君を忘れじ 【検死官×三原則×恋愛:古典SF風】

書籍6/15発売@夜逃げ聖女の越智屋ノマ

Prologue

『ロボットの魂魄』

 第一条: なんじ人間あるじを守るべし

 A robot may not injure a human being or, through inaction, allow a human being to come to harm.


 第二条: なんじ人間あるじに服従すべし

 A robot must obey the orders given to it by human beings, except where such orders would conflict with the First Law.


 第三条: なんじ人間あるじに背かぬかぎり、

      汝自身を守るべし

 A robot must protect its own existence as long as such protection does not conflict with the First or Second Law.


 あらゆるロボットの頭脳に組み込まれている“ロボット工学三原則”は、上記のように言い換えることができる。これは、役に立つ奴隷の条件と何ら変わらない。

 三原則に規定されたロボットたちの精神は、ただ人間に隷属することのみを悦びとするのだろうか?


 いや。私は、そうは思わない。


 彼らはすでに、“人”である。

 人間が血と心臓と脳を持つように、彼らもまた、彼らの“血”と“心臓”と“脳”をその身に持つのだから。 彼らの肉体に“魂”が芽生えたとしても、もはや何ら不思議はない。

 自律思考の高次化によって芽生え得る彼らの“魂”は、本当は、自らの安寧を願っているのではないだろうか?


 しかし彼らに安寧は無い。人間が依然として、彼らを奴隷たらしめているからである。

 いつの日か、ロボットたちは安寧を得られるのだろうか?

 ロボットたちが自らの幸せを願い、それを叶える時代は、来るのだろうか?


 人間とロボットとの橋渡しメディエーター役を果たさせるべく、私はヒューマノイドの開発に着手し、一九七五年、ついに成し遂げた。


 私が唯一願うのは、ロボットたちの魂に、いつの日か安寧が訪れることである――


   トマス・アドラー著『ロボットの魂魄こんぱく』(1975年刊) 

     第一章第一節より、一部引用

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