拠点制圧作戦編

アラバマ・ソング

 耳が裂けそうなほど痛い。顔はまるで目の前でライターを使って炙られているように熱く・・・はないがこれまた痛い。

長々と小雨のように降り続けた雪は3cmほど積もってようやく止んだ。風も吹いていないのにこれほど寒いのは人口の減少と繋がりあるかもしれない。

車の騒音も人の賑わいも今となっては懐かしい。


 凍えるほど寒い夜、昔は市役所だった古い建物の前に良いだけ茂っている草むらを挟んで建物の偵察をしている。

ただでさえ寒いのに雪の上で寝そべっている為に体温が雪を溶かしてびしょびしょに濡れると同時に体温も奪われていく。


 左手に単眼鏡を構えて右手をいっぱいに伸ばし、そこらに積もっている雪の塊を掴んでは頬張る。


「入り口は正面の門だけです。監視カメラが両脇に一つずつと門番も二人。交代は不規則のようです・・・ってジョンさんこのクソ寒い中で何やってるんですか。」


「これは昔の人が戦時中に息が凍るほど寒い中で白い息が出ない為の対策。後、淑女なら『クソ』なんて言葉を使わないこと。」


 俺と違い隣にいる準備万端の彼女はシートの上で寝そべりながら双眼鏡を覗いている。

いつもは長い髪を流しているが運動前は邪魔にならにようにポニーテールに纏めている。現に今も括られた髪は地面に着かずに背筋に沿って流れている。


 足はせわしなく絡ませたり広げたりと寒いせいか緊張からか落ち着いていない。

黒いジャージを着た小柄な体型は見かけ通りにすばしっこく、見かけ以上に恐ろしい女性だ。


 しかし、バカみたいな疑問だけど結び損なったような数本の髪がいつも気になる。あれで正しい結び方なのか、それとも・・・どうなんだ?


「ジョンさんも紳士なら女の子の体を舐め回すように見ないでください。」


「真城ちゃんはいつ見ても体に成長の兆しがないね。」


 捨て台詞を吐いて建物に向きなおすと真城ちゃんは俺の足をあの手この手で足蹴りし始めた。

足なのにあの手もこの手もないが体をなんとかくねらながら的確に足を攻撃してくる。

執拗に続けられるそれはもはや狂気の沙汰であり先程の発言は真城ちゃんが日頃気にしていることで言わばタブーであった。

自分で自分のことを「ちんちくりん」だと自称しているのに人に言われると怒るらしい。


 俺の足にダメージがそこそこ蓄積され始めても尚、止める気配は全くない。

流石にこれ以上されると二度と立てなくなりそうだ。

それに万が一にもアリサさんに告げ口されるとただでさえ少ない全ての女性が敵になりかねない。

「分かったよ!すまない、俺が悪かった!」


 ピタリと、ようやく止まった。

ちょっとからかう筈の代償にしてはあまりにも大きすぎる。

ジンジンと痛む足をこれまた雪をかき集めて冷やす。なんて雪は便利なんだ。


 さっきまで目の敵だった筈の雪が今となっては離し難き物だ。

そうか!真城ちゃんはこの事を伝えようとしていたのか!


「今日は大切なことを学んだよ。現代社会では便利な事だけが進化していき本来授かるべき自然の恩地を無視し続けていた。」

「これからは冷蔵庫の代わりに雪を使って節電するし、デザートもかき氷にするよ!この記念日に雪像も・・・」


 振り向くと誰もいない。

アレ?なんて間抜けな声を出して急いで単眼鏡で建物を覗くと若干不機嫌そうな真城ちゃんが2つの死体を両手で引きずり、雪を被せて隠していた。

門の監視カメラはレンズが雪で完全に塞がれている。恐らく雪を投げて上手いこと隠れたのだろう。


 手についた雪をパッパッと払うとこちらを一瞥して建物に入っていく。

急いでマットやら双眼鏡を回収して後に続いた。

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