第8話



 船内をひばりに案内し、彼女の部屋を作った。そこで片付けていたら設計図などが紙媒体で存在していた。どうやら、電子データと冊子として保存していたようだ。そのため、放置していた艦内の掃除をしようと思った。

 だが、そのタイミングでラピスから高速巡洋艦エリクシールから連絡がきたとのことで、管制室を兼ねたブリッジに移動。そこでラピスが作成した歩合制での見積書をあちらに送った。

 しばらくは連絡待ちなので、ラピスと一緒にブリッジで作業をしようと思う。


「ラピス、艦内の地図や航路図、この艦の設計図があった」


 ブリッジに入って声をかけると、艦長席に座っていた蒼みの銀色の髪の毛を長いツインテールにしたラピスが椅子ごと振り返ってくる。


「この艦の設計図ですか?」

「ああ。掃除をしていたら見付かった。他にもこの艦の地図や航路図が見つかった」

「なるほど。でしたら、設計図を見せてくださいです。航路図はまだいいのです」

「わかった。これだ」


 近寄ってラピスに電子戦専用高速巡洋艦の設計図を渡す。ラピスは受け取ると、紙媒体ということで驚いていた。


「本なんですね」

「大丈夫か?」

「えっと……ちゃんと読めます」

「そういえば題名と図形だけで判断したけれど、ちゃんと読めるのか? 専門知識とか……」

「大丈夫ですよ。船舶知識のスキルがあるのでブレインコンピュータの中に入ってますし、そのデータを合わせながら」

「そうか。それなら頼む」

「はい。任せてください」


 ルリから離れて、別の椅子に座って目の前にある艦の端末を触ってこの船の地図を確認する。登録されているデータは色々と消えていたりもするので、地図を確認して埋め込んでいく。例えば倉庫だった場所の名前がデータの欠落などで別の名前になっていたり、そもそも名前がなくなっていたり、存在していないはずの場所があったりしている。

 艦のデータを更新してから、航路図の方も確認していく。こちらもデータが何も無かった。流石に大破判定を受けて売られただけあって、大切なデータは全て消されている。そのため、こちらは全て手動で更新しないといけない。


「ライトさん」

「ん?」


 呼ばれて振り向くと、そこには渡した設計図を読み終わったラピスがいた。


「んしょ、んしょ」

「ラピス?」


 ラピスは俺の膝の上に乗ってきて、そのままそこにすっぽりと収まった。


「休憩です。駄目ですか?」

「いや、いいけど休憩なら飲み物とかいるか?」

「大丈夫です。今はこうしている方がいいですから」


 俺の膝の上に横座りで座ったラピスが頬を擦りつけてくる。どうやら甘えたいようなので片手を回してしっかりと支えてやると、腕と胸に身体を預けてきた。


「随分と甘えてくるな」

「迷惑なのです?」

「いや、そんなことはない。むしろ嬉しいな。これからもどんどん甘えてきてほしい」

「はいです。いっぱい可愛がってください」


 ラピスは嬉しそうに微笑むと、身体を擦りつけて匂いを擦りつけてくるみたいだ。今まではこんなことがなかったので、もしかしたらひばりがやってきたからかもしれない。


「もしかして、妬いているのか?」

「……わかりません。ただ、ライトさんから私やルラちゃん以外の匂いがするのは、なんだか嫌な感じになりました……」

「それは嫉妬だろう。大丈夫か?」

「上書きするので、大丈夫なのです。それに慣れないといけませんし……」

「まあ、家族になるんだから、慣れるしかないな。受け入れることは嫌ではないんだろう?」

「はい。私達もライトさんに声をかけてもらえなかったら、同じ目にあっていたと思うのです」


 確かにラピス達のような子供は騙したり、乗せたりするのはやりやすいだろう。


「だから、彼女を助けるのは構いません。妻という扱いをしていても、奴隷という身分になっているので裏切られる心配もありませんし」

「奴隷がどういうのかわかるのか?」

「知っています。ブレインコンピュータで検索したらでてきました」

「そうなのか……俺は調べていなかったな」

「私は基本的にここから指示を出しているだけですから、情報収集も行っていました」

「偉いな。だが、大変じゃないか?」

「平気なのです。思考加速と高速演算を使いながら順番に考えて処理していくようにしていますから」


 マルチタスクは人がやると逆に作業効率が下がるらしいから、確かに一つずつこなしていく方がいいな。ながら運転とか危険だし、特にナノマシンを扱っているので危険度はかなり高い。間違って物を分解したら大変だ。


「それで奴隷について何かわかったのか?」


 子供であるラピスが知るべき内容ではないのだろうが、俺達が居る場所は子供だからと言って優しくしてもらったり、手加減されるような場所ではない。命こそかかっていないが、生活やこれからの身の振り方。なによりも自由が関わってくる。


「私達が所属している地球は奴隷の種類が公式に二種類、非公式に一種類の合計三種類種類あるです。公式の一つ目は地球人の奴隷です。こちらは借金や犯罪をして奴隷にされ、自由はご主人様次第となります。逃亡防止や命令違反などの罰則を与えるために首輪が装着されていますが、こちらは締めるしか効果がありません。ご主人様によっては外してチョーカーなどにすることができます。ひばりさんはまだ奴隷になってませんが、借金の関係でこちらと同じ扱いですね」

「まあ、そうだな」


 ひばりに関しては俺の妻となることでかなりの自由が約束されることになっている。俺達が替わりに負債を買い取った形だしな。まあ、こっちもかなり借金、ローンはあるのだが。最低限与えられた役割、子作りはしているので問題ないということだろう。


「二つ目は地球人以外の捕虜です」

「捕虜か。それは火星や金星にいるエルフやドワーフか」

「そうです。地球とは関係なく、火星や金星に住んでいる彼等です。彼等は会社と会社で戦った場合に生かして捕らえることができれば捕虜になります。そして、捕虜に関しては身代金や保釈金を請求できます。請求先は本人や会社ですね」

「それが支払われた場合は帰して、支払われない場合は売って奴隷にする訳か」

「はい。これは地球以外も同じなのです。私達がそうなることもありますので、捕虜に関してはちゃんと取り扱わないといけないです」

「確かにそうだな。それで、売り払った奴隷に関してはどうなんだ?」

「そちらに関しては購入者の自由になります。私達の場合は政府かどうかはわかりませんが、管理者がある程度までは保証してくれるみたいです。地球人限定ですが……」


 なるほど。俺達は言ってしまえば政府に保護されている立場だから、一定の額は支払ってくれるのだろう。ただ、それを超えるとどうなるかはおっさしということだろう。


「非公式の三つ目は奴隷というよりも……その……」


 ラピスが恥ずかしそうに顔を赤らめていく。


「あれだったらデータを送ってくれるだけでいいぞ」

「わ、わかりました……これはその、私の口からは言えません……」


 すぐにブレインコンピュータにラピスからメールが送られてきたので、そちらを開いて読んでみるとひばりが見た例の件だった。そこでは地球人が繁殖用の奴隷。つまり家畜になっているということだ。この内容は確かにラピスには早い。

 とりあえず、ラピスの頭を撫でながら条件を確認すると一定以上の借金と捕虜になった回数。子供を産んだ回数など運営に貢献した値で判断されているようだ。

 どちらにしても、ちゃんと子供を産んでいる場合は一人十回は助けてくれるようなので、気を付けなくてはいけない。それに翌々読んでいくと保険のような物といえるかは微妙だが、一定の金額を寄付するとこの回数を回復させてもらえるようなので安心だ。


「……ライトさん以外の……子供、生まさせられるのかな……」

「そんなことはさせないさ。俺は独占欲が強いから、妻を他の男にやるつもりなんてないぞ」

「……ライトさんは、私達以外にひばりさんもいるのに……?」

「それはすまないと思う。でも、それでも嫌なものは嫌だ」

「わかりました。私達はライトさん専用……専用機です」

「良いのか?」

「良いも悪いもないのです。それにあのパートナーを決める部屋で会った人は男性が少なくて女性が多かったです。それから考えると、女性が複数の男性を囲うのと、男性が複数の女性を囲うのでは運営側にとってどちらに利益があるかを考えると後者ですし」


 確かにラピスの言う通り、運営側からしたら男性に複数の女性を囲んでもらう方がありがたいのだろう。女性は子供を産む関係でどうしても一定期間は休まないといけないが、男性は気にせず次の女性を孕ませられる。

 運営側が促している上に補助金なども相当額支給されるので受け入れやすくなっている。特に俺達のような稼ぎがまだ安定していない場合だと特にだろう。ましてやミッションに失敗したら、相当な額が一気に消えることになるので不安になる。現実的に考えられる女性からしたら、受け入れるしかない。といっても、一対一でもできないかと言われればできるので、その夫婦の才覚次第だな。


「それで受け入れてくれたのか……大丈夫か?」

「前に言ったことも本心なので大丈夫です。それにひばりさんはこれから私とルラのお姉ちゃんになりますし、仲良くします」

「それならいいが、人手不足を解消するのは大変だな。裏切られるのも困るしな」


 今はボロボロだから放置されているが、ステーションを修理して使えるようになったら、それを狙って招かれざる客が来るのは予想できる。それにどれだけ防諜や防備を固めても内部から攻められた脆い。それを考えると奴隷を買う選択肢は有りか無しかで言われたら有りだ。だが、ラピス達のことを考えるとできないかもしれない。


「人手をどうするかだな」

「最低でも管制室に置いておける人が必要なのです」

「だろうな。人を置かないと同時にログアウトができない」

「です」


 誰もいない場合なら大丈夫だが、ドックを貸しているので封鎖はできない。管理者として誰かは常駐しないといけない。AIがあればそんなこともないんだろうけどな。


「かと言って、奴隷を使う訳にもいかないし……」

「何故なのです?」

「いや、奴隷を買うのは嫌だろ?」

「別に構わないのですが……」

「男の奴隷を買うつもりはないから、女の奴隷になるぞ」

「それは……ああ、浮気防止なのですか?」

「それもあるな」


 ここで俺以外の男と近付いてもらうのは困る。残念ながら、俺はそこまで自分に自身はない。


「後は単純にラピス達に危害を加えないかという……いや、これは奴隷だったら大丈夫なのか」

「そうですね。それと女性の奴隷を買ってもエッチなことはできませんよ」


 冷めた眼差しでこちらを見て、俺の頬っぺたを両手で掴んでフニフニしだしてきたラピス。


「え?」

「女性と男性の奴隷、どちらもエルフやドワーフは貞操帯が取り付けられています。解除できるのは子供を作った人だけです」

「ああ、なるほどな。もしかして、地球人の人はその限りではない?」

「……多分、そうです。でも、地球人の他の女性を買うのは駄目です。許さないのです」

「そうか。まあ、俺にはラピス達がいればそれでいいし、関係ないな」


 ラピスと軽く口付けをして本心を告げる。信じてくれないかもしれないが、俺としては二人も美少女の嫁が居て、追加でもう一人の美少女が嫁にきたのだ。合計三人も嫁がいればそれだけで十分だ。


「エルフ、欲しくないのです?」

「あーちょっと気にはなるが、ラピス達の機嫌を損ねてまではいらないな」

「そうですか、よかったのです。でも、男性も女性も駄目となると大変なのです」

「まあ、奴隷を買うのが一番経済的だもんな」

「買う時と維持費だけですから……」


 管制室とか、本当に守らなければいけないところは身内だけで固めてしまいたい。そう考えるとほぼ自動化してロボットとかで管理するしかない。


「互いに妥協点を探すのです」

「そうだな。こっちとしては管理施設とか動力炉とか防衛部隊とかは絶対に裏切らない身内で固めたい」

「そうですね。確かに致命的なことを防ぐにはそちらの方がいいのです。そうなると奴隷が一番ですね。他にはアンドロイドやAIという方法も考えられますが、コストが高すぎます」

「費用はどれくらいなんだ」

「ピンキリですが、奴隷は十万から百万で買えます。アンドロイドは愛玩用が数百万。それ以降になると数千万はいりますね。流石に戦艦とかよりは安いですが……」

「AIは? 多分、これが一番いいだろう」

「AIは勉強して作ろうと思います。取っておいて損はないですし、奴隷も駄目となるともうAI制御にして人が介入する場所を徹底的に排除してしまわないと駄目です」


 ラピスの言う通り、これはAIを自分で作って制御する方がいいだろう。しかし、こちらの案は最終的にと言った感じだ。宇宙ステーションの管理用AIなんて簡単には作れないだろうし、いくらかかるのかわからない。それこそ子供を作るのと同じだ。


「AIは置いておくか。そもそもAIができたらアンドロイドを用意してもいいわけだしな」

「それもそうですね。ぶっちゃけてしまえば、それこそここでアンドロイドを生産してもいいわけですし」

「製造プラントも作れるしな。そう考えると、やっぱり今は奴隷を買って人手を増やすか」

「そういう結論になりますね。わかりました。女の人の奴隷を買いましょう」

「いいのか?」

「はい。ただし、エルフとかドワーフ、多種族限定です。人も私達が選びますし、ライトさんの意思は介入させません。またエッチしていい人も、するタイミングも私達が決めさせてもらいます。そこが妥協点ですね」

「あ~その辺りは全部好きにしてくれ。男じゃなければいい。さっきも言ったが、三人がいればそれでいいしな」

「そうなのです。したくなったら、私達にお願してください。何時でも受け入れますので」

「なら、今からとか?」

「構わないのです。でも……」

「でも?」

「今日はリアルでひばりさんを抱くのに、他の女の子を先に抱くのですか? 初めてなのに?」

「あーラピス達は特別だな。確かにそれは止めておいた方がいいか」


 ひばりは文句は言わないだろうが、内心では嫌がるだろうし怒るかもしれない。女性、女の子にとって初めては大切なことだし、しっかりと一対一でやった方がいいな。


「わかった。一対一でやるよ」

「それがいいのです。私とルラはどっちでもいいですが、体力的に二人同時がいいです。私達が気絶したら、ひばりさんを呼んでもいいですし……」

「三人同時は嫌か」

「流石に、その……まだ嫌なのです……ライトさんがしたいというのなら、受け入れますが……もっと仲良くなってからの方がいいのです……」

「わかった。そうしよう。意見があればどんどん言ってくれていいからな。俺としてもその方が助かるしな」

「もちろん言わせてもらうのです。とりあえず、もっと撫でて可愛がってくださいです」


 優しく労わるように撫でていると、着信音が響いた。ブリッジのモニターに表示されたのは高速巡洋艦エリクシールからだった。


「ラピス」

「はい。ちょっと待ってください」


 ラピスが俺の膝の上から飛び降りて艦長席に向かう。今まであった心地良い重みと温もりが無くなって少し悲しくなる。


「メインスクリーンに出します」

「わかった」


 ブリッジの前方にある壁がスクリーンとなって、高速巡洋艦エリクシールの艦長であろう皇という男性が映し出された。


『こちら、高速巡洋艦エリクシール艦長の皇だ』


 視線をやると念の為、録音と提示された船舶データや搭乗員のデータを確認してくれたようだ。ラピスが頷いたので話を開始する。


「確認しました。こちら、ツクヨミの管制室です。先程の見積書の件でしょうか?」

『ああ、その通りだ。そちらの内容で受けたいのだが、支払いに関して相談がある』

「なんでしょうか?」

『支払いは物資や会得物で構わないか?』

「構いませんが、査定にお時間をいただきます。こちらで利用できる物であれば、買い取らせていただきます。ただし、停泊料の三分の一は現金で先にお支払いをお願いしたいです」

『前金の代わりか。わかった。それと燃料や修理に関しては可能か?』

「レベルは低いですが、技師は居ますので可能です。ただ修復は基本的にナノマシンを用いて行うことになりますし、修理に必要な資材に関しては代金を前払いでいただきます。燃料はエネルギーでしたら、供給可能です」

『わかった。そちらの見積も頼む。アルバイトだが、機動兵器を使った野外活動もできる』

「ありがとうございます。それではまずは入港をお待ちしております」

『わかった。よろしくの頼む』


 通信が切れてから、ラピスに誘導ビーコンを出すようにお願いする。メインスクリーンに宇宙の映像が映し出され、こちらが出した誘導ビーコンに従って高速巡洋艦エリクシールがゆっくりとドックに入ってくる。これで一応、修理が進められる。


「ラピス、査定の準備をしてくれ。ツクヨミを直す資材は買いたいからな」

「値段は販売している値段と買い取ってる値段を調べて、その中間でいい?」

「ああ、それでいい。中央値になるだろうが、相場屋にお金を支払ってデータを貰っておいてくれ」

「はいです。すぐにやります」


 これで当面の費用は大丈夫だな。他にもまだドックは空いているから、人が来て欲しいが……護衛の戦力も足りないな。ステーションの破壊を気にしなければ備え付けの防衛装置が一部使えるのだがな。



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