宇宙を掛ける者達

ヴィヴィ

第1話 始まり




 2140年。火星のテラフォーミングが完了して40年の月日が経った。人類の生存圏は金星と火星の二つが増え、ますます繁栄している。代わりに地球の人口は減り、現在は数億人の人々しか住んでいない。これは環境汚染もあり、地球圏連邦政府が母なる地球の環境を再生させる為に一部地域が封鎖されているからだ。これらに伴い大規模な移民が月と火星に行われた訳だが、同時に宇宙環境に適応する為の遺伝子操作も行われた。人類は宇宙で暮らすには必要な事だった。当然、人権団体などがデモを起こしていたが、末期の地球には人類を支えるだけの余力は残されていなかった。そもそも、第三次世界大戦によって徹底的に地球環境が破壊された事も原因であったが、どうしようもなくなったのは事実だ。その為、新たに作り出された連邦政府によって強行採決が取られた。だが、この遺伝子操作。断る者達も多く居たが、同時に自ら遺伝子操作を受ける者達も大多数に上った。

 何故なら、何故なら、エルフやドワーフといったファンタジー世界の姿になれるからだ。容姿もかなり美しくなり、若い状態が長年に渡って維持できるので女性に大人気なのだ。

 さて、地球と月の距離は約4,200万kmで、地球と火星の距離は約7,800万km。距離に関しては開いたりする場合があるけれど、その辺は問題ない。星間ネットワークで繋がっているからだ。

 さて、第三次世界大戦を経験した人類は戦いの舞台を仮想現実の世界へと置き換えた。ここでは人が死ぬ事もなく、弾薬も消費しない。現実とほぼ同じ状態で作り出された仮想現実で実験などを行えば開発コストも安くなる。

 戦争自体は企業が行うのだが、育成や人材発掘も兼ねて通信費や通信に使用するエネルギー料金と接続機器のみで仮想世界で子供でも自由に遊ぶ事ができ、火星や金星に居る人達と交流が可能なのだ。実際に行くと結構な額が飛ぶ事になるが、仮想現実では無料なのだ。よって、ビジネスなどや観光にも良く使われている。

 さて、戦う方法だがこちらは機械で出来たロボットに乗って様々な戦場や決められたルールに従って戦う。使用する物は宇宙用の高速機動戦闘機や人型機動兵器、宇宙戦艦といったもので、夢に見た楽しい戦いが出来る。だが、初期で貰えるのは一人一つだけのようだ。

 このような説明を受けた俺達はもちろん、引き受けた。俺達。そう、俺以外にも居る。二十歳の俺と同い年くらいの男性や女性から、高校生や中学生の少年少女や、もっと小さい小学生くらいの子達もここに居るが、生活する為のお金は仮想世界で稼いだお金を現実のお金と交換してくれるというのだからやるしかない。それに俺達は特殊な病気にかかって寝たきりになっていたようで、病気が治ったかどうかの経過を見る為にこの隔離された町で過ごすしかないとの事だ。それに記憶障害があるのか、親兄弟を始めとした家族の事も思い出せないのでここから出た所でどうしようもない。自分の前の姿だってほとんど思い出せない。とりあえず、さえないオタクの男性だったのは覚えているが。





「さて、説明を終えた所で自己紹介をしよう。君達の担当である北島晴海きたじまはるみだ。ああ、君達自身の自己紹介は後でしてくれ。ここではメンバーを男女で組んで貰う。それが君達の伴侶であり、パートナーとなる」

「「「⁉」」」


 全員が驚愕の表情を取る。それほど、先生の言った事が異常なのだ。いきなりお見合いをさせられるのだから、そうだろう。だが、逆らうのはまずいかも知れない。先生の後ろには屈強な武装した男性達が居るのだから。その彼らの身体は一部が機械のようで、おそらくサイボーグかなにかだろう。それに銃器類で武装している。本物かどうかはわからないが、かなり危険だ。


「ああ、驚くのは無理もない。だが、こちらにも事情があるのだ。今、地球人類の数はあるウイルスによって激減しているのだ。そのウイルスに犯されずに生きていたのが君達なのだ。よって、数が少ない地球人類の希望である君達にはさっさと繁殖して来るべき絶滅を防いで貰う事となった」

「ふざけないでくださいっ!」

「至って真面目だ。このままでは本当の意味で地球人が滅んでしまうのでね。まあ、どうしても嫌ならソロで活動するのもいいだろう。その場合、大変だろうが止めはしないよ」

「なら、私は一人でいいです」

「そうか。ああ、一つだけ言っておくが……男女ペアになった者には優遇措置が取られる。君達の中が進展して子供でも産んでくれたら、子供の養育費から生活費まで全て政府が出してくれるから、それだけは覚えておくように」


 どうやら、本気で増やして欲しいらしい。ここには可愛い子達が沢山居る。ちょっとやそっとじゃお目にかかれない可愛い子達がだ。


「質問があります」

「わかった。言ってみてくれ」

「ここには明らかに小さな娘もいますが……」

「ああ、問題ない。彼女達は最低でも十六歳以上で子供を産める身体だ。低身長は病気による栄養不足が原因だからな。もっとも、身体の方も調整して耐えられるように頑丈にしてあるので問題ない。他にないか?」

「では、そのゲームの初期配置や部屋割りはどうなりますか?」

「当然、パートナー同士は一緒の場所で、初期配置も優遇される。部屋割りもパートナー同士には3LDKのマンションの一室を与える。それ以外は男女共同の寮に入ってもらう。その寮では男女相部屋で、トイレや風呂は共同だ」


 あちらからしたら、少しでもくっついて人類を増やして欲しいのだろう。だから、出会いがあるようにしているのだろう。


「なんですってっ⁉ 間違いが起こったらどうするんですかっ‼」

「何を言っている。それこそ、我々の望む所だ。もっとも、犯罪行為は許されんがな」

「っ⁉」

「それが嫌なら、自分で稼いで部屋を借りたまえ。我々には君達を養う義務も義理も無いのだ」

「ちょっと待って、それはどういう事ですかっ!」


 北島先生が言っている事は、つまり……俺達には最低限の権利が保証されていないという事だ。


「どうもこうも、勘違いしているようだから言っておく。君達は我が国の国民ですらない」

「何故ですか!」

「税金を支払っていないからだ」

「「っ⁉」」


 堂々と言われた内容は納得できる物だった。そりゃ、税金を支払っておらず、利益をもたらさない人間をお金を支払ってまで保護する理由はない。


「待ってください。私は毎年、ちゃんと税金を支払っていました」

「日本国は君達が眠っている間にウイルスによって国家を維持できずに経済破綻を起こして解体となった」

「「「え?」」」

「よって、君達は税金を支払ってない扱いになるし、難民扱いだ。それも解体時のごたごたで戸籍などを含めた情報が完全に失われた存在しない人間だ」


 眠っている間に起きた日本の崩壊は信じたくないが、起きてしまったのなら仕方ない事だ。確かにウイルスによって人数が激減したのなら日本の消滅も理解できる。バイオテロなんて騒がれていた時代だしな。


「これでも我々は人道的支援も行っているのだよ? 眠り続けていた君達の病気を治療してあげて、仕事と住む場所の斡旋までしてあげているのだから」


 確かにその通りだ。治療費だって莫大だろうに、わざわざ支払ってくれたのだ。俺達には恩を返す義務があるが、あちらにはない。それに人類を残す為と言われれば仕方のない事かも知れない。


「まあ、君達が不安なのもわかる。だが、私達も通った道だ。君達は後人の分だけ得をしている。少なくとも、幸せな生活をさせて貰っているよ。もちろん、人それぞれだが。それと、どうしても我々の提案を受け入れられなければ君達に掛かった莫大な治療費は借金という扱いにさせてもらう。支払ってくれるならば自由と戸籍を約束しよう。なに、一人当たりたったの四億ドルだ」


 たったって次元じゃない金額だ。これは選択肢が無いのと一緒だ。そんな金額を用意出来るはずがない。


「他に質問はないかね?」

「その、子供を産む以外に何か目的があるのですか?」

「ある技術の実験体だな。これは後程説明する。既に君達の身体に適応している。逆に言えば適応しているからこそ目覚めたのだ。既に何人もの被験者が体験したデータをもとに完成させた品が君達に取り付けられている。なに、副作用とかは無いから安心したまえ」


 俺を含めて、何人かが納得の声を出す。確かに難民であり、存在しない俺達は実験体には丁度良いんだろう。ましてや、部分的に記憶までないのだから。


「さて、質問は他にあるかね? なければ質問を終える。もちろん、後で私の所に来てくれれば、説明できる範囲で答えよう」


 誰も質問しないので、北島先生は話を進めていく。


「それではペアを組んでくれ。もちろん、同棲でペアを組む事は禁止だ」


 そう言われるとどうしようもなく、女の子達は男に誘われたりするがソロがほとんどになる。もっとも、イケメンの奴には女の子が群がったが。かくいう俺も何人かに挑戦してみたが、ゴミでも見るような表情をして拒否られた。仕方なく回りを見ると、小さな子共達はおろおろしていた。


「先生」

柏木かしわぎだったか、なんだ?」

「女性がいっぱいで決められません」

「ああ、別に複数でも構わないぞ。むしろ、歓迎だ。だが、優遇措置はいくら増えても増えないからな。まあ、あれだ。多数を娶るなら稼げる者になれって事だ」


 どうやら、複数人でも異性なら問題ないのか。幼い子達の男子はほとんどが自分なら出来ると考えてソロで居る事を決めたようだ。まあ、思春期特有の一人の俺、かっこいいとでも思ってるのかも知れない。なので、俺は部屋の隅の方に居る大人しそうな女の子達に声を掛ける。


「ねえ、決まってないなら俺と組んでくれないか?」


 俺が声を掛けた彼女達は双子のようで、よく似ている美少女だ。双子なら尚更、説得しやすくて都合がいい。身長は120㎝から122㎝くらいか。髪の毛も長くて可愛らしく保護欲が掻き立てられる。


「「!?」」

「あ、警戒しないで。お兄さんは一人じゃ大変だと思うんだ。聞いた話じゃ、少なくとも高速機動戦闘機か人型機動兵器の一つと、遠出や補給などに必要な宇宙戦艦が必要だ。一人だけじゃ無理なんだ。だから、手伝ってくれないかな? もちろん、君達の事は俺が守るし、部屋で待ってるだけでもいいよ。それで生活は出来る限り保証するから」


 しゃがんで、目線をしっかりと合わせて話していく。


「……えっと……どうする……?」

「……怖い……」

「頼むよ。助けると思って。それにこのままだと君達、離れ離れになるかもしれないよ? 配置される場所が月と火星、地球だったりしたら……」

「「っ!?」」

「でも、俺とパートナーになればずっと一緒に居られるよ」


 大人しそうな彼女達なら押していけばどうにかなる。ましてや借金や記憶の事で不安がっていた今なら尚更簡単だろう。俺の楽しい宇宙戦の為に、どうしてもパートナーが必要だ。というか、先生達からしたら低年齢でも組ます気満々だしな。その証拠に俺を止めようとした男や、断ったりしてソロになった女達が動こうとしたら、先生やサイボーグの人達が止めている。


「……相談させて、ください……」

「……考える……」

「ああ、いいよ」


 二人はしゃがみ込んで話していく。少しして結論が出たようだ。


「……よろしく、です……」

「……よろしく……」

「ああ、こちらこそ。歓迎するよ。必ず、とは言えないけれど幸せにする。その為に一緒に頑張ろう」

「「……うん……」」


 二人に両手を差し出すと、二人は互いを見合った後、ゆっくりとおどおどしながら握ってくる。握手した後、二人の頭を優しく撫でてあげる。


「そうか、小さい子なら……」

「確かにその手が……」


 残っていた男性や男子達もさっさとソロを決めた強情な同年代や年上の女子ではなく、中学生や小学生くらいの中学生の子達を選んで誘っていく。彼女達はまだ成熟しておらず、これからに関して特に不安を抱いているので、守ってくれて引っ張ってくれる大人の男性のパートナーになる子が多かった。北島先生達もそれを狙って小さい子達を多めにしたのだろう。実際、男性の大人人数より、女性の方が多い。その中でも若い子の方が多くなっている。


「どうやら決まったようだな。なら、自己紹介を互いにして、この書類に書いて提出しろ」


 そう言いながら先生が指をこちらに振るうと、俺達の目の前に青い半透明な板が出現した。そこには名前と年齢が書く所がある。


「なんだこれ?」

「……不思議……」

「……?……」

「それは仮想スクリーンだ。君達の身体に埋め込まれているブレインコンピュータが網膜に見せている情報だ。ブレインコンピュータの機能や説明についてはまだ教えられないが、それは君達が生活する上で必要な物であり、病気が正常に治っているか観測している。また、何か体調不良などになれば直にでも連絡が入るようになっている。もちろん、プライバシーは出来る限り、守られているので安心したまえ」


 何処までプライバシーが守られているか、わかったものではないな。だが、これは未来的で面白い。ようは自分の身体の中にパソコンが入っているっていう事だし、ゲームみたいで楽しい。


「その書類に名前を書いて提出してもらう。イメージしたり、虚空に書くようにすれば出来るはずだ」


 実際にイメージして書いてみる。すると、俺の名前である高宮光たかみやひかるという名前が夫の場所に書かれていた。


「じゃあ、二人の名前をここに入れてくれるかな?」

「……うん……」

「…はい……」


 妻と書かれた名前の部分に二人の名前、るりとさんごという文字が書かれた。


「るりちゃんとさんごちゃんか。高宮光たかみやひかるだ。これからよろしく」

「よろしくです、光さん」

「……よろしく……」

「それじゃあ、一緒に提出しようか」


 確認画面として、三人の承諾ボタンが求められていたので、一緒に押す。神聖画面が切り替わり、無事に受託された事を知らせるメッセージと結婚おめでとうというメッセージが映し出される。同時に視界にプレゼント箱のような物が現れた。ギフトボックスと書かれたそれには祝戯袋と書かれたプレゼントが送り込まれていた。次にキャラクターメイキングの画面へと移動した。


「これで夫婦みたいだな」

「……あの、これ……どうすれば……」

「……わからない……」

「ああ、わからないのか」


 俺の言葉にビクッと震える二人を抱きしめて左右の膝の上にそれぞれ乗せる。二人の頭を撫でながら優しく教えていく。


「わからないのら、どんどん質問してくれ。これから三人で生活していくし、運命共同体なんだからな」


 二人はこくこくと可愛らしく頷いてくれる。知ったかぶりや、協調性の無い相手は非常に困るから、素直な二人は助かる。


「では、キャラクターメイキングからはじめよう。だが、その前にやる事がある。ここに何か届いているのが分かるか?」

「うん」

「……ある……」


 どうやら、俺達の画面は統一されているようだ。パラメータ画面もあるし、そちらからるりとさんごのパラメータも表示されていて、身長から体重、スリーサイズまでわかってしまう。それとお金も全て共通のようだ。


「これから見てみよう。何か有用な物が貰えるかも知れない」

「そう言えば便宜を図ってもらえるって言ってました」

「……確かに……」

「という訳で、開けてみてくれ」


 こういうのは子供の方が嬉しがるだろう。中身が変わらなくても、機嫌が良くなればそれでいい。


「えっと、さんごちゃん」

「ん、開ける」


 さんごが祝戯袋を開くと、祝辞のメッセージが流れた後、ギフトカード・スキルと書かれた物が三枚、ギフトカード・ランダムと書かれた物が三枚。購入金額半額チケット三枚、ガチャチケット三枚が入っていた。


「いいものです?」

「ああ、良い物だ。ありがとう、さんご」

「……んっ……」


 褒められて嬉しそうにするさんご。それを優しい目で見詰めているるり。姉はるりの方だ。


「じゃあ、これから確認しようか」

「はいです」

「……これ、スキルが貰える……?」

「そうだね」


 ギフトカード・スキルはスキルが貰えるようだ。ギフトカード・ランダムはその名の通り、ランダムで貰えるようだ。


「とりあえず、二人はどんな感じで過ごしたい? 俺は二人に不自由の無い生活をしてもらう為に稼ぐつもりだから戦場に出る事になる。その間、家に居るかゲームで遊んでいるか、選んで欲しい」

「それは……」

「……一緒に戦う……」

「さんごちゃん?」

「……おんぶにだっこ、やだ……」

「……そうですね。私達はお兄さんの、コウさんの妻ですし、夫を支えるのは妻の役目ですからね……私も頑張ります」

「ありがとう」


 どうやら、二人共一緒に戦ってくれるようだ。危険な目には会わせたくないから、家に居て欲しいが、確実に人が足りない。


「正直言って、二人が手伝ってくれると嬉しい。一緒に頑張ろう」

「はいです。さんごちゃんもいいです?」

「……ん、任せる……」

「じゃあ、俺が人型機動兵器を使うから、二人のどちらかは戦艦を選んで欲しい。人型機動兵器は前線に出て戦うから、俺がする。戦艦は移動や俺達の帰る家になるから、とても大事な役目だ」

「もう一人はどうするんです?」

「お留守番?」

「いや、整備や修理、改造なんかを担当して欲しいと思ってる。整備が出来ないと出撃出来なかったり、戦っても直に倒されてしまうだろうからね」


 補給も修理もできなければ一戦ごとに港のドックへ帰らないといけないかも知れない。それは効率が悪すぎる。


「……大事……」

「ですね。さんごちゃんはどっちがいいです?」

「……ん、整備がいい……家事、苦手……」

「じゃあ、私が船ですね」

「二人共、お願い。それじゃあ、次に実際にキャラクターを作っていこう」

「ん」

「はいです」


 キャラクターメイキングの画面には俺達そっくりの姿がある。髪の毛とかも弄れるようだが、三人で容姿のカスタムポイントが共通のようだ。戦闘能力とかには一切かかわりが無い。


「俺はこのままでいいから、二人で好きに使うといいよ」

「いいんですか?」

「ああ。頑張ってくれている二人にプレゼントだ」

「……ん、ありがとう……嬉しい……」


 直に二人で楽しそうにキャラクターメイキングを行っていく。るりは青めの銀色の髪の毛に瞳を珊瑚色に変えて、さんごは赤橙色の髪の毛に青色の光にしている。どちらもツインテールにして可愛らしい容姿となった。


「プレイヤーネームはどうする?」

「ラピスラズリで、愛称はラピスです」

「……コーラル……愛称? ルラ?」

「反対から呼んだだけですね」

「だめ?」

「駄目じゃないよ。それにしても、名前からとったんだな」

「はいです」

「名前、大事」


 るりは瑠璃から英名のラピスラズリに。さんごは珊瑚から英名のコーラルへとしたんだろう。なら、俺も光からライト、月、ユエ?


「二人は良い名前が出来たようだ。俺は……ライトでいいか。愛称はライでいいな。いらないかも知れんが。むしろライで行こう」

「良い名前です」

「……ん……」


 どうやら気に入ってくれたようで、次の設定に入る。まず、このゲームはスキル制のようで、初期のスキルスロットを消費してスキルを習得するようだ。そのスキルスロットだが、なんと、十面ダイスの出目と初期の三個で決定されるようだ。本当にどこのTRPGだと叫びたい。


「……これ、振る……」

「あっ」


 さんごが降ると、出目が八に止まった。これは八枠のスキルスロットが手に入ったという事だ。実際にさんごのパラメータ、いや、コーラルのパラメータにはスキルスロットが合計で十一個となっている。


「高めだな。おめでとう」

「……ん、やった……」

「るりはどうだ? 振ったみたいだが……」

「そのですね、ゼロって……ごめんなさい」

「いや、これはおめでとうだ」

「ふぇ?」

「……ゼロじゃない……?」

「ああ、そうだ。十面ダイスのゼロは十として扱われる。つまり、この場合はスキルスロット十枠。つまり最大だ」

「よ、よかったです」


 ほっとしたのか、身体から力が抜けてもたれかかって来る。暖かな温もりと重みが感じられる。


「あっ、ごめんなさい」

「いや、いいよ」

「……おめでとう……次、お兄ちゃんの番……」

「お兄ちゃん……」

「……だめ……?」

「いや、全然いいぞ。むしろ、歓迎」

「……よかった……」


 そう言いつつ、ダイスを振るう。どうか高い出目が出ますように……そう思いながら、振ったら出た出目が十だった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る