間違い
「君の能力は触れた物が爆発するんじゃない。触れる直前に『君の能力自体』が爆発してそれによって君は無傷で相手は無傷ではすまない。」
違うかい?と男は得意気に微笑む。
悠長に男は弾倉を取り外し弾を込め始める。
私はただ痛みで跪く事しかできないでいた。
能力は見破られ、私はもう常に動けない傷を負っていた。
それでも、ここからの逆転劇を必死に考えていた。
筋書きとしてはこうだ。
私が殺されようとする瞬間にジョンさんがあの男を殺す。
実にシンプルで――――とても不可能なおとぎ話だった。
傷だらけで倒れているジョンさんの意識が戻ったところで、動けるかどうかさえ怪しい。
とても人の一人を殺せる気力が残っているとは思えない。
半ば、もう諦めても良いのではないかと思ってしまう。
一生懸命考えたところで救いはなかった。
常に疲れてしまっていた。
これほどの痛い思いをして一体何になると言うのだろうか?
別に私が殺されたとこで地獄へ行くわけではない。
確実に天国へ連れていってくれる。
両親のいる、友達のいる天国へ。
天国へ行きたくない人なんてどこにもいない。
昔のこの地球だって天国のように住みやすい環境を整えるために必死に働いて、政治をして、天国を築こうとしてきたはずだ。
それが突然、本物の天国ができたものだから誰だってそっちへ行くよね。
「安心しな。天使様は誰でも差別なく天国へ連れていってくれる。そこでは君の家族と友達が君を待っている。」
男は私の思っていることが分かったように言う。
自分の事を自分以上に理解できる人間なんて何処にもいないはずなのに。
跪いたままベルトに刺したナイフに手をかける。
男は常にジョンさんに銃口を向けていた。
間に合わない―――そう直感する。
ベルトからナイフを引き抜き、そのまま振りかぶってナイフを投げる・・・その動作ではとても間に合わない。
目の前の光景がスローになり、頭は必死に考えを巡らせる。
ベルトから挟み込んでいたナイフを鞘ごと取り出す。
そのまま鞘を握り、取り出した勢いで前に勢い良く振る。
ナイフは思った通りに鞘から抜けて、クルクルと回りながら男の首もとに深々と突き刺さった。
だから、無駄だって―――男がそう囁いたように見えた。
無慈悲にも引き金を引いた拳銃から弾丸が飛び出しジョンさんの頭を貫く。
短い間のはずなのにやけに長く感じた時間のなかで、私はただ見ていることしかできなかった。
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