群青のアトリエ

作者 如月芳美

78

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★★★ Excellent!!!

注意欠陥・多動性障害(ADHD)を抱える少女が、周囲の人とぶつかりながら、自分ともぶつかりながら、足掻くように少しずつ成長していく物語です。

少女は絵を介して自分の居場所を見つけて前に進みはじめます。
でも、その進み方がくだり坂を転がり落ちているような感じで、あちこちに怪我をするような痛々しさを伴っています。とにかく不器用な少女なんですよね。

ところが、読み進めていくうちに少女の進む道がくだり坂ではなくなっていきます。のぼり坂を突っ走っているような印象に変わっていくんです。そののぼり坂もなだらかではなくて、少女はやはり必死で走るしかありません。いつでも必死です。

こういう物語も一種のサクセスストーリーではあると思うのですが、登場人物が魅力的で、1話読むとあとはどんどん引きこまれていきます。みなさんもぜひ読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

誰と、どんな風に出会うか。
全ての人の人生において、それは大きな意味を持ちます。
誰一人とて同じ個性を持たない世界で、他人と関わることがなければ、自分がどんな形をしているのかも分からない。
凹んだところを埋め合うように、寄り添える形の相手と一緒にいられたら、自分の持つ可能性のパワーは何倍にもなるでしょう。

ADHDという特性を、とても丁寧に描いた作品です。
どこかの誰かが決めた「普通」の枠組みから大きく外れてしまった主人公・瑠璃は、馴染めなかった学校の外に居場所を見つけます。
ありのままを受け止めてくれる澤田先生に、逃げることなく正面からぶつかってくれる湊人。
二人と出会わなかったら、瑠璃は興味の方向へ突き進むことも、相手の気持ちを慮ることも、きっとできないままだったと思います。

澤田先生のアトリエの空気感が素敵です。
専門的な画材や画法の知識も、この物語に奥行きと彩りを添えています。
湊人とのやりとりは、めちゃくちゃニヤニヤしました。もう一生やってて欲しい……笑

子供が大人になる道筋は、みんな同じでなくとも良いはずです。
絵の世界で身を立てていくことと、瑠璃自身が大人になること。凸凹の道でも、前へと進むパワーを感じました。
爽やかで、心温まる読後感。読み応えのある、素晴らしい作品でした!

★★★ Excellent!!!

 ――面白かったです――ここで終わると語彙が無いといわれちゃうので……

 とある画家の先生を通じて知り合った、ちょっとシャイなボーイと、ADHDなガールの、ガールミーツボーイの物語。

 主人公の女性は、ADHDといわれます。でも、思い込みがほんの少しだけ強い、注意がほんの少しだけ散漫な、少しだけ自己中心になってしまう、本当に普通の喜怒哀楽が激しい女の子なのです。
 だから、周りの人達が気長に付き合ってあげる事さえできれば(これって、普通に友達付き合いする時もそうですよね? ちょっと趣味が変だから、自己中だからって、拒まないでしょ)普通に、相棒になれるんです。

 絵画の世界では額縁(フレーム)の中でしか描かない。でも、そのフレームの外をイメージ出来るかで、絵の深さが全然違ってくる。その部分は小説と同じだと思います。
 主人公もADHDの性質としてフレームの中でしか自分の考えを持てない。でも、経験を積んで、少しづつ自分のフレームを広げて行ければ、そして世界全てがフレームになれば、それで良いんです。

 読んで、ほっこり、にやり、とする作品です。

★★★ Excellent!!!

主人公の瑠璃は、不登校になっているADHDという特徴を持つ少女。
居場所を求める彼女は、図書館で色鉛筆を落としたことをきっかけに一人の男性に出会い、絵の世界を知ることになります――

瑠璃は自分には居場所がないと思い込み、自分のことを中心に考えがちです。
そんな彼女が関わっていく絵、特に色んな画材が出て来て面白いです。
パステル、アクリル……名前は知っていても、細かなことまで知らない画材の世界が物語には広がっています。

恋愛の面でも、瑠璃は絵の先生である澤田、彼の弟子である湊人との間で揺れているようでそうでもないようで……彼女の絵の才能の行方とともに、恋の行く先も瑠璃が変われるのかどうかも気になる、優れた長編となっています。
特に後半は、瑠璃が関わる作品が完成するのかどうかわからずドキドキでした……!

読みやすい上に、毎話続きも気になる構成ですので、ぜひ読んでみてください。
朝読小説に応募されている作品で、個人的には、朝に少しずつ読むのにぴったりな作品だと思いました。

★★★ Excellent!!!


印象的なシーンが絵画のようにちりばめられている。
吹き抜けの先生のアトリエ、瑠璃と湊人がよく行く吊り橋のある公園。
画材の種類と用途、そして色の名前の多いことに驚かされた。

確かにADHDの人は生きづらいだろう。
だが、自分の話ばかりする人って結構いるし、我儘や嫉妬深い人だって五万といる。そういう特徴的な部分が顕著に出てしまっているが、彼女に近い人は実はあちこちに転がっている。
人はみな感情をコントロールすることに苦労する。

きっと同学年のみんなね、自分の世界の中で折り合いをつけていくのに必死なの。
だから異質と感じたことに容赦ない。自分たちはイヤでも周りに合わせているのに、なぜあなたは自由なの?という視線。

でも、主人公瑠璃が逃げざるを得なくなって、連れ出してくれる人がいた奇跡。
発達障害を持っていても、人として本気で接してくれる人がいたことの輝き。
ただ当惑しているだけではなく、近づいてくれた。それは彼女に、すきなことにまっすぐ進む魅力があったから。

人は誰しも居場所を求めて生きていくような気がする。
居心地がよく安住の場所なのか、挑戦し続ける試練の場所なのか。
自分が何を求めているかによって、選ぶ場所が違ってくるかもしれない。

読み進めるごとにプレゼントが隠されているみたいに、二重も三重ものパイ生地で包まれている物語。
ラストにお約束のラブコメ具合、すっごく可愛かったな。

★★★ Excellent!!!

主人公の瑠璃は、不登校になって以降図書館で絵を描いて過ごしていた。
そこで出会った男性に惹かれ、絵を習い、同い年の少年という相棒に出会い、そして・・・・・・

この物語はADHDの一例について描かれています。
瑠璃の心の内を見ながら、それについても考えさせられてしまうかもしれません。

彼女は受け止められる人がいたからまだいいが、もしかすると、ずっとぼっちだったかも。
そしてそれをどう取るかは・・・・・・


共通設定のある対決作品との事で、相手側も読むとまた違った面白さがあると思いますよ。
ぜひ一度読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

創作することは、自分の外側にある多くのものの中から必要なものを選び取り、濃縮してフレームの中に映し込むこと。
知識、経験。それらから受けた感情や感覚を、自己のフィルターを通して取り込み、咀嚼して形にすること。

この物語の主人公は自分の見えている範囲が自分の全て。フレームの外側を想像できなかった。
しかし、これまで見えていなかった枠の外に思考を広げることで、彼女の目指す「絵描き」に近づいていく。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)。
それは彼女が生きていく上でのハンデかもしれない。だが、この世にハンデのない完璧超人など存在しないのだ。
どんな人物でも何かしらの欠点を持ち、しかしそれと折り合いをつけながら生きて行く。欠点は個性になり得るのだ。

主人公はADHDの診断を受けるのが遅れた。
幼い頃に診断されていれば、彼女が学校をドロップアウトすることはなかったかもしれない。
しかし、彼女には素晴らしいギフトが用意されていた。
色の居場所を把握する能力。色のトーンを把握する能力。
彼女はわずか三歳で、十二色のクレヨンを輪のように並べて色相環を作ってしまったのだ。

秀でた能力も周りが気づいてサポートしなければ潰されてしまうだろう。
しかし彼女はチャンスを掴む。
絵を描くために通っていた図書館で、一人の画家と出会ったことで。

全五十話のうち前半は、主人公の瑠璃が様々な画材にチャレンジすることに終始する。
ただそこに重ねられるのは、移り気な瑠璃の性格。
教室の先輩である湊人との衝突でも彼女の生きづらさが示される。

後半は思春期である瑠璃の感情が重ねられる。
不安定な心はフレームの外側を想像出来ずに、自分を悲劇の主人公にして自家中毒になっていく。
ただ、コミカルな恋愛要素が入ることでドライに話は進む。
噛み合わない青い恋模様に笑わされているうちに、瑠璃は次第に成長していくのだ。
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★★★ Excellent!!!

細かく指定の入った設定内とは思えないほど、のびのびとして面白いラブコメだった。
正直、絵の専門用語などは難しくちょっと分からない所もあったが、その「ちょっと」加減が、想像力をかき立ててくれた所もある。
学生の恋愛もの(いわゆる青春もの)にはあまり共感出来ないたちだが、不思議と如月節には共感出来る。
そんな独特の語り口を持った作品だった。

★★★ Excellent!!!

図書館で絵を描いている女の子、瑠璃。彼女は中学生の頃、学校に居場所が無いと感じて、それ以来不登校になっていました。
だけどそんな瑠璃の絵の才能を、認めてくれる男性が現れたのです。瑠璃は彼のすすめで、本格的に絵の勉強を始めていくのですが……

本作の大きな特徴が、主人公の瑠璃が注意欠陥・多動性障害であること。学校に馴染めずに不登校になってしまったのも、これが原因です。
事ある毎に落ち込んだり怒ったり、感情の起伏が激しい瑠璃。だけど絵を習っていくことで、そして兄弟子の男の子と出会うことで、そんな瑠璃も成長していくのです。

人とは違い、周りに馴染めないと言うのは苦しいです。
だけど上手くいかないことばかりでも、受け入れてくれる人がいるから、ちゃんと向き合ってくれる人がいるから頑張れる。そんな前向きな気持ちになれる作品です。

★★★ Excellent!!!

注意欠陥・多動性障害(ADHD)であり、学校には行かず図書室で絵を描いている少女、瑠璃。
ADHDと言っても、どう言うものなのかよく知らない人もいるのではないかと思います。簡単に言えば、注意力や集中力、感情と言った部分をコントロールする力が弱く、それが問題となって現れる事を言います。
細かな事は本編で語られるのでここでは省きますが、瑠璃のそれは、対人関係に与える影響も少なくなく、先にあげた、学校に行っていないと言うのもそこに起因したいます。

ですがそんな彼女に転機が訪れ、絵画教室で本格的に絵を習う事となります。
そこで語られる絵や画材道具の説明が驚くほど豊富で驚かされるのですが、それ以上に印象に残ったのは人間関係でした。
瑠璃より先に絵画教室に通っている少年、湊人がいるのですが、彼とは衝突してばかり。と言っても、ほとんど瑠璃が一方的に怒ったり落ち込んだりしているのですけどね。
そんな事になったのも、瑠璃にあるADHDの特性が大きいのですが、対人関係のトラブルと言うのは、同生涯を持っていない人だってもちろん起こり得ますし、「ADHDなんだからこれでいいんだ」なんて話でもありません。周りにフォローしてもらう事はあっても、最終的には自分で乗り越えなくてはならないのです。

新しい世界の飛び込んで行った瑠璃が、そこでどんな関係を築いていくのか。彼女の成長を見届けてください。