ヴィジランテとは崇高なのか、愚かなのか。現代において存在しうるのか。

 非常に読み応えのある作品で、物語が展開するにつれぐいぐい惹きつけられます。
 現代社会において罪は、それを裁く法が機能して初めて認定され、罰せられます。では法が定める範囲に届かないもの、罪だと認定されないもの、そもそも社会に露見することがないものはすべて罪ではなく、したがって罰を受けなくていいのか。そんな現代のどうしようもないやりきれなさがしっかりと描かれ、胸に迫ってきます。
 人の悪意はいつでもどこでも存在していて、程度の大小に関わらず誰かを害している。そして小賢しい者はまっとうな追及の手を逃れ、安穏と悪事を繰り返し、人々を害し続ける――。そんな胸糞悪いやつらを見逃さず、まっとうでないやり方で罰を受けさせるため、主人公の憂井道哉と羽原紅子は奇妙な協力関係を結び、奔走します。それがなんとも痛快で、心から彼らを応援したくなります。息もつかせぬ巧みな戦闘描写、合間に交わされる軽快かつ秀逸な会話。読んでいて本当に快いです。
 それでも悪を罰した後はいつもハッピーエンドとは限らないし、彼らが救った人々が全てまったくの善人という訳でもありません。ただ、理不尽に何かを奪おうとする者を彼らは許しません。
 ヴィジランテとは崇高なのか、愚かなのか。複雑化した現代社会の中で、高校生という平穏を維持したまま存在し続けることができるのか。深刻な問いに彼らは正面から向き合い、時に悩み傷つき、足を止めながらも闘い続けます。驚異的な才能や技術を持っていても、彼らは十代の少年少女であり、一面には確かにそれぞれ等身大の感情も抱えています。顔のない仮面の下には血の通った心があり、それがより読み手を惹きつけてやみません。
 深いテーマを内包する社会派小説の要素もありながら、エンターテイメントとしても非常に面白い、読み応えのあるヒーローアクション小説です。この作品に出会えて本当によかったと思います。

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