大人のためのなつかしい春。

結婚を控えた男が、カメラ片手に母校を歩く……
これだけでもうなんだか胸に来るものがあるのですが、読んでいくとなつかしさと切なさが溢れて止まらなくなります。
ストーリーも綺麗にまとまっている上に「ああ〜そっちか〜!」というような仕掛けもあって見事なのですが、特筆すべきはその描写。
見えます。感じます。なつかしい日々を、すぐそこに。
学校独特の静けさ、扉や壁の色、傷、光、影、机の匂い、湿度、空気の声まで。
手に取るように、こんなに鮮やかに感じられる文章が、ほかにあるでしょうか……
もう戻らない春を、私たちはこの作品で感じることができるのです。
春。新しく、儚い季節。
思い出と現在、そして未来に思いを馳せながら、心のレンズを覗いてみてはいかがでしょうか?

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