不完全で完全なスポッターと狙撃手
「ああ、クソ!今日は天国教の黒ミサかなんかなのかよ!?なんでよりによってお嬢と一緒の時に!」
「まあ、奴らのミサも天使を崇拝しているなら黒ミサではないでしょう。それより、早く病院に行くわよ。」
日中のクソ暑い昼間。昼飯を食べて街中を散歩・・・いや、散策しているとお嬢とバッタリ会った。
奇遇だなぁ、なんて思っていたらお嬢が似つかわしくなくダッシュで駆け寄ってくる。
いつの間にハートを攻略しちゃったのかな?なんて馬鹿な事を考えているとお嬢のさらに後ろから走ってくる数十人の人影が見えた。
ファンクラブなんて優しいものじゃないらしい。まぁ、よく見なくても分かる。クソッタレ天国教に追われていた。
気付いた時にはお嬢と足取りを同じくして走り出す。俺は半泣きだ。
「で、でもなんで病院なんだ?今すぐにでも身を潜めたほうが良いんじゃないか?」
「良いから走りなさい。今の貴方じゃ昼間にあの数を処理できないでしょ。」
確かにそうだと納得して、ただ走った。
なんでお嬢はお嬢様みたいにいつもはおしとやかで運動なんて、てんで駄目みたいな雰囲気をしているくせに普段から鍛えている俺と同じ足並みで走れているのかという疑問が払しょくできない。
鍛えているぞ。絶対に。こっそりと。
後ろから車が走ってくるエンジン音が聞こえてきた。
4WDでボンネットが格ゲーのボーナスステージで使われたかのようにボロボロの車が天国教一行の先頭に躍り出る。
ミンチにされる前に後ろを振り返りエンジンを強制的に切る。
車は特に派手なクラッシュもせずに徐々に速度を落として止まった。
ついでに数人が拳銃を抜こうとしたのも目視し使えなくしてやった。
もう3kmは走っただろうか流石に全力疾走ではバテてきたところでようやく、病院の敷地内に入った。
病院のガラスの自動ドアが閉まっている。
電機は通っていないから開かないだろうな。
ガンベルトから拳銃を取り出し、3発ガラスに打ち込むとひび割れた。
そこにタックルをかまして破り入る。
ガラスを突き破った勢いで膝をつきそうになるが耐えてなお走る。
「ああ、クソ!ついたぞ、お嬢!どうすりゃいいんだ!」
「4階の病棟に入り込めば大丈夫だから階段を駆け上がるわよ!」
これが本当の死ぬ気というやつなのかもしれない。
使えないエレベーターをしり目に階段室のドアを開けてひたすらに上る。
やっと4階について病棟を見るとここに逃げ込んだ意味が分かった。
ああ、隔離病棟か。
病棟を隔てる頑丈なドアに触れる。
これはスイッチを押して電気で開ける物だが、基本の作りはアナログで俺の能力なら解錠と施錠はできる。
だが、奴らは電気が通っていないからいくら「向こう側」から開けず「こちら側」からしか開けないつくりのドアも大丈夫だ。
流れるように解錠して、施錠する。
限界なんてとっくに超えた体を休ませて上がった息を整えようと努力する。
ああ、クソ、なんで巻き込まれてんだ俺は。
「ああ、陽気なお昼のお散歩を台無しにしてくれたなお嬢。」
「・・・ごめんなさい。」
いつもと違う反応に思わずお嬢を見る。
彼女は震えていた。あの、自分以外は価値がない人間のように見ている彼女が。
特に俺を見るときはクソを見ているような彼女が。
「すまない、俺の気が動転してたな。君が無事で良かったよ。」
「一人であいつらから逃げるのは不可能だったわ。本当にありがとう。」
一服したくなったが抑え込む。ここは病院だから・・・なんてジョークはなしで彼女はまだ震えていたからだ。
お嬢が膝をかかえて顔を伏せて話し出した。
「あいつらの目を見た?天国教の。なにが『この辛い世の中から全員を天国に逝くために殺す。』よ。あいつら私の貞操まで狙ってたわよ。犯してから、それからスローガン通り殺す気だった。」
「・・・なんで、あんなところに一人で?戦えないくせに。」
「今更思い出した忘れ物を取りに帰っていたの。古い写真一枚だけよ。それだけのために殺されかけた。」
お嬢が大事そうにポケットから年期の入った写真を取り出す。
そこには、軍服を着た男とドレスを着たお嬢様な女性が写っていた。
「ただのアンティークな写真じゃないな・・・これは誰だ?」
「お父様とお母様よ。大切なもの。」
ああ、道理で女性がお嬢様なはずだ。だって彼女はお嬢の母なんだから。
「大事な写真にしてはところどころ破けているのは?」
事実、古い写真が故の劣化だけではなく破れ、濡れ、焼けと数々の跡がその写真にはあった。
「二人の顔が思い出せないとか思い出に浸りたいとかじゃなくて、その写真はお父様が戦時中にいつも軍服に入れて持ち歩いていたの。」
「ああ、戦争に行く前に撮った写真だったのか。でも、なんで忘れていたんだ?」
それはーーーと、お嬢が言いかけたところで突如鉄を叩く音が鳴り響く。
見るとドアの向こうで何とか開けようと天国教が力を合わせていた。
ああ、クソッタレめ。美しい協力作業だな?
鉄のドアの横についている小さな強化ガラスごしに拳銃を撃ってみるが、全体がクモの巣のようにヒビが入っただけだ。
「安心しろよ、お嬢。あのクソッタレ共はウィンナーとミートボール二つとをさよならしながら死んでいくことになる。」
こうは言ったが、見ているとだんだんと人数が減っていくぞ。連絡をする気なのか、能力を使って奇襲を仕掛ける気か。上からか。下からか。ドアを突き破るのか。
拳銃の弾数は6発と1マガジン。ナイフは売るほどあるけど、この数での白兵戦じゃ数で押しつぶされる。
どうするか・・・バリケードでも築いて日が暮れるのを待つか。
「もう、大丈夫よ。彼とコンタクトが取れた。」
「彼・・・?でも、アイツと連絡を取ったってただの狙撃じゃ・・・」
ドアの向こうから爆発音と悲鳴が聞こえた。
「もう仕掛けてきたか・・・!」
「違う。・・・いや、合ってるけど。大丈夫ここまでは貫通していない。そのまま1m誤差以内で撃ち続けて。」
独り言のように誰かに囁くようにお嬢がそう言うと、
リズム良くハイテンポに悲鳴と何かが散らばる音がこだまする。
ちらりとひび割れたガラス越しに向こうの様子を見ると血に染まった部屋とその壁から外の風景が少し見えた。コンクリのかなり分厚い壁なのにだ。
「ワオ、奴さん中々キレているなアッ!」
一発がこの区画まで貫通して飛んできてビビる。
下手に動いたら死ぬぞこれは。味方の援護射撃なのに。
「うん、アイツらも気付いたみたい。『”!#≫と私を挟んだ場所に一人隠れている。」
銃撃が鳴りやむとまたガラスかなんとか覗き込むと確かに、クソッタレが一人怯えて隠れている。
でも、このまま撃つとお嬢まで巻き込まれないか?
なぁ---と、お嬢に言いかけると穴の開いた壁の向こうから僅かに見えたビルの屋上で何かが反射した。
それと同時に発砲音。クソッタレは男から女になって死んだ。
発砲音は外から聞こえた。
おおよそ1kmは離れているビルから10cmほどの穴を通してさっきのよりも小口径の銃で撃ったのか。
「うん。後の逃げているやつも片づけて。・・・うん。二人ともお疲れ様。ありがとう。」
疲れた顔をするお嬢。いつもと口調が違うなと今更気付いた。
そういや、二人って言ってたな。たまにはこういうお嬢も可愛げがあるか。
「どういたしまして。お嬢さん。」
お嬢がこちらを見る。今までに見たこともないような笑顔で。
「あら、貴方には既にお礼は言っていたでしょう。勘違いしないで。」
写真を俺の手から抜き去るとまた大事にポケットに仕舞った。
「これがないと私の敵性反応に引っかかってミンチになるのよ。そろそろ集団行動も悪くないと思ってわざわざ持ってきたの。」
「え?じゃあ、二人って彼と・・・誰?」
「スコープ越しに目が合ったでしょ。写真に写っているお父様よ。」
ああ、それは・・・確かにブチ切れるだろうね。
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