終わる歯車仕掛けの世界
シナミカナ
終わりの始まりの一部始終
1モダンアート
「ジョン!起きてんのか!」
「ああ。」
大きなアクビを一つやり終えると上から声が聞こえた。
といってもここはホコリとカビ臭い寂れたアパートの一室で上は天井だ。これだけよく声が通るなら騒音対策もクソもない。
ベストの胸ポケットからタバコとマッチを取りだし火をつけると目の前の天井を突き破り男が悲鳴をあげて落ちてきた。
辺りに埃が舞い、煙と一緒に思わず咳き込む。
あまりにもボロいアパートとはいえ、こんな欠陥住宅で良いのだろうか?
いくら、人類の99%が死んで管理するものがいなくなったからと言ってこんなずさんな住宅は許されるわけがない。
いや別に、訴える相手もいないし第一俺が借りているアパートでもない。
適当に探して見つけたそこらに転がっていた木製の椅子は中々に座り心地がよく、いきなり男が天井を突き破り落ちて来ても根っこが生えたみたいに立ち上がれないでいた。
もし、彼が少女なら世界を巻き込んだ戦いやら、空に浮かんだ城を探す冒険か何かが始まっていたのかもしれない。
2メートルは落ちたというのに男は口をパクパクとしているが元気なもので俺と違って立ち上がろうとした。
落ちたというより逃げるために自分から突き破って落ちてきたのだろうか。
誰から?『少数派』で最も恐ろしい上の奴からだ。
男がさっきまで天井であったはずのボードの瓦礫を押しのけると上を向いて何かに気づいたように必死で横に転がった。
穴の空いた天井から浅黒い拳を握った筋肉質の右腕出てきたのと同時に、鼓膜が破れんばかりの轟音と青白い閃光が爆発のように次々と落ちてきた。
男は間一髪でかわしたようでさっきまで転がっていた場所には焦げ跡と、天井と同じような穴が残っていた。
「おい、ジョン!何やってんだ!」
「分かっているよ。ちゃんと働くって。」
このままでは上にいる男までもが天井を突き破って落ちてきそうだ。
手を膝に添えて「よっ」と立ち上がると意外に体は軽く感じた。
落ちてきた男はいつの間にか出口を求めて扉に向かって走っている。
「おい、誰が逃すと言ったさ。」
吸っていたタバコを手で弾き飛ばす。タバコはクルクルと回りながら放物線を描きながら落ちていく・・・
その刹那、背中に手をかけベルトに挟んでいたナイフを一本取り出す。
刃渡りが十五センチを超える鞘に入ったサバイバルナイフだ。
右手で鞘を持ち、それを居合いのように腰の横に持っていく。
男の姿は消えかける寸前で扉から逃げ遅れた右腕だけが見える。
回り続けるタバコは床を焦がすように落ちて跳ねた。
それを合図に渾身の力でナイフを打ち付けるようにして投げる。
ナイフは右手に握ったままの鞘を離れて一回転半回り男の右手の甲を貫いた。
扉の向こうから甲高い悲鳴が聞こえる。
ナイフは手を貫通し、骨をかわして木製のドアにまで深々と突き刺さった。
ナイフが刺さった手だけを見ているとまるで昆虫をピンで刺した標本のようだ。
「やったか!?」
やっとこさ降りてきたのか反対の扉から声が聞こえる。
「殺ってはいないさ。」
また同じ椅子に座り、胸ポケットからタバコを取り出し火をつけた。
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