第5話
さて、ゲーム内にある我が家である宇宙ステーション。名前を決めなければならないので名前はツクヨミにした。アマノミハシラとツクヨミの連結は問題ないので今日も掃除にいそしみつつ、士官学校にある機動兵器のパイロットコースに通っている。
ゲームを始めてから二週間目に突入した昨今。訓練所に通い始めて数日が経ち、現在も講義を受けている所だ。ちなみにラピスも士官学校の艦長育成コースに通っている。戦艦の運用には左官クラスの知識が要るからだそうだ。
「で、あるからして、人型機動兵器の戦術運用には……」
講義を聞きながら内容をメモしていく。次は実技があるからだ。ふと視線を外に向けるとこのパイロットコースの後輩にあたる柏木雲雀の姿が見えた。彼女は15から16歳くらいで肩口くらいまで黒髪がある。普段は元気な彼女がとぼとぼと町中を歩いている姿が見えた。
確か、彼女は柏木の妻になった一人だったはずだ。何かあったのかも知れないな。
「今日の抗議はここまで」
そう言って講師の士官が去っていく。俺も立ち上がり、外に出る。彼女の事は心配だが、こちらが何かをする理由も余裕も無い。なのでそのまま実技を受けていく。
帰りし、携帯に北島先生からメールでの連絡があったので指定された場所へと傘を差しながら向かう。ステーションにある住宅施設の一部では人工的に雨を降らせたりしている。これは植物などに水を与えると同時に道などに洗浄も行っているらしい。それと気分にメリハリをつける為に気候を再現しているとか。同じ理由で昼と夜も存在している。
そんな雨の中、指定された場所に行くと大きめのダンボールが設置されており、そこに士官学校の後輩である柏木雲雀が三角座りでずぶ濡れの状態で入っていた。
「何をしているんだ?」
「放っておいてください……」
「そういう訳にはいかないだろう」
流石に見ず知らずという訳ではなく、訓練で何度か一緒になってペアを組んだ子だからな。傘を突き出して雨から守ってやる。
「で、いったいどういう事なんだ?」
「あの、ごめんなさい……これ……」
そう言って差し出されたのは“拾ってください”と書かれた板だった。
「捨て犬か捨て猫か?」
「もっと、酷いです……」
「取り敢えず、連絡するか」
北島先生に連絡を入れてみる。すると直ぐに繋がった。
「これはどういう事ですか?」
『やぁ、ちゃんと合流できたようでなによりだね』
「答えてくれ」
『簡単に言えば彼女は他の妻達に借金を背負わされて着の身着のままで放逐されたんだよ。いやー女って怖いね』
「本当なのか?」
『ええ、これが証拠よ』
信じられない事だが、送られてきた情報を見ると実際に彼女の借金は億単位の凄い額になっていた。
『それで。彼女をそっちで引き取ってくれないかしら? そっちは人材が沢山必要だし、外の家も空いてるから問題ないでしょ。それに約束でしょ?』
「それはそうですがね」
確かに向こうの入れたい人員を住まわせる契約をしていたからそれは構わない。
「だが、家賃とか払えるのか?」
『無理だね!』
「つまり、支払えと……」
「ごめんなさい……」
借金の返済もあるだろうし、これはどう考えても厳しいだろう。
『まあ、そこで支払いが可能そうな君達にあげる事にしたんだよ』
「あげる?」
『うん。このままだと彼女はとあるろくでもない事になるだろう。そこでだ。彼女を君が妾でも愛人でもいいから引き取ってくれないかな? そうしたら借金はこちらで肩代わりして返済を待とうじゃないか』
「それは流石に問題あるだろう。さんごとるりの事もあるしな」
『彼女達からは既に許可を貰っているよ。まあ、ちゃんと自分達を可愛がってくれればという事だが……まあ、二人共追加がある分助かるんだろう。なにを、とは言わないが』
「それならば仕方ないですが、柏木はそれでいいのか?」
「はい。助けて頂けるのならなんでもします。先輩には色々と世話になりましたし……」
「柏木の事はいいのか?」
「はい。別に好きで妻になった訳ではないですし……一人では無理なのが分かっていたので、誘われたのでついていきました」
それでいいのか……いや、女性は現実的という事だったが、そういう事なのかも知れない。
「それじゃあ、離婚して結婚か?」
『おや、このまま内縁の妻でもいいのだがね』
「その、結婚してくれるんですか?」
「その方がいいだろう。もしも今のままだと面倒になるからな。柏木……雲雀もその方がいいだろう」
「あっ、ありがとうございます先輩。私もその方がいいです」
『じゃあ、そうしておいてあげる。手続きはこっちでしておくからね』
「お願いします」
決まる事が決まったので新たに妻になった彼女を連れてステーションへと戻っていく。
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