勘違いかもしれない。

まだ今なら勘違いで済むんだ。今なら。


「隊長殿、ここは具体的にどこ・・・」


 言いかけてバカな質問だと気付かされた。

ちょうど軍服の・・・王国騎士達が家の横から二人の死体を運び出してきた。

まわりから恐怖の悲鳴がこだまする。

俺はとんだ勘違いをしていた。殺したのは人間じゃない。


 足が二本と腕も二本あるが身長は7フィート(約2m)ほどで指の長さは丁度人の頭を掴めるほど。

腕の太さは丁度人の頭を片手で潰せるほど。

脚の長さと太さは丁度人以上に速く走れるもの。


 全ての能力が人間を上回り人類を絶滅させるために創られたような生き物はあまりにも醜かった。

そして、あまりにも恐ろしかった。

ここは俺が知っている地ではない。そう確信した。なら、ここはどこだ?


「アレはまだ子供です。身長も成体に比べて半分ほどしかない。」

「しかし、我々がアレを殺すためには30人ほど人員が必要です。強力な武器も。」

「これほど備えても良いところ、半数の犠牲で何とか殺せます。」


「一体ヤツは・・・アレは何なんだ?」


「コボルトですビットマン様。そして貴方はアイツを殺したのです。たった一人で。」

「幾人ものお方が異国から来ましたが手足と頭が揃ったままお会いするのは貴方が初めてです。それでは事務所に向かいましょう。」


 そう言うと部下らしき男が鉄で作られた馬車のような物を俺の横につけた。

ジーザスよ我を・・・この地にもジーザスはいるのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る