2真城式訪問術その一
一階から3時を告げる鐘が聞こえた。
私はジョンさんの部屋の扉の前に立っている。
ジョンさんはいつも1時にはぐっすり寝ている。天国からのテレビ中継を見てその死亡人数を確認しているらしい。
10分ほどのテレビ中継もとっくに終わっていてジョンさんはスヤスヤ寝ているはずだ。
よし、と気合いを入れた。
爆発音で目を覚ます。
枕元に置いてあるナイフに手を伸ばした。
「覚悟ッーーー!」と言いながら真城ちゃんが俺の眠っているベッド目掛けて飛び込んでくる。
ナイフを柄から鞘に握り直す。
そして、鞘を握ったまま手首にスナップを効かせて前に降るとナイフだけが放出された。
くるりと一回転半するナイフが真城ちゃんの額に食い込んだ。
「イッテー!痛いですよジョンさん!」
額を擦りながら涙目な真城ちゃん。ちょっと寝ぼけて加減が利かなかったか。反省。
「ご、ごめんよ真城ちゃん。やっぱり少し気が抜けてたからか加減失敗しちゃった。でも、ラバー製の練習用ナイフだよ?」
「それを、刃そシルバーに塗装してたら誰だって本物のだと思いますよ!死んだかと思いました!」
「可愛い愛弟子を殺すわけないだろ、ほら、冷えピタ貼ってあげるから。」
まだ少し涙ぐみながら片手ででこを広げる真城ちゃん。やっぱり大げさすぎる気がするがこれで気がすむならいいや。
冷蔵庫に長いこと冷やしていて冷たすぎたからか貼った瞬間にちょっとした悲鳴声をあげていた。
「はい、処置完了。」
「うぅ・・・ありがとうございます。ジョンさ・・・師匠。」
剥がれないように冷えピタの角を手で押さえて引っ付けている。
「でも、何が悪かったんですかー?」
「何が?って全部だよ真城ちゃん・・・」
え?と首を傾げる真城ちゃん。少し可愛い。
「まず、扉をなんで吹き飛ばしたのさ?」
「当たり前ですよ。私にはピッキング能力なんてないですから、吹っ飛ばすしかないです!」
なぜか自信満々と言う。
「そんなことは真城ちゃんと長い付き合いで知っていて、俺から夜に襲いに来いって言うことは・・・?」
あ、と驚愕する真城ちゃん。
「か、鍵なんてかかってなかった・・・?」
「正解。まずは鍵がかかっていない可能性も考えるべきなんだよ。まぁ、俺もまさか扉を吹っ飛ばされるとは思ってなかったけどさ。」
「す、すみません!明日に修理しますので!」
うーんと考え込む俺。少し閃いた。
「いや、扉はこのままなくてもいいよ。」
「え?でも、それじゃジョンさんが・・・」
「扉を開けるときの音、閉めるときの音、これが少し難易度を上げるからね。あと二日間は扉なしでの侵入をやってみよう。」
「おお!忍者みたいに忍び込めばいいんですね!やってみます!」
「敵に悟られずに接近し暗殺。これも真城式格闘術なのさ。まぁ、お手本をみせてあげるよ。」
「はい!見せてください!」
少しの沈黙。痺れを切らした真城ちゃん。
「あ、あの手本を見せてくれるんじゃ・・・?」
「起きている真城ちゃんにどうやって忍び込む手本を見せるのさ。はい、部屋に戻っておやすみ。あ、女の子だし用心して鍵はかけといてね。」
「えー、ジョンさんにピッキング能力があるとか初耳なんですけどー?」
「最近勉強したんだよ。ほら、おやすみ。」
とことこと部屋に戻っていく真城ちゃん。
一時間後に俺は真城ちゃんの部屋に向かった。鍵穴に手を触れる。解錠。これはまだ誰にも言っていない能力の応用だ。
足音も息も気配も殺してベッドで寝ている真城ちゃんの真横まで来ていた。
真城ちゃんは可愛い寝息を立てて眠っていた。
ナイフを首もとに当てて起こすにはあまりにも下劣すぎると思わせるほどの無垢さ。
しかし、このまま帰ったんでは忍び入った証拠は何も残せない・・・
真城ちゃんの寝顔を見ていると思い付いた。
額の冷えピタをゆっくりと剥がしていく。
完全に剥がれて露になった真城ちゃんのおでこ。
やっぱり腫れも痣もなにもない無傷じゃないか。
大袈裟だなーと思い、優しくおでこにキスした。
真城ちゃんの口角がすこしつり上がる。
起きたか!?と少し焦るがぐっすり眠っている。
それを真城ちゃんの机に置いてあるクマのぬいぐるみのでこに張り付けた。
真城ちゃんが身体を起こすと丁度視界に入る。
まぁ、こんなもんでいいかと部屋をあっさりと出る。
また、鍵穴に手を当てて施錠。
明日・・・いや、今日か。真城ちゃんのリアクションが楽しみだ。
でも、これって手本になるのかな?と思いながら自室へと足を運んだ。
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