最後に僕らの手の中に残ったものは。

自動小説生成エンジンについては、AIが注目されて以降その可能性が議論されている。
星新一の新作をAIが書くことに成功した、などのニュースもあった。

一方で、AIが世の中を席巻する中で「小説」だけは人間の絶対的な領域であると主張する向きも強い。
しかし、僕らのように小説を書く側の人間からすると、それもなんだかもはや疑わしいのではないか、という気持ちはあったりする。なにしろ、「創作論」というものもこれだけ世の中に溢れているのだ。少なくとも、発想に対して整った文章を出力するプログラムくらいなら、あり得ないことではない。

本作「書詠フミの消失」では、このあたりが非常にリアルに語られる。
モデルとなっているのはもちろん、ボーカロイド「初音ミク」であるわけだが、プログラムの役割を限定的にし、パラメーターを細かく調整することで小説を出力する、という発想は非常に現代的で、ある意味非常にゼロ年代パンクなもの。
これ本当にできないかな。欲しい。


そして物語は、その「ノベロ小説」として発表されたある作品に焦点を当てる……

この作品に焦点が当たった瞬間、僕が味わった鳥肌の立つ感覚を、ぜひとも皆さんに体験して欲しい。

そして結末。
ラストもまた、ニコニコ動画以降のインターネットカルチャーを見てきた人間からすると、とても生々しく肌が泡立つものだ。



「古き良きSF」から脱却せしめんと企図する、インターネット世代の本格SF。
いま、この時点から未来を見つめる視点。

こういう作品がカクヨムにある、ってそれ自体が最高にパンクじゃない?

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