3御披露目
館のエントランスに入ると待っている人がいた。
ディーラーとミッちゃんとアリサさんと真城ちゃんがソファーに腰掛け期待した面持ちで俺を見る。
一瞬、プレッシャーで後ろに退いたがここまで来たのだからと皆のもとへ向かう。
「ジョンさん!それが噂のアレですか!」
真城ちゃんがスーツケースを指差しながら一番に食って掛かった。
これが出来たと朝一に連絡を入れたから知っているのは当たり前だが、ずっと待っていたのだろうか?
「どうやらそのようですね。電話から数時間待たされましたが、その事を問うのはやめておきましょう。」
アリサさんがティーカップを優雅に傾けながら話してはいるが、チラチラと一番ケースを気にかけていた。
ミッっちゃんはモゾモゾと落ち着きのない様子である一方、ディーラーは書類に目を通しながらコーヒーを飲んでいる。
もう勿体ぶることもないだろう、とケースを机の上におき鍵に手をかける。
「お待たせてしてすまない。俺の頑張りを話したいがその前にこれの完成度は――――」
「「「いいから速く!」」」
彼女たちの声と共に勢いよくケースを開けた。
そこには、丁寧に畳まれた黒い衣装が2着仕舞われていた。
真城ちゃんとアリサさんが喉から出る手を押さえながら、ミッちゃんに視線を送る。
「で、では行きますっ!」
ケースから同時に2着の衣装を掴みとり机に広げて並べた。
そこには美しく完成度の高いメイド服が並んでいる。
おっーー!、と真城ちゃんとアリサさんが歓声をあげる。
ベースが黒のゴシックでありながらポイントには白が使われており、スカートのレースはあまり主張せずゴシックの印象を保ったまま可愛さがあった。
衣装のサイズは二つとも似たような寸法で片方だけレースが一本だけ多い。
着る人は決まっていた。メイド長のミッちゃんとその側近のアリサさんだ。
ミッちゃんが一ヶ月ずっと考えていたメイド服をそこからまた一ヶ月の時間をかけて形にした。
制作中に館で俺と目が合うと悩ましげな顔をするミッちゃんに「まだです。」と答えるのは中々に辛かった。
その一番気にかけていた本人は今は笑みを浮かべて嬉しそうにしている。
「良いです!素晴らしいですねジョンさん!ありがとうございます!」
一本だけレースの多い自分のメイド服を抱き締めながら半分笑って半分泣いていた。
「いえいえ、どういたしまして。」
「おいおい、お前は届けただけだろう。」
と、書類を片したディーラーから余計な横槍を入れられる。
「分かっているよ。ミッちゃん、ちゃんとその言葉は彼女に伝えておくよ。」
と、ミッちゃんがいた場所に目をやると常にそこにはいなかった。
それどころか、アリサさんと真城ちゃんまで消えている。
衣装と共に消えているっていうことは着替えにいったのだろうか。
メイド姿のミッちゃんが見れる。それを原動力にしてこの一ヶ月、衣装作りをサポートした。
俺とディーラーしかいないエントランスで静寂が訪れる。
「それで、彼女はまだ病院に?」
ディーラーが空にしたカップを机に置いてそれとなく聞いてくる。
「ああ。大丈夫、良くなっているよ。」
そう答えると再び静寂となり空気に我慢できずに俺は席を立った。
疲れた足取りで階段をゆっくりと上がっていく。
三階からは彼女たちの楽しそうな声が聞こえてきた。
「なんだ、メイド姿を見ていかないのか?」
ディーラーは意外そうな顔で言う。
見たくない男なんてどこにもいないさ。
「今日は疲れたから寝るよ。」
おやすみ、と声をかけあう。
どうせ明日から毎日メイド姿を見れるなら慌てることもない。
とりあえず部屋に戻ってゆっくり休もう。
「あれ?ジョンさんはどこに行きましたか?」
予想通りメイド服を着こなしたミッさんが一人三階から降りてきた。
辺りを見渡してはいるがジョンはいない。
「あいつなら疲れたと言って部屋に戻ったよ。」
そう言うとミッさんは残念な顔をしながら呟いた。
「一番に見てほしかったのに。」
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