2ハーヴェスト
唐突に軽い眩暈がして頭を押さえる。
「おいジョン、起き抜けだからって油断してると死んじまうぞ。」
横で銃を構えた男が言う。
長身で色黒で黒いスーツにサングラスをかけた角刈りの男はいつも必要最低限の事しか喋らない。
スーツの上からでも分かる筋肉は誰をも黙らせ、同時に誰をも喋らせる事のできる便利なモノだ。
「分かってるよクマ。何時もの頭痛がしただけさ。」
そう言い訳してこちらも銃を構え直す。
遠い昔、このイカつい男が「自分の事を【クマ】と呼んでくれ」と言われた時は困惑した。
名に恥じぬ強靭な体ではあるが色々なキャラの・・・黄色かったり、リラックスしているあの・・・
とにかく、先入観が強すぎる。それをクマは分かっていない。
床も腐食した寂れた団地の一室はカビや湿気の嫌な臭いが漂っていた。
死体の腐臭がしないだけまだマシではあるが。
目の前の居心地の良い椅子にロープで何重にも縛り付けられている男は、屈強なクマとそのオマケの俺から銃を突きつけられている中でなお沈黙している。
「お前ら【天国教】の本拠地は何処にある?」
クマが幾度目かの同じ問いをする。
それに答えず黙秘し俯き続け体を横にゆっくりと揺れていて神経に触るヤツだ。
信者の男は痩せ干せた体に使い古した服を着ており、それほど地位は高くないようだが久しぶりの収穫だった。
こいつらは虫のようで、普段はそれほど見かけないが石をめくるとうじゃうじゃいるような奴らだ。
「そろそろ腕が痺れてきた。俺達は銃を構えるのが限界にきたらソイツを撃ち殺すって昔から決めてるんだ。」
銃を信者のこめかみに強く押し当てる。
事実、本当に腕がキツくなってきた。重い拳銃をいつまでも頭に突きつけて何を考えているか分からない男の出方を待つのは疲れる。
しかし、顔に出てしまっては威厳がなくなる。
二人でこの男を追いかけ回した中で一切能力を使わなかった事から使えないと暫定しているが、
能力の行使が出来る出来ないにせよ用心に越した事はない。
隣のクマは「いつまでもお前を撃ち殺すこの銃を下ろさないでいられるぜ?」なんて事を言わんばかりの顔をしている。
サングラスではっきりは分からないが。
ふと、信者の口から体液が漏れ出す。
「拭いてやれよジョン。」
普段は置物と見分けのつかないクマがよく喋る。
この収穫に嬉しいのはクマも同じの様だ。
「ご冗談をクマさん。」
口から赤黒い液体は止めどなく流れ俺達は異常に気付く。
すぐにクマは銃を下ろし信者の口内を覗き込む。
「噛みつかれるぞ。」
「いや、その心配はない。」
クマは向き直って言った。サングラスの下から感情が滲み出る。
「死んでいる。舌を噛み切った様だ。」
限界にきていた腕を下ろす。
死体に向かって銃を向けていた事実は頭にくる。
「これからは銃を口に突っ込んで尋問しよう。」
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