Rec2:そこら中モンスター アマチュア僕ちゃん

#5:人とは違う角度からモノ見て

 アニメや漫画の好きな方々が、フリースタイルダンジョンにハマる理由。そのひとつとして挙げられる要素に、「出演者全員、キャラがメチャクチャ立っている」というのがあるでしょう。

 考えれば当たり前ですよね、そこにいるのは生身の人間なんですから。MC一人ひとりに心があり、信念があり、歴史があり、そして音源がある。誰もがそれを背負ってステージに立ち、戦う。

 オタク気質のある視聴者にとって、しかしこれはなかなか危険な罠です。

 私がたとえば深夜アニメを見たとします。そこに可愛い女の子キャラが出ていた。私にできることは何があるでしょう。まず、アニメはかじりつくように見ますね。原作があるなら読む。その人主人公のスピンオフがあったらそれも見てみる。キャラソンがあったらCDを買ってみる。中の人がやってるラジオを聴く。生出演するライブイベントに行ってみる。実際に全部やるかはのめり込み具合によりますけど、まあこんな感じでしょう。

 とはいえ、限度はあります。三六五日二十四時間、常に新鮮なネタを供給し続けられる公式は存在しないのですから。アニメも漫画も週に一回。どれだけ細かく設定を知りたくても、血液型や足のサイズや座右の銘や尊敬する人物や、そんなことまで決まっていない可能性もある。主役級キャラでなければ尚更です。出番の少ないキャラにハマってしまった場合、灼熱の砂漠に放り出されたような思いをすることになるでしょう。

 そうでないから、フリースタイルダンジョンは危ないのです。

 確かに番組は週に一度しかありません。ところがラッパーは、確実にこの世のどこかで何かをしているのです。その命が尽きるまで、常に。有名度の違いはあれど、彼らに『設定の無いモブキャラ』は存在しません。第一試合で惜敗を喫したチャレンジャーも、掘ればプロフィールがいくらでも出てくる。音源もある。フリースタイルダンジョン以外で活躍している動画もある。ライブもある。ラジオ番組に出てる人なんかもいる。ツイッターもある。生で見られるし、実現するかはともかくとして、理論上は会話までできる可能性がある。

 アニメで例えるなら、全登場人物にスピンオフ作品があり、グッズやキャラソンがあり、最新情報が常に供給され続け、精力的にライブを行っている状態。これがどれだけヤバいことか、お分かりいただけますか。一度掘り始めたら、永遠に終わることがない。底なし沼です。

 キャラ同士の関係性に萌えを感じるタイプの方であれば、状況はより深刻です。あの人とあの人が戦ったらどうなるかな。あの人とあの人の絡みが見たいな。熱戦を繰り広げたあの人とあの人、プライベートではどんな感じなのかな……これが恐ろしいことに、結構分かってしまいます。

 実力派同士であれば、大きな大会で当然激突します。強チャレンジャーと名高い焚巻さんと掌幻さん、DOTAMAさんと晋平太さん、R-指定さんとERONEさん、ACEさんとKEN THE 390さん……といったように。探せば探すほど、私のような素人が見てもビビる組み合わせがポンポン出てきます。

 普通のバトルだけではありません。Youtubeやツイッター等を漁れば、驚きはどんどん続きます。R-指定さんとサイプレス上野さんが、女の子をフリースタイルラップで落とすバトルをしていたり。CHICO CARLITOさんが、数少ないラスボス到達者である崇勲さんと仲良く飲みに行ってたり。般若さんと漢さんとR-指定さんが一緒に曲をやっていたり……過供給にクラクラしそうですね。

 このように、ヒップホップは関連情報を漁れば漁るほど面白さが増すわけです。そりゃ他の音楽ジャンルだって背景を知る面白さはあるんですけど、ヒップホップは特にそうだと感じます。何故なら、ヒップホップ楽曲は、『己』を直接的に表現している割合が圧倒的に高いからです。

 たとえば他の音楽ジャンルならば、「悲しい恋愛をした女の子の気持ちを歌いました」とか、虚構や想像の世界を描き出すことが多いですよね。対してヒップホップは、「俺が○○だ」「俺はこれについて××だと思う」「俺は△△が好きだ(あるいは嫌いだ)」と、己やその内面について表明する楽曲が多くあります。無論それらは単体で聴いてもそれなりに楽しいのですが、どういう方がそれを言っているのか知った上で聴くと、余計に説得力が出てきます。

 更には、バトルという文化の存在。アレは虚構の世界について歌ってたんじゃ成り立たないですよね。お前に比べて俺はこんなにすごい、お前の考え方は全然筋が通ってなくて、俺の考えこそ正しいんだ、といったように、俺は、の部分にあたる『己』がないと勝負にならない。そしてその言葉に説得力があるかどうかは、スキルも当然ですが……やはり、本当に吐く言葉通り生きているかという部分も大きいでしょう。

 つまり、ラッパーの人となりや人生、人間関係……いわばキャラクターを知っているからこそ楽しめる部分が、他の音楽ジャンルより多いのです。

 これが、ラップバトルがアニメ好きにウケてる一因だと言えるのではないでしょうか。特定のキャラにのめり込むとか、キャラを楽しむという鑑賞方法は、アニメファンにとって割と当たり前なやり方のひとつです。強烈なキャラクターの大集合しているヒップホップの世界に面白さを感じるのは、最早必然と言っても差し支えないでしょう。


 さて。これらを踏まえ、私は考えました。

 フリースタイルダンジョンの話を、ヒップホップがよく分からないオタク気質のある方にするならば。『』の角度から語るべきではないかと。

 ……ええ、ええ、ええ。語弊があるといえばあります。先程も申し上げた通り、ラッパーの皆さんは二次元キャラクターじゃなくて生身の人間ですからね。私とて別にあのモンスターとあのチャレンジャーはどっちが攻めでどっちが受けかみたいな話をしたいわけではありません。

 私が言いたいのはですね。ヒップホップを食わず嫌いしてしまう方には、やはり当初の私のように「ラッパーはみんなキャップにダボダボ服でオラついており『悪そうな奴は大体友達』か『親に感謝』しか言ってない」みたいな画一的かつかなり偏ったイメージをお持ちの方が多いのではないかということです。そんな方にまず「ラッパーはひとりひとり強い個性があり、スタイルがあり、信念がある」とお知らせするのは、その誤解を解く第一歩になるのではないかと考えます。

 また、フリースタイルダンジョン本編は見るけれど、それ以外の情報は一切収集しないという方もいるかもしれません。無論それでも充分面白いのですが、プロフィールとか、どんな曲をやってるかとか、そういう番組外の活動、生き方を知ると、楽しみが数倍に膨れ上がります。番組だけでは分からない魅力を提示することで、沼に落ちる方がまた増えるかもしれない。そういう期待もありますね。

 まあ、フリースタイルダンジョンに登場したラッパーひとりひとりのプロフィールやら何やらを追っていたのでは、このエッセイが『ラッパー図鑑』になってしまいます。それに私も初心者ですから、全ラッパーの何から何まで語れるほど詳しいわけがありません。未だにクラシックすら十分に聴けておらず、知らないことだらけです。開き直って言うようなこっちゃないですけど。


 ですので、ここからは人とは違う角度……というほど特異な視点ではないですが。レギュラーで登場する五人のモンスター、いえ、シーズン二からは七人になったモンスターの方々を、ご紹介したく思います。

 どうぞ、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。

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