のちに書籍化した作家の初期長編SFです

私はこの小説をほんの数頁読んだ段階で気づいてしまった。私はこの小説に恋してしまったのだ。速読家の私が、誤字脱字を見つけられるような速度で一文一文を大事に読んだ。
途中、何度も胸が熱くなる場面があって、ティッシュの箱を手元に置きながら。
登場人物の全ては大人の魅力に溢れていて、ヒロインはかつて自分がどこかへ置き忘れてきた純真さで周りを動かしていた。息をつく間も無く事件が発生し、精緻で美しい文章がストーリーを紡いでいく。そしてラストは……。

なぜこれ程までに完成度の高い小説が書籍化もされずに燻っているのか。もしかしたら過去にそういう話があったのかも知れないし、時代の流れに合わないの一言で納得しているのか、正直その辺りのところは分からない。
読み終わってひとしきり感動の余韻を味わったあと、私に去来する感情は怒りと失望だった。
これでもカクヨムはSFに強いだなどと言えるのだろうか。知らずうちに私の感じ方が特殊なマイノリティに属してしまっているので無ければ、これは疑う余地のない傑作であり、これが正しく評価されない小説サイトに、いったいどれだけの価値があると言うのか。

少し考えてみれば、この苛立ちは作中のヒロインが社会に対して、そして愛する人に対して感じた憤りに近いのかも知れない。彼女の愛すべき純真さに、私の心の中の何かが感化されているのだとしたら、彼女を代弁する者としてこう言わなければならない。
カクヨムのユーザー達が、いつかこの小説を想い返してくれるまで私はいつまででも待ち続けたい。

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