自動小説生成エンジンについては、AIが注目されて以降その可能性が議論されている。
星新一の新作をAIが書くことに成功した、などのニュースもあった。
一方で、AIが世の中を席巻する中で「小説」だけは人間の絶対的な領域であると主張する向きも強い。
しかし、僕らのように小説を書く側の人間からすると、それもなんだかもはや疑わしいのではないか、という気持ちはあったりする。なにしろ、「創作論」というものもこれだけ世の中に溢れているのだ。少なくとも、発想に対して整った文章を出力するプログラムくらいなら、あり得ないことではない。
本作「書詠フミの消失」では、このあたりが非常にリアルに語られる。
モデルとなっているのはもちろん、ボーカロイド「初音ミク」であるわけだが、プログラムの役割を限定的にし、パラメーターを細かく調整することで小説を出力する、という発想は非常に現代的で、ある意味非常にゼロ年代パンクなもの。
これ本当にできないかな。欲しい。
そして物語は、その「ノベロ小説」として発表されたある作品に焦点を当てる……
この作品に焦点が当たった瞬間、僕が味わった鳥肌の立つ感覚を、ぜひとも皆さんに体験して欲しい。
そして結末。
ラストもまた、ニコニコ動画以降のインターネットカルチャーを見てきた人間からすると、とても生々しく肌が泡立つものだ。
「古き良きSF」から脱却せしめんと企図する、インターネット世代の本格SF。
いま、この時点から未来を見つめる視点。
こういう作品がカクヨムにある、ってそれ自体が最高にパンクじゃない?
自動物語生成ソフトウェアに、十七歳の少女のキャラクター設定が付加された、ノベロイド・書詠フミ。
【1】では、書詠フミが生み出す「ノベロ小説」が日本を席巻し、人間の小説家たちをほぼ廃業に追い込んでいく歴史が語られます。
淡々と綴られて長く感じるかもしれませんが、とにかく読み切っていただきたい。
【2】から、物語が動きます。
自分の仕事を奪われても、その瞬間に立ち会えて歓喜するSF作家の言葉には、感動すら覚えます。
少女・書詠フミが確かに存在し、そしていなくなってしまったことを寂しく思うと同時に。
彼女が自由を得たことを願います。
おめでとう。
読了いたしました。
自動創作器(機)については古くから、小説のネタになってきました。
しかし、現時点でこの小説ほど「リアリティ」を感じさせる小説はないでしょう。
特定作家の作風をAIで実現しようとするプロジェクトも実在しますし、やがていつかは……、と思えなくもないのです。
一方で、小説をこよなく愛する者のとしては、「読みたい物語」であれば、人間であろうとAIであろうとどうでもいいの、という気持ちにもなります。
あるいはまた、ファンタジーよりSF系に傾倒する身であれば、作品に登場するSF作家のようにシンギュラリティに遭遇できた僥倖に喜悦する気持ちもわかるのです。
そのあたりの創作者、読者の心の揺れを描ききるだけでなく、人間至上主義者への辛らつな皮肉も効いています。
文章は平易でありながら理知的であり、相当な熟練を感じます。ただ、人によっては第一話から二話にかけて設定飽和を起こしてしまうかも。
それさえ乗り越えれば、あとは話は流れて行きます。
それにしても、書詠フミ。
誕生日を過ぎた彼女はどこに行ったんでしょう。
不思議に心に残りました。