すこしふしぎな物語は、時代を掬い上げて拡大する

  • ★★★ Excellent!!!

 ――評価とは無縁の、本当の芸術ってものが世の中にあると思っているのだったら誰にも見せずにタンスの中にでも閉まっておけばいい。非現実の王国のようにな。
(本文より抜粋)

『非現実の王国で』を執筆したヘンリー・ダーガーにとっては、狭い部屋の中、独りきりで綴っていた物語こそが自分の世界だったのかもしれない。

 けれど、私は現実の世界を生きている。
 疑うべくもない事実だ。そうでなければ他人からの評価など求めない。欲しがらない。

 人間は社会的動物である、と誰かが言った。
 社会を構築し、その中で他者と触れ合い、役割を負うことで生きるものだ、と。
 だからこそ私は他人にどう思われているかを、どうやっても頭の隅から追い払えないのだろう。

 そういったたくさんの言葉が、この物語を読み終えるまでのひとときの間、泡のように生まれ、生まれ、生まれ続けて今でも残っている。
 読んでいる間も、読み終わった後も、その中に書かれていた『何か』について考える――それこそが、優れたSFの持つ力ではないだろうか。

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