第2話真昼の二日酔い

 ドス黒いまどろみの中で体を浮かせていると頭を小突く奴がいた。

おい、とそいつは俺が起きないことを良いことにリズミカルに小突き続ける。


 誰だ?俺のママはこんな雑な起こし方はしない。

それにママは二年前に死んだ。

銃弾で倒れたんだ。悲しい死だった。


 なら、親父だ。親父は起こすときはいつもこんな風に適当だった。

しかし、親父もママと同じ日に決闘で死んだ。

相手は誰だったか・・・ああ、ママか。


 しかし・・・じゃあ小突くのは誰だ?

目をパチリと開けると黒い軍服のようなものに身を包んだダンディな男が無愛想に見ている。

ついに俺はコマされたのか?いや、ヨダレがベットリついた枕や汗に浸かったシャツが気色悪いほどにまとわりついている事を考えると脱がされちゃいない。


「おい。」


 と男が懐から刃物のようなモノを取り出したところでゆっくりとベッドから上半身を起こした。

恐らく、だが別に奴の下についている凶器ではない。

敵意がないことをひきつった笑顔でアピールするがただ気味悪がれただけだ。


「あの・・・騎兵隊?軍人?まさかの保安官?誰でも良いが・・・俺はなにもしていない!無罪だ!」


 男は首を傾げると後ろの助手のような男に振り向いた。

何てこった一人じゃなかったのか。

よく見ればそのまた後ろにも数人いる。完全に囲まれていて俺の命はやつらが握っていた。

俺はただ慈悲を待つしかない。


「家の隣で死んでいる二匹のコボルトを殺ったのはお前か?」


 ああ、俺だ。完全に俺だ。

昨夜の記憶は曖昧だがそれだけは鮮明に覚えている。

確かにクソッタレな二人を殺った。コボルト兄弟か親子?って奴を。

その時は変質者にしか思えなかった。

今に考えて見れば本当はただの旅人だったかも知れない。

この広野を永遠と歩き続け運よく見つけた俺の家だが中には誰もいない。

無断で入らず大人しく横で待っていると酔っ払いに撃ち殺された。


 それじゃあ死刑は免れないだろう。首吊りだろうか銃殺だろうか。

死体は吊り下げられて射的の的にでもなるかもしれない。きっと俺の死に顔がTシャツの刺繍にでもなるのだろう。

ああジーザス俺に慈悲を。


「法の執行人の方々。確かに二人を殺ったのは俺です。しかし、あいつらは俺をヤろうとしていました。正当防衛です。」


 その瞬間に場が静まり誰もがヘンテコな顔をしている。

ああ・・・これは駄目だろうな。なんて人生は容易く呆気ないんだ。

一番偉そうな男が若い男と笑い合う。

その後ろの方からは簡単に自白をした為か歓喜の声が上がっている。

ニヤニヤした顔のおっさんが俺に近づきこう言った。


「ミスター、よくコボルトを始末してくれた。君には名誉と賞金を与えたい。一緒に来てくれ。」

「と、その前になぜ人の家で寝ているのか聞きたい。とりあえず私のオフィスまで行こう。」


 何がなんだか分からない。

辛うじて俺が賞金がかかったアウトローを殺して誉められていると言うことは分かった。

俺がこの場で殺されないってことも。

まずは人様のベッドから降りて暑い日差しにでも当たろう。

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