戦後の焼野原に大志を抱き、奮闘の挙句、夢に敗れた男への挽歌。

非常に面白い。グイグイと引き込まれます。
でも、何が面白いのだろう?
そう自問するに、対照的な酒井七馬と手塚治虫に関する迫真の人間ドラマ。これに尽きる、と思い直しました。
人間ドラマと言っても、作品中、2人が一緒に行動する事は少しの間。考え方の違う2人は袂を別つのですが、それ以降の心理描写が最大の読み処だと思います。
大志と野心、自己正当と虚栄心。誰もが包摂する心の弱さ。
結局の所、時流に乗れた者と、見放された者。私も含め、大半の人々は後者なのですが、だからこそ作品に感情移入できて面白いのです。
また、本作品の中では勝者の手塚治虫でさえ、その後は流行に取り残されました。彼の未来を知るだけに、諸行無常の響きを感じずにはいられません。
それと、戦後マンガ史を勉強できて、お得な作品です。史料調査に苦労されたであろう、作者の努力に頭が下がります。こんな力作を無料で拝読でき、本当に感謝します。ありがとうございました。

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