ミッドナイト•ランブラーの各エピソードをどういう意図で書いたか、まとめてみました。基本一話完結型なので、どこから読んでも問題ない…筈。
ネタバレは避けて書くので、面白そうなエピソードがあれば読んで頂けると幸甚です。
※随時更新
第一話…人生最悪の一日
月海夜行の初陣であるこのエピソードは、外連味たっぷりに書く事を意識しました。とにかく次から次へと問題が発生し、読者の皆様を飽きさせないスピード感あるストーリー展開を心掛けたつもりです。
アメリカのアクション映画やドラマに強く影響されて書いたエピソードです。具体名をあげると『コラテラル』『トレーニング・デイ』『24』この辺りが元ネタです。
しかしそのせいか会話が会話が翻訳調っぽく…なんとなく気に食わない為、自分の中でさっさと改めようという意識が生まれました。
第二話…悲しみの果てに
第一話が派手なアクションものなので、もっとしっとりした話を書こうと思いました。どうも自分はバランスを気にする人間らしく、男っぽい作風の作品を書いた次は女っぽい作風の作品を書こうとする傾向がある気がします。
という訳で出来上がったこのエピソードの粗筋ですが、傷心気味の夜行をヒロインのアリスが慰めるというもの。どこからかやってきた女と一緒に暮らす事になるという物語は日本にはやたら散乱していますが、一体なんなんでしょうね?旧くは源氏物語から純文学、果てはラブコメ系の漫画やライトノベルまで。日本の男は女性に甘えるのが大好きなようです。
かくいう私はそうした物語が好きではありません。という訳で、自分で書いといてなんですが、このエピソードも嫌いです。
第三話…悪魔の誘い
ちょっと社会派っぽい話にしてみました。現代社会は罠ばかりで、ボサっとしてると社会から爪弾きにされ、全てを奪われます。普通に生きててもそうなのですから、生まれた環境が悪すぎると最早どうしようも出来ないでしょう。
悪魔はそこにつけ込んで、人間を誘惑してきます。だがそれは破滅の入り口に過ぎない。こうして本エピソードの敵役であり、主役でもある蔵王は破滅に向かって突っ走る羽目になります。
ノワール小説に影響を受けたエピソードです。『郵便配達人は二度ベルを鳴らす』『ゲッタウェイ』『闇金ウシジマ君』の『ヤンキー君』辺りが元ネタです。
第四話…血を求む者
タイトルはオリヴィア•ロドリゴの『vampire』をイメージしました。bloodsucker, famefucker である夜行が片っ端から女に手を出します。こいつ本当に節操ねぇな。
しかしそんな夜行をアリスは怒る事もせず、むしろ羨望の眼差しで見つめている様子…。危険に躊躇なく足を踏み入れる夜行の事をカッコいいと思っているようです。大分この娘も危ないな…。
ちなみにバレエの白鳥の湖も引用されていますが、特に深い意味はありません。私がバレエの演目を白鳥の湖以外に知らないだけです。
作中に登場する大橋三寿はジャニー喜多川がモデルです。生きてる間に彼には罪を償ってほしかったものですが…。
第五話…フランケンシュタインの誘惑
月海夜行のオリジンとも言うべきエピソードです。時系列的にはこれまでで一番古いです。
夜行の名前の由来が作中で初めて語られます。連続殺人強姦魔が名前の由来なんて、ちょっと…いや、大分可哀想ですね。
全ての元凶でもあるメアリー•ブッチャー博士が初登場します。彼女の雰囲気を出すのに苦労しました。
因みにNHKに同名タイトルの番組があるらしいですが、特に関係ありません。
ちなみにブッチャー博士のモデルはカナダのミュージシャンのグライムスとフランケンシュタイン博士です。二人ともテクノロジーの力を盲信しているという点は似てるかも。
第六話…井筒
タイトルになってる井筒とは要するに井戸の事。世阿弥作の同名タイトルの能が元ネタです。
元ネタの方の井筒は作者の世阿弥をして最高傑作と言わせる幽善美な作品ですが、私の腕が未熟だった為に現代風に翻案したところで、世阿弥の領域にはとても到達致しませんでした。
この作品を書くにいたり、舞台となった神社にお参りに行きました。都会のど真ん中にありながら神秘的な場所で、いいところですね。
ちなみに舞台になった神社の現実世界には井戸はありません。私の創作です。
世阿弥の作品以外だとBillie EilishのCHIHIROという曲の歌詞、またその元ネタである千と千尋の神隠しはちょっと意識したかも。
第七話…狼と羊
原点にかえって再びアクションもの。現実世界が総裁選やら裏金やらで慌ただしいので、作中に反映させました。作中に出てくるパンツ泥棒の議員のモデルの人は無事無職になってくれたようで、良かったです。夜行の判断は間違いじゃなかったようですな。
夜行が女の子を尋問(?)する場面はクローゼット•ランドという映画を意識しました。鮟鱇みたいに女の子を吊るす場面は月岡芳年の絵をイメージしました。相変わらずやりたい放題やってくれてます。
第八話…聖と妖 二つの刀
夜行がプリキュアを見ているという衝撃的な事実が判明する話です。
…という脱力するような雑談や聖の刀である氷雷の清廉なエピソードなどは、ただ単に妖の刀である金閣寺の禍々しいエピソードを際立たせる為の前振りに過ぎません。本当に書きたかったのはそっちです。
個人的に結構気に入っている話です。マルキ・ド・サドやバタイユなど、黒いフランス文学のグルーヴを再現したく執筆しました。
自分って淡い恋心みたいなのは上手く書けないんですが、暴力的な病んでるエロなら書けるんですよねー。
フランス文学以外だと、三島由紀夫の短編の『中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃』と『牡丹』から影響を受けています。
第九話…兆し
本来書くつもりなかったエピソードですが、夜行とアリスのやり取りが想像以上に長くなってしまったので独立させました。
心の奥底ではアリスを殺したがっている夜行と、心の奥底で夜行に被虐されたいと望むアリス…ほんの少しだけですが、二人の間に緊張感が漂い始めました。
という訳でタイトルは兆しです。今後二人の関係がどう変化していくのか…それは作者である自分にすらよく分かりません。
第十話…復讐の行方
記念すべき十話…だからという訳ではありませんが、桜を主軸に物語を書いてみました。今まではずっと夜行を主人公にして物語を紡いできましたが、大分話も続いてきましたし、そろそろ他のキャラに焦点をあてようかなとか思ったり思わなかったり。
正直に言うと桜は単なるお色気要因として出したに過ぎなかったのですが、どんどん成長していき今では作中で一番男前のキャラになってくれたのは作者として嬉しい限りです。多分一番タフなのは夜行でも夜行の上司であるレオでもなく桜なのだと思います。
ネタバレになるので名前はふせますが、この回で新しい敵役を二名登場させました。実は書く前は裏切り者の方のキャラを生かして、もう片方は単なる噛ませ犬として出したつもりだったのですが…噛ませ犬目的で登場させたキャラの方が魅力的に見えたので、彼の方を生存させることに方針転換させました。この決断が幸と出る不幸と出るか…。
天城空は第一話にちょっとだけ出てきたキャラクターです。再登場させるのが大分遅くなっちゃってごめんね。
第十一話…我が神は太陽也
樹海を舞台にしたホラーテイストの話。事実上の主人公はアメリカの軍人女性で、主人公の夜行は敵役です。樹海を舞台にしようと思ったのは、ベトナム戦争をイメージしたからです。『プレデター』や『ディア・ハンター』『地獄の黙示録』あたりが元ネタです。
夜行には悪役に徹させるつもりでしたが、最後の最後で甘さを見せます。なんのかんの言っても非情には徹しきれない男なのでしょうね。
タイトルはQueens of the stoneageの『My god is the sun』からインスピレーションを得ました。