1打開策は轟音と共に
日中のクソ暑いある日、道路のド真ん中で俺は突っ立っていた。
狭い道路で立っていては車が通行できないはずだ。実際、車が列をなして止まっている様子はなんとなく伺えた。
その中でなぜ渋滞の原因である俺はクラクションも鳴らされず、どかされることも無いかといえば周りを囲まれていたからだ。
青い制服を着た「ケーサツ」と呼ばれている集団に。
「ほら、お前がそのカバンの中身を見せないから車が渋滞してきたぞ。周りに申し訳なくないのか?」
目の前にいる中年のオッサンが嫌味ったらしく言う。お前らが退きさえすれば今すぐだって俺も館に帰りたい。
そう思っても口にしてしまえばまた面倒な事になりそうなので口を閉ざす。
「柏葉さん。彼のカバンにはきっと大事なものが入っているんですよ。ね、騒ぎにもなっているしちょっとだけ署に行って確認だけさせてくれないかな?」
オッサンの右に立っていた若い署員が諭す。
どこかで聞いたことがある話の手口だ。
一人が脅しかけ、一人が優しく語りかける。
悪い警官と良い警官。
そのギャップや悪い警官の脅迫に疲れて自供してしまうというテクニックだ。
だが、これは確か犯人の尋問に使うはずだ。俺は断じて犯罪者ではなかった。
これほど暑い天気の中でスーツを着てネクタイを締めている。
おまけに右手にはスーツケースが握られている上に、手錠をかけていて爆弾を隠し持つテロリストに見えなくもなかった。
いや、普通は見えないはずだ。どう見てもサラリーマンだ。
一刻も早くこの状況を打開したい中で、警官共はじっと動かずにただ俺の周りを囲んでいた。
俺が一歩でも動いたり押し退けた日には今日中に館にこの荷物を持っていくのは不可能だろう。
だが、このままずっと囲まれていても同じことだ。
打開策はないか、ただ考えこみ口を閉ざしてじっとしている。
「そろそろ任意同行してくれないと、君を逮捕しないといけないことになる。」
「任意」という言葉は「逮捕」という強制の言葉で打ち消されて矛盾していた。
この場でこの荷物をぶちまけるぐらいなら死んだほうがマシだ。
何度もディーラーに俺は向いていないと話したが他に人がいないからと押し付けられた。
なんとかしてくれよ、今でもそう願っている。
オッサンは手錠をゆっくりと取り出し俺に笑ってみせた。
「はい午後2時58分、駅前で不審な荷物を持っていたテロリストを・・・」
直後に体に響く重い爆音が鳴り響く。
爆弾が爆発したのではないのかとも思うその音はよく知っていた。
高鳴る期待を抑えて、頭を冷静に澄ましていく。
三時の方向。素早く手錠を外し、膝を限界まで曲げてカバンをおもいっきり振りかぶる。
「頼んだクマッ―――!!」
力いっぱい放り投げたカバンは警官の頭を軽々と飛び越していき飛んで行く。
警官達はそのカバンを目で追うようにして一斉に顔を背かせた。
「ガッチャ!」
再度けたたましい音が鳴り響く。
その違法に改造されているようでなんとか車検に通っているマフラーから鳴り響く音はいつもはうるさく感じていたが、今回だけは頼もしく聞こえた。
クマの大型バイクは一瞬の内に発進し、気づいた頃には姿を見失っていた。
あっけらかんとしている警官は何かに気づいたようで囲んでいる輪の中を覗き込む。
そこに俺の姿はなかった。
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