心だけはどんな時代をも覆うことなく気高かった。

万葉の時代。あの歌詠みの頃。
兄弟も親子も争いの渦の中に置かれ
誰もが裏切りに疑心暗鬼となる、悲しく美しき時。

中大兄皇子という偉大な父を持ち、時代に翻弄される若者がいた。
志貴皇子。第七皇子ゆえ、自由に見えた彼の行末。

彼を慕う豪族の雄高との、わずかに心通わせる時間。
片耳に下がる翡翠の勾玉は
高貴で美しき新緑の色となり、雄高の心を捉えていく。

芽吹いたばかりの早蕨を、私も愛でてみたいものだ。
二人が語り合った山野は
果たして何度、四季を繰り返しているだろう
今もそこに似合った色が漂っているだろうか。

作品が落としていった水紋を
幾つ拾い集めたなら、その思いに辿り着けるだろうか。