ずっと好きでいて、いいですか
ご迷惑はかけません──
防衛省という特殊な職場の上司である日垣に秘かに想いを寄せていた美紗。
情報を扱う仕事柄、冷静沈着で厳しく本心を表さない日垣に初めは畏怖の念を抱く美紗でしたが、彼の素の人柄に触れるにつれ、家庭で得られなかった父性を求める気持ちがいつの間にかもっと特別なものに変わっていきます。
けれども、日垣には複雑な事情で赴任地に同行できない妻と子どもがあり、彼はその家族を大切にしているのです。
いつしか毎週金曜日、日垣の行きつけのバーでお酒を飲むことが定番になっていた二人ですが、日垣を思う気持ちと、日垣が大切にしているものを自分が壊してはいけないと思う気持ちで美紗は揺れていきます。
悲しみに暮れる美紗が二人の行きつけのバーで、バーテンダーを前に日垣との回想を語るという形式を取っており、二人の間に何かあったことは冒頭から察することができます。
控えめで自分の感情を抑え込みがちな美紗がそこまで苦しんでいる理由が知りたくなり、いつしか彼女の心に寄り添うバーテンダーの目線で回想を追うような気持ちになっていきます。
特殊な職場の様子が細かく描写され、そういう(自衛隊的な?)方面がお好きな人にはさらに楽しめる内容かと思いますが、そちらに詳しくない私のような人間でも、美紗が地道な努力で職場のメンバーからの信頼を得て、それを日垣が暖かく見守る様子が伝わり、彼らの関係性や美沙の想いがより深く理解できるようになっています。
物語の折々に出てくるカクテルとそのカクテル言葉も物語にそっと寄り添い、味わい深さと華を添えています。
炭酸の泡が弾けるようにキラキラと純粋に煌めきつつ、味わいはビターで強く酔わされてしまう、そんな大人のラブストーリーをあなたも一杯いかがですか?
カクテル言葉に乗せて紡がれる、防衛省を舞台にした甘さ控えめ、ビターな大人の恋愛物語です。
ストーリーは、主人公の美紗がバーテンダーの征を相手に、終わってしまった恋を語っていく形で進みます。
しっとり落ち着いた文体なので、夜に読むのがおすすめです!
カクテルと防衛省という異色の取り合わせが、この作品の個性を引き立たせていますね。
美紗が働く職場の描写がかなり詳細で、どこまでが創作なの? と思わず考えてしまうほど。
そのためとてもリアリティがあり、まるで自分がその場に居合わせているように思えます。
恋愛小説ですが緊迫感のあるシーンが多めです。
美紗が日垣さんに惹かれるきっかけというのがまたシビアなシチュエーションで、息を飲んでしまいました。
妻子ある人を好きになってしまった主人公の葛藤が胸に迫ってきて、非常に切ないです。
冒頭からして幸せな結末にはならないのは明白ですが、これから甘い展開はあるのでしょうか。
そんなところにも期待して、この先の物語を楽しみにしています。
個人的には謎めいている征さんの本性が気になって仕方ありません…!
衝撃的な『現在』のシーンから始まり、
主人公が『過去』の恋を語るという体裁で話が進んでいきます。
彼女が徐々に深みにはまっていく様子が、
執拗とも言える心理描写によって巧みに描かれています。
自衛隊という特殊な組織が舞台であるにも関わらず、
描写にはリアリティがあり、いわゆるお仕事ものとしても楽しめます。
仕事でもプライベートでも、主人公は様々な秘密を抱えることになり、
いつ周囲にばれるのかとどきどきさせられます。
章題になっている様々なカクテルは、
過去の出来事と結び付けられて効果的に使われています。
それぞれのカクテルがどのような物かは文中で説明されるため、
知識がなくても問題はありませんが、飲んだことがあればより楽しめるでしょう。
レビュー時点で公開されているのは六章の終盤までで、まだお話は完結していません。
過去の恋が、冒頭の出来事にどう繋がっていくのかが楽しみです。
屋上で思い詰めていたところを若いバーテンダーに見咎められた女性。
彼女が店内で語り始めたのは、とある職場で思い人と過ごした日々の物語。
バーと防衛省、異色の組み合わせから生まれたカクテルは、ありありと現実を削り出す緻密な設定と筆致に支えられて、芳醇ながらも物悲しい味わいを醸しています。
ありふれた日常業務も、極秘の特務も、今このとき世界のどこかで繰り広げられていても全くおかしくないほどの信じがたいリアリティで描き出され、命を吹き込まれたキャラたちがそれぞれの生い立ち、主張、行動原理を以て自分の意志で動き回るこの作品は、まるで現実の投射のような趣です。
これだけのリアリティを与えると、キャラが思惑通りに動いてくれずストーリー作りに苦労するのではないかと思ってしまいますが、編み上げられた物語は芸術的なほどに高い完成度を誇っています。
読み手の現実と、物語の中の現実・・・
若いバーテンダーは2つの世界の狭間で唯一幻想性を持ち合わせており、カクテル言葉にちなんだ巧みな語り口で読者を異次元へと引き込む役割を果たしているように思います。
上質なロックアイスのように洗練されたこの物語は、作者様の凄まじい力量が伺える珠玉の作品です!
買い置きをしておくべきだった。後悔した。
タイトルどおり、この作品はやはりお気に入りのカクテルを飲みながら読みたい。
大人の恋愛というものは、それぞれに過去を背負った男女の感情、打算、環境などさまざまな要因が複雑に絡み合い、恐る恐る進んでいく。その機微が絶妙のバランスで表現されていて、なんだかいけないものを覗き見ているような気分になった。
それから、大人の恋愛と切り離せないのは仕事の話。この作品の職場描写は、実際に働いてますよね?と聞きたくなるほど細やか。企業秘密を見ているようで、やはりいけない気持ちになった。
ぜひ、お気に入りのカクテルを用意して読んでほしい。
タイトルに惹かれ、近況ノートにも共感し、この物語に興味を持ちました。
周囲でも「不適切な関係」を目にし、当人の話を聞いたこともありましたが、ちょっと理解不能なところも……
『もし、真面目な人同士が、そんな状況に陥ったら?』
おお! それなら、是非読んでみたい! と、来てみました。
主人公をはじめ、キャラクターたちにも好感が持て、丁寧な描写のおかげで情景もすぐに目に浮かびます。
『アイリッシュ・コーヒーの温もり』を読んだ時には、寒くて荒みかけた心を温められ、救われた思いをした自分の体験が思わず甦り、主人公が若いバーテンダーに少しずつ心を開いていく様子も、すごくよくわかりました。
カクテルの登場する小説のイメージにぴったりな文体で、憧れます。
主人公の過去と、その後どうなっていくのかが、とても気になります。
続きを楽しみにしています。