フリースタイルダンジョンからヒップホップに興味持った奴ダンジョン

黒道蟲太郎

first season

Rec0:イントロダクション

#0:Enter The Dungeon

「今、『フリースタイルダンジョン』がアツい」

 私がその話題を目にしたのは、今年、つまり二〇一六年の二月も半ばでした。

 その日の私は、いつものようにツイッターを眺めておりました。あまり自慢できることでもないのですが、私はニートとフリーターの中間みたいな存在なので、それくらいしかやることがないんですね。

 そこに飛び込んできたのが、その見慣れぬ単語『フリースタイルダンジョン』。

 フリースタイルダンジョンが面白い、今すぐフリースタイルダンジョンを見ろ、フリースタイルダンジョンはいいぞ、エトセトラ、エトセトラ。私は意外とミーハーなので、やっぱり気になります。

「新しいアニメかな?」

 私ははじめ、そう思いました。ダンジョンという言葉がファンタジーっぽい響きだったのもあります。私のフォロワーの方々にアニメ好きが多いのも一因でしょう。

「ダンジョンはともかくフリースタイルって何だろう?」

 疑問は残りましたが、まあいいでしょう。異世界ファンタジー系ってのは、私が普段あまり興味を持たないジャンルです。それでも、盛り上がっているコンテンツなら、中身を確認してみたくなるのが人情。しかも当時、この番組はYoutubeで全話無料配信されていたわけですから、クリックひとつで見られるわけです。

 私は早速、フォロワーさんがツイートしていたURLをクリックしました。内容について予習しておこうとは、微塵も思わないまま。

 そしてそこで見たのは……生身の人間の映像。

 あれ、異世界ファンタジーは? クリックする動画を間違えたかな? 

 はじめ困惑しましたが、何やらかっこいいおじさんが「フリースタイルダンジョン始めるぞォー!」と叫んでいる。ということは……こう結論付けるより他にありません。この番組こそが、皆がオススメする『フリースタイルダンジョン』なのだと。

 意外過ぎる。

 正直な話、私はそう思いました。画面に映っているのは、明らかに私と縁の無いような世界。私が苦手で忌避してきたような人々が、いっぱい集まって何やら盛り上がっているように見える。これに、フォロワーの皆さんが、今、ハマっている?

 ……いえ。彼らがオススメするんですから、きっと何かあるはず。私はこういう点について、結構フォロワーの方々を信頼しています。面白いコンテンツがあれば全力で推し、つまらないそれからは素早く散るか、あるいはメタクソに叩くような方々です。そんな彼らが全力で推すのには、何か意味がある。

 というわけで、まずは見てみましょう。強そうなスキンヘッドのおじさんによると、どうやらこの『フリースタイルダンジョン』、フリースタイルラップバトルという行為によってラッパー同士が勝負をする番組らしい――って、ちょ、ちょっと待って下さい。ラップって、あのラップですよね。『東京生まれヒップホップ育ち、悪そうな奴は大体友達』ってやつ。それで、バトルをする?

 咄嗟に浮かんだのは、某ギャグ漫画に登場したラッパーのキャラクターでした。確か彼も、即興ラップで主人公とバトルをしていたのを覚えています。あ、アレって実在する文化だったの?

 ともかく、なんとなく分かってきました。これからラッパーふたりが舞台に立ち、即興でリズムに乗って相手の悪口を言い合う。それで審査員に認められた方が勝ち。恐らくそういうバトルが繰り広げられるはずです。

 そして番組側の説明によれば、バトルに挑むのは『チャレンジャー』と呼ばれる若きラッパー達。それを迎え撃つのが、五人の実力派ラッパー『モンスター』。ダンジョンを進むように順番にモンスターを倒していき、バスローブのラスボスを倒せば賞金獲得と。

「で、それは面白いのだろうか?」

 そこまで理解してもなお、私の疑問は消えませんでした。

 今にして思えば疑り過ぎかもしれませんが、仕方ないと言わせてください。画面に映っているのは、私とは真逆の人種っぽい、なんかワルそうな人々。彼らのやる音楽ジャンルは、私がこれまでの人生で全く興味を持たなかったヒップホップ。

「とりあえず五話まで、できれば九話まで見てほしい」

 懐疑的態度の私に、フォロワーの方々はそうおっしゃいます。五話まで、九話まで。簡単におっしゃいますが、それもまあ結構なハードルです。世の中のアニメ好きは『三話切り』とかしますからね。三話までで面白くなかったら切る。これから面白くなるかも分からない番組に、貴重な娯楽時間を二時間も三時間も割きたくないのは分かります。

 でも待ってください。私は限りなくニートなのです。社会で活躍する方々に比べ、時間は有り余っています。どうせ面白いこともないのですから、二時間や三時間くらいテレビ番組に捧げても同じこと。

 ここはひとつ、騙されたと思って視聴しよう。

 私は意を決し、番組を見始めたのです――。




 ――こうして、私、黒道蟲太郎の小さな冒険が始まりました。

 暗い深い地下の奥底にある迷宮。ヒップホップというダンジョンを旅する冒険が。

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