幼なじみがスイカになりたいという。
比喩とか冗談ではなく、本気で。
ここまでならよくある(?)不思議ちゃんの話かもしれない。
「いちごになりたいの」とか「レモンになりたい」系の女の子は過去にもいた。
ところが彼女は、生来の真面目さや能力も手伝ってか(いやそんなの関係ある? なれる? スイカ とか言い出してはいけない)本当にスイカになってしまうのだ。
私が好きなシーンはスイカノジョを保温機能付きリュックに詰め込んで誘拐するシーンだ。好きな女性をリュックにしまって自転車を漕ぐなんてロマンチックでしかたない。しかも彼女は意思を持ったまま、生きてる。喋れる。
……ちょっとサイコな香りですね。サイキックラブです。
スイカ。可愛い。正義。これに尽きると思います。
騙されたと思って一度読んでみてください。
切ない夏の思い出を、どうぞ。
「かにみそ」というホラー小説があります。
ここで商業出版されているホラー小説のネタバレを語るつもりはないのでストーリーの話は割愛します。言いたいのは、その小説に喋ったりテレビを見たりする蟹が出てくるということです。見た目は妙に大きいだけのただの蟹。でもその蟹がとても愛らしいんです。面白くていい奴なんですよ、すごく。こういう友達欲しいなって感じで。普通に人とか喰うんですけど。
この小説を読んだ時、その「かにみそ」のことを思い出しました。
この作品の中で、主人公の幼馴染はスイカになります。「スイカみたいに〇〇」という逃げ道は一切ありません。完膚なきまでにスイカです。丸くて緑色のアイツです。そして、そのスイカになった彼女が実にかわいらしい。スイカなのに。映像にしたらどうしたってシュールギャグなのに、文章で読むと愛くるしくてたまらない。小説でしか成し得ないその不思議な魅力は、瞬く間に読み手を虜にしてくれます。
でも、スイカです。
主人公は人間で、彼女はスイカです。彼女が魅力的に書かれれば書かれるほど、その事実は主人公および読み手に重くのしかかります。そして、やはり彼女はスイカだったと、分かってはいたけれど分かりたくはなかった事実をつきつけられた時、意味深なタイトルが読み手の心に突き刺さります。
意味不明なほど理不尽なのに物語に入り込んでしまい、笑えるほどシュールなのに真っ当に切ない。内容から読後感まで、とにかく不思議な小説です。是非ご一読下さい。