第6話
雲雀……ひばりを連れてツクヨミの前まで戻ってきた。しかし、ここからが問題だ。なんというか、浮気を告白することになるわけだしな。一応、許可は得られているみたいだが。
「先輩、こっちであっているんですか?」
「そうだ」
無重力の通路にある取っ手を掴んで進むエスカレーターに乗りながら、ひばりが俺に質問してきた。行き先が気になったようだ。
「でも、こっちにあるのって確か、個人所有の廃棄ステーションでしたよね?」
「よく知ってるな」
「何があるか探索しましたから」
「そうか。この先にある廃棄ステーション、ツクヨミが俺達の拠点だ」
「凄いですね。同じタイミングで始めたのに……」
「まあ、ガチャででただけだしな」
「なるほど。あっ、先輩。一つ思ったんですけど……」
「なんだ?」
ひばりが俺の服を掴んで止めてきたので、俺も振り返る。彼女は不安そうにしているが、俺が聞く体勢に入ったことで少しほっとしたようだ。
「えっと、菓子折りとか持って行った方がよくないですか?」
「……それもそうだな」
このまま手土産も何もない状態で妻を、愛人を増やしましたと言えばラピスとルラの印象はかなり悪くなるだろう。激怒されるならまだしも、泣かれるのはどうしようもない。
ひばりは可愛らしい少女で好みかといえば好みで、男としては自分の物にしてしまいたい。だが、二人が拒否するのに無理矢理というのは流石にできない。ひばりかラピスとルラなら後者を選ぶしな。
「悪いが、女の子が気に入る手土産がわからない。選んでくれるか?」
「わかりました」
「それと一応、俺の妻には北島先生が許可を取っているらしいが、頑張って説得してくれ。俺には二人を強要できないからな」
「大丈夫です。自分でなんとかしてみます。それより、こっちでお土産を買いましょう」
「わかった」
ひばりに腕を組まれて引っ張られ、色々な店へと連れていかれる。ボロボロだったひばりの服や俺の服をみたり、アマノミハシラの街をお土産を探して探検する。
「どうみてもデートだな」
「駄目ですか? 一度、男の人とやってみたかったんです」
不安そうに聞いてくるひばりの瞳には悲しみと諦めのような感情がみえる気がする。このまま二人が拒否すればもう二度と自由な時間はなく、ただひたすら人としては扱われることもないのかもしれない。
「いや、それよりもこれなんか似合うんじゃないか?」
「あっ、ありがとうございます」
月の上に少女が乗っているペンダントを三つ買って、そのうちの一つをひばりにつけてやると凄く嬉しそうにした。
ペンダントと以外にはお土産としてケーキと結婚指輪にしておく。一応、三つだ。
「先輩、それって……」
「まあ、説得できたらな」
「ありがとうございます。頑張ります」
ステーションでひばりの最後のデートになるかもしれない相手を務め、俺達はツクヨミへと戻った。
「ただいま」
「……お邪魔、します……」
宇宙ステーション・ツクヨミに戻った俺達はまず、コントロールルームへと移動する。そこではルラとラピスが一緒に居た。
「おかえりなさいです」
「……その人……?」
「ああ、そうだ。ひばり」
「ひばりといいます……お二人には申し訳ないのですが、どうか私も家庭にいれてください。できることならなんでもします」
「事情は聴いているのです」
オペレーター用の椅子に座って、ひばりを見てくる二人。ひばりは自分よりも小さな女の子にびくびくとしている。この場の決定権は二人にある。
「お兄ちゃんはどうなんですか?」
「俺としては迎え入れたい。だが、二人が嫌なら断るつもりだ。それに二人の負担軽減にもなるし、人手は欲しい」
「借金の肩代わりをしてまで人手はいらないのです」
「まあ、そうだな」
正直言って、彼女の借金はかなりあるのだから、別の人を雇う方が賢い。
「ん、ラピスは意地悪」
「ちょっ!?」
「……別に一人くらい、問題ない……お兄ちゃんを取らなければ……だよね?」
「まあ、そうです。受け入れるのは問題ないのです。ですが、役目としてお兄ちゃんの護衛とお兄ちゃんの欲望を何時でも何処でも受け入れるなら、です」
「それって……」
「……ルラ達、身体が小さい……大変……」
「借金の分、お兄ちゃんの玩具になってもらいます。それなら認めてあげるのです」
「わかりました。それでお願いします。ありがとう」
ラピスは椅子を回して仕事に戻る。ルラは俺の方にきて抱き着いてきた。
「……本当は、三人がいい……でも、るりとさんごじゃお兄ちゃん、満足できないし、護衛できない……だから、その代わり……」
「わかった。悪いな」
「ん、ちゃんとさんご達も構って……ね……?」
「ああ、もちろんだ」
頭を擦りつけてくるルラを撫でる。途中でリアルネームになっているが、これはわざとじゃないだろう。
「えっと、これからよろしくお願いしますね。ルラさんとラピスさんでいいですか?」
「……ルラで、いい……」
「私もラピスでいいのです。私達のことをちゃんと立ててくれれば年上はそちらですから、大丈夫なのです。それに家族だから、お姉ちゃんになるのです」
「ありがとう。可愛い妹ができて嬉しいです……」
ひばりは涙目になってルラに抱き着いた。俺はラピスのもとへと向かう。
「よかったのか?」
「はいです。私達が受け入れないとどうなるか、先生から聞かされましたから……あれは流石にひばりさんは被害者なのにかわいそうです」
「そうか。良い娘にはプレゼントをやろう」
「ふえ?」
ラピスの手をとって指輪を左手の薬指に嵌める。
「これって……」
「現実ではしばらく待ってくれ」
「嬉しい、です……これで、やっとちゃんとした絆ができるのです」
「前からそうだろう」
「それもそうなのです。でも、やっぱり形有る物が嬉しいんです」
「なら良かったよ。他にもお土産が色々とある。まずはおやつにしようか」
「はいです!」
ルラとひばりにも指輪を左手の薬指にはめてやる。それからペンダントもあげて、四人でティータイムを楽しむ。
しかし、こんな緩やかな時間は続かなかった。アラートが鳴って、通信が入ったのだ。
「対応するです」
ラピスがオペレーター席で端末を操作して通信を呼び出す。すぐに大画面に人の顔が映った。
『こちら、高速巡洋艦エリクシールの艦長、皇だ。アマノミハシラのドックが埋まっているため、そちらに空きがあるなら停泊したい』
「少々お待ちください」
ラピスがこちらを見てくるので、俺がでる。子供の姿であるラピス達だとなめられる場合があるからだ。
「そちらの要望は理解した。しかし、こちらは国営ではなく、私営である。そのため代金はかなり高い」
『この見た目でか?』
「そうだ。アマノミハシラは飽和状態だから、儲けさせてもらう。だいたいアマノミハシラの五倍の料金だ」
『ぼったくりじゃないか』
「その代金のほとんどはこのステーションの修理費にあてさせてもらうのでな」
『しかし、それはこちらには関係のないことだろう』
まったくもってその通りだ。代金はこちらの都合なのだから。
「こちらとしては支払わないなら拒否するだけだ。アマノミハシラと近いから警備軍もいるしな」
『ふむ』
「それと割引プランもちゃんとある」
『割引プランか。聞こう』
「まず、長期契約か短期契約かで値段がかわる。五倍は短期だ。長期なら三倍になる。そして、ステーションの修理を手伝ってくれるなら、その分の代金は減らしてもらうので働き次第ではアマノミハシラと同じか、それ以下にもできる」
『なるほど。アルバイトをしろということか』
「これに承諾するのなら、入港と滞在を許可する」
『考えさせてくれ』
「決まったら連絡を入れてほしい」
『了解した』
通信が切れたので、これで大丈夫だ。
「安くしなくてよかったんですか?」
「これでいい。どうせアマノミハシラに空きがないとなると、補給できなくてこちらにくるしかないしな」
「あくどい。でも、修理が速くなる」
「戦艦を運用しているということは機関士は最低でもいますからね。専門職を雇うのは大変ですし、この方法なら給料を支払う必要もないですから便利です」
「停泊代の値引きという形だが、実際は得するからな」
本来ならアマノミハシラの代金だけで済むのだろうが、いつまでも宇宙空間に船を置いておくのはできない。そんなことをすればしょっ引かれるし、罰金がかなり痛いことになる。
それなら高くてもこちらにくる。機関士たちを一定期間貸せば代金は安くなるのだから。まあ、バックドアとか仕掛けられるかもしれないが、それは後から潰せばいいし、監視もちゃんとつける。今は何より、ちゃんと運用できるようにすることが大事だ。
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