Rec3:口だけじゃない 形にすること心掛ける
#13:やっぱり思うアホでも出来る
さて、私はここまでで様々な作品に触れてきました……とは言っても、広大なダンジョンをちょっとウロウロしたに過ぎませんけども。でも、歩いたには違いありません。そうしますと、私の心にあるひとつの気持ちが芽生えてくるわけです。
即ち、私もラップやってみてぇなぁ、という気持ちが。
いや、これは何も私がおかしいわけじゃないはずです。これをお読みの皆さんだって、一度は考えてみたでしょう。番組に登場しているMCの方々みたいにラップできたら、どんなにカッコイイかって。ないですか、そうですか、おかしいな。私は良い小説を読んだら小説を書きたくなるし、良い映画や演劇を見たら役者として演技をしたくなるし、良い音楽を聴いたら音楽をやりたくなるし。そういう単純な生き物なので、良いラップを聴いたらやっぱりラップしてみたくなるわけです。
漢さんは、自身の楽曲『oh my way』の中でおっしゃいました。ヒップホップを始める前は、あんなの俺でもできると思った。実際に始めてみて分かったが、やっぱりこんなのアホでもできる、と。果たして本当なんでしょうか。
フリースタイルダンジョンからヒップホップに興味持った身ですし、理想はやはりバトルMCの方々みたいに即興でビートを乗りこなすことです。いいですよね、舞台に立って、相手のディスを華麗にさばき、韻をしっかりと踏みながら、的確にアンサーする。そこから生まれるグルーヴ感で、観客の方々が大いに盛り上がるんです。R-指定さん並みに何でもできたらさぞや気持ちいいでしょう。
いいな、バトルMC。そう考えた時、私は二秒で大きな壁にぶつかりました。
まず私は、人間が苦手すぎるという大きな弱点を持っています。人と目を合わせることすら上手くできませんし、見ず知らずの人を前にすると上手く声が出ません。メンタルも非常に脆いので、ディスられた瞬間に心の体力がゼロになり即死してしまう可能性が高いでしょう。
情報の同時処理が極めて苦手であるという弱点もあります。マイペースでひとつのことだけに集中していいならまだ大丈夫なのですが、「あれをしながらこのことを考えろ、同時にこれも覚えろ、早くしろ」と同時に色々出されるとこれが大変。一瞬にして思考がパンクし、何も考えられなくなってしまいます。このクソみたいな能力を活かし、私はコンビニバイトを一日で辞めた経験を持っています。これは私がニートになる遠因となったのですが……楽しい話でもないですし、これは置いておきましょうかね。
ともかく、このような私が即興ラップでバトルなどできるはずがありません。まずもって、敵意を持っていると分かっている相手の前に立つこと自体が無理です。というか、立ってる人のほとんどはストリート感がやべ~勢いですげー出てる方なわけでしょう。二倍無理です。なんとか立ったとしても、先程書いた通りです。相手からのディスを受けた瞬間に心が折れてしまうことが予測されます。ここで仮に折れなかったとして、ビートに乗りながら、的確なアンサーを、それも韻を踏みながら、その場で考えるなど。そんな器用な真似ができるわけがありません。せいぜいステージで泣きながら立ち尽くすのが関の山ってとこでしょう。
うーん、やっぱりどう考えても私がバトルMCは無理だ。十秒くらい考えただけでもそう結論しました。やっぱりストリートのスの字も無い私みてぇな男がラップやろうという発想が無謀なのかしら……私が静かに諦めようとした、その時。私は、自身の音楽遍歴を思い出しました。
そういえば、高校の頃はバンドをやっていました。私はボーカルでした。歌声のデカさだけは人並み以上でしたね。でも、あんまり音程が正確じゃなかったし、音域も狭いっていう残念すぎる弱点もありました。結局バンドは自然消滅したような形になりましたが、大学に入ったら絶対バンドをやるんだと決めていましたっけ。そうやって入った大学の軽音楽部は、すぐに辞めてしまいました。私の苦手なイケてる人ばっかりいて、行きづらくなっちゃったので。
それから、VOCALOIDを使った楽曲制作もやっていました。今も一応その肩書を捨てたわけではないのですが、もう長いこと新しい作品は投稿していません。バンドに比べれば、ボカロPは気軽なものです。なにせ、自分で歌わなくてもいいんですから。それに、私の苦手な人間というものとあまり関わる必要もありません。ただ、パソコンに打ち込む作業が面倒だもんで、結構まとまったやる気がないとできなかったりします。
ボカロを使っていたことからも分かる通り、私の作品は歌モノがほとんどです。ということはリリックを書きます。しかも私は、自身の内面世界に関することをリリックにするのが好きでした。無論それだけじゃありませんでしたけれども。自分の内面にある思いをリリックにするというのは……考えてみると、自分について表現する音楽であるヒップホップと通じるところがありそうです。
そ、そういえば。ラップってあんまり音程を気にしなくていいんじゃないでしょうか。ボーカリストならば当然正確な音程が要求されますが、ラップではそこまでうるさく言われないのでは。サビで歌うパターンとかは当然ありますけど、そうじゃない曲も当然作れるはずです。
トラック、作れるっちゃ作れる。リリック、書けるっちゃ書ける。声、出せるっちゃ出せる。打ち込む手間、ボカロより少ない。即興性、人前に立つ行為、必要ない。ここから導き出される結論。
……私、曲なら作れるのでは。
現在、様々なアーティストが無料楽曲をネットにアップロードしています。無料で見られるMV、無料でダウンロードできる曲。無料アルバムを公開してる人すらいますね。そんな風に、私も曲を公開すれば。実現可能性さえ考慮しなければ、ZeebraさんやUZIさん、それに審査員の方々やモンスターの方々にだって聴いていただけるかもしれないわけです……あくまで理論上はですよ?
別に札束をたらふくいただこうとか、何かをレペゼンしようとか、マイク一本で成り上がろうとか、そういうドデカいヒップホップドリームを抱いているわけじゃありません。何も成せず、何者にもなれず、福岡の片隅でニートやってるような私には、いくらなんでも過ぎたドリームです。
それでも、ヒップホップへのリスペクトは示せるかもしれません。私のようなフリースタイルダンジョンからヒップホップに興味持った奴が。自分でも曲を作りたいと思えるくらいには、ヒップホップが好きになりました、と。それを世間に示すくらいの、ほんのささやかなヒップホップドリームならば。これまで何も成せなかった私にだって叶えられるかもしれない。そう思ったわけです。
さあ、果たして、本当にヒップホップはアホでもできるのか。
今ここに、漢さんの言葉を確かめる実験が始まりました。この氷山の一角から始まった計画がどこへ向かうのか、皆さん、よろしければ今しばらくお付き合い下さい。
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