【NEW】ヨンダ編(十)レビューを書いて、自分が上達する方法の考察
さて前回更新の『(九)久々の更新はレビュー活動のおしらせ』で、最近は(2017年4~5月)は読者企画に参加して、批評っぽいレビューをやってるよ、ということをお伝えしたわけだが。
その前回で予告めいて書いた、「レビューを書くことで、自分が書き手として上達する」ことについて今回考えてみたい。レビューやら批評は相手/他の読者のためでしょ? とか思わずにお付き合いいただきたい。
なお、けっこう七面倒くさいことを書いているのだが、これは別に、レビューを書く行為のハードルを上げたいわけではない。むしろ下げたいと思っている。レビューを書くことに、自分自身に返ってくるインセンティブもあるのだということを提示して、レビューの動機付けをしたいのが本心だ。そのことはまず示しておきたい。
レビューを書く、ということには段階があって、まず意識せねばならないのは、「レビューを書く(かもしれない)ぞ」という認識を持って読書するということだろう。
この意識があるなら、ざらざらざらーっと最速で流し読むような読み方にはならない。なってはいけない。作品の良い点や悪い点を見極めるために、まずは丁寧に読むことを心がける、ということだ。
この姿勢を持つだけで、自身の向上への第一歩となる。
丁寧に読む、ということは、自分にインプットされる情報の質が上がるということでもあるからだ。
雑誌記事やらSNSやらで、クリエイターが「良いインプットがないとアウトプットも良くならない」みたいなことを言っているのを見聞きした覚えはないだろうか? インプットとはそういうことで、自分がアウトプットするための材料の仕入れみたいなものなのだ。
丁寧に読めば、書いてある文章の細かなことが分かる。言葉の係りや意味の連なりと言った文法的なものも、作者が一言に込めたわずかな意味も。丁寧に心を配られた文章の意味や魅力を十全に読み取るには、負けないくらい丁寧な読み取りが必要なのだ。
レビューを書く姿勢を持つことで、まず丁寧な読み取りを心がける意識が生まれることだろう。
そういったものが読み取れるようになり、それが自分の中で“馴染んで”くると、今度は自分でも丁寧な文章が書けるようになってくるものだ。
逆を言うと、丁寧に読むことが出来ない人は、いつまで経っても文章が粗い、なんてことにもなる。
自身向上の第一歩は、まずこの、インプットの質を上げるというところから始まるのだ。
そうした「丁寧な読み込み」をしていくと、作品を読みながらふと、「おや、これはなんだ?」と疑問に感じることがある。商業ベースのプロの作品でそれを感じることは少ないのだが、さすがにアマチュアの作品が集まるWeb小説の世界では、そういう疑問が多々あるものなのだ。
例えば、ある人物が初めて登場した時に、「おや、この人は誰だ」と思ったとする。なにやら唐突に人名が出てきたが、初登場だし、どんな人なのか説明する文章は見かけなかったが……といった具合に。
この〈誰だ?〉という“読者としての”疑問を大事にするのだ。それが書き手としての自分自身のためにもなる。
〈誰だ?〉となったら、それは何故かを探り当てようとする。
〈ある人物〉について、説明はあるか?
それを探してみる。このように――
説明がまるでなかったなら、それは説明忘れという作者のミスだ。他にも同様のことがあれば、この作者は「自分が知っていることを読者は知らない」という基本的な認識がおろそかなのだろう。これひとつだけだったら単純ミスだろうが、可能性としては、改稿を重ねていくうちに登場タイミングが元の原稿からズレてきて、こんなことになっていることもあり得る。そこは注意しておこう。
説明があっても〈誰だ?〉と思ってしまったなら、それは説明が悪い/足りないということか。情報量が少なすぎて〈誰だ?〉となっているのなら、それは描写を厚めにすればいいだけだな。だが一気に説明するのではなくて、情報を小出しにして読者の興味を引っ張る手法ということもあり得る、だとしたら先々注意しておこう。
――こうして丁寧に〈何故だ?〉の答えを探していくことで、作品への読解も深まるし、また、探り当てた原因を、自分自身にフィードバックすることも可能になるのだ。見つけたミスを、自分が書く時にやらかしてしまわないように気を付けるようにしよう。
勿論、まったく逆に、自分が〈感動・感激〉する場面にも出会うことだろう。自分が何に心を動かされたのか、それは記録・記憶していくといい。それもまた、自分へのフィードバックになる。心を動かされた〈それ〉こそが、自分が面白いと感じるエッセンスであるのだから。〈それ〉を、自分の作品でも作り上げようとすることが正しい筋道になるのだ。
ただし丁寧の度合いは慣れにもよるので、こういう読み方をし始めてすぐに、ぐいぐいと深いところまで掘り下げていくことは難しい。これはもう、読書を重ねていくしかないのだ。丁寧な読書を。
丁寧な読書に慣れていくと、やがて丁寧の度合いが深まるっていく。すると、説明のあるなしやわかりやすさといった、表層に現れる単純な事柄ではなく、少し深いところに隠れている物事にも目が行き、気付きが生まれてくる。
その、気付けるポイントを増やしていくことこそが、自分へのもっとも重要なフィードバックになるものだ。
「おかしいな」と疑問を感じる、「おもしろいな」とポジティブに感じる読解能力を養うことが、丁寧な読書を重ねることで可能になる。そうしたポイントに「気付ける能力」を身に付けることに繋がるのだ。
そういう下地があってこそ、いざ自分が書く時に、「気付いたもの」を反映させるべく努力することが可能になるのだ。
さて、レビュー前に読むことだけで結構な文字数を費やしてしまったが、なるべく誰が読んでも分かりやすいように心がけているので御容赦願いたい。分かる人にだけ分かるように書くならもっと簡単に書けるのだが。
続けてレビュー文を書く時のこと。
レビュー文を書くことが自分のためになるというのは、これはもう、『考えていること、思考を、言語化する』という行為それ自体が、思考と執筆のトレーニングになるのだ、ということでしかない。
ただしこの時、「おもしろかったです! オススメします!」とかやらかしてしまってはダメだ。それではさすがに上達しない。
自分が感じた「おもしろかった」の正体は何か。それを考えて、探り当てて、言葉に表すように試みる。そのことが、自分の執筆能力をもアップしてくれるのだ。
またそれは、自分が何を嫌い、何をおもしろがっているのかの〈気付き〉でもある。また出た〈気付き〉。それは〈発見〉と言い換えてもいいが、つまりこれは、誰かのためのレビューを書きながら、その実は、自分自身の内面で小説のおもしろさを探す旅路でもあるのだ。
冒険活劇がおもしろかった。何故かと言えば、キャラクターがぶっ飛んでいたから。
ん? 自分はキャラさえ楽しければいいのだろうか? ストーリー面ではどうだったっけ……
ということだけでも一つの〈気付き〉だ。この逆もしかり。
恋愛小説がおもしろかった。とても切なくて……あれ、でも最後はハッピーに終わったな。途中でハラハラするところが好きだったのかな? 切ないだけだったら、ラストでもしハッピーじゃなかったらどうだったろう……
こうして何かに〈気付く〉ことで、では別の方向は? と考える方向性を得ることが出来るのだ。選択肢の幅が広がる、と言ってもいい。これからの読書でも、執筆でも、新たに得た選択肢によって、読み取ろうとする要素の幅が広がってくれる。それは読書体験自体を広げてくれるし、執筆できる作品の幅も同様なのだ。
こうした自分の感性を見いだすには、レビューのような形で「言語化しようと試みる」ことが手っ取り早いのだ、実は。単に思考・思索を重ねるだけでもこれは達成出来るのだけれども、書いて形に残そうとする方がいい。楽だから。
そして、読んでいる時には、こうした幅を獲得するような気付きは得られにくい。やはり、今読んでいる物語の形を、思考が受け入れていってしまうからだ。そこから飛び出す幅を得るのは、読み終えて反芻する時でないと難しい。その反芻に、レビューを書くという行為はピッタリなのだ。
また、すでに分かっている自分の感性に基づいた感想を、言語化することにも意味はある。
言語化しようとする時には、思考はおおむね「なにが、どうなったことで、それを理由として、このように感じた」といったテンプレートを辿ることになるかと思う。「主人公が、よく動いてピンチを脱したことで、物語にも躍動感が生まれて、おもしろかった」という具合だ。
感性として「自分はこういうの好きだ」と理解しているつもりではあっても、具体的な言葉にしようとするとまた違う感触が得られるもので、例えば「一口にピンチを脱する主人公が好きだといっても、自分はそこに、仲間との協力がある方が好きなんだな」ということにもなる。これもまたひとつの〈気付き〉なのだ。
こうして、丁寧な読み取りと、感じたことの言語化、二つの段階を意識することで、レビューを書くことは相手のみならず自分自身のためにもなる、という考え方を提示してみた。
実際、自分で現在行っているレビュー活動の中でも、このトシになってまだ〈気付き〉の余地があることに驚いたものだった。
カクヨムの場合、オススメとして書くようにというルールがあるので、ネガティブポイントの指摘はしづらいが、読み取りの時に気付く分には自分にもフィードバックできるはずだ。
そんなわけなので、書き手諸氏。
レビュー書こうぜ。
(とくにオチはありません)
カクヨムでヨミカキ。 久保田弥代 @plummet_846
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