今年の夏も暑いですね! なので汗かきがちおじさんであるわたくし、スプレー、ロールオン、クリーム、ネットで評判のよろしいデオドラント三種の神器を揃えてみました。そしてひと通り使ってみてわかったことは、使ったからとて汗は出るというなんとも残酷な真実でしたねぇ……。まあ、気をつけていることに意味があるのだと思い込んで参りましょう。
そういえば今年こそ少しは夏らしいこともしたいところです。お祭りに寄ってみたり、小旅行に出かけてみたり。しかしながらなにせお仕事があるので難しいでしょうか。うん、お仕事があれですから、行きたいのはやまやまなのですが行けないかも。しょうがないしょうがない!
――今月は金のたまご回。みなさまにぜひとも出逢っていただきたい4作を4ジャンルからご紹介させていただきますよ。学生の方は夏休み冒頭、社会人の方はうっすらと見えてきたお盆休みが待ち遠しい頃合いかと思われますが、皆々様どうぞお楽しみあれー。
異形ども統べし獣の王。転生者にして救世主たる黄金の血宿せしアンソニーは長き旅の末辿り着いた世界の最果てにて彼の者を倒した。かくて“獣の夜”は明けたのだが……132年後の世界に新たな魔王が誕生し、異世界より勇者が召喚されたことで状況は一転する!
幕を閉じたはずの救世主譚が新たな勇者譚に上書きされようとしている世界、アンソニーさんは勇者として召喚された少女、迎田エマさんと共に――とはならないのですよ。獣の王の時代の再来を防ぐため、彼は自ら危機へと向かうのです。
心奪われたのは、過去の時代から生きている者が彼だけであり、だからこそ魔王のことも同じ世界から来たのではないかというエマさんのことも、一から探っていかなければならないこと。そんな展開の丹念さと巧みさに加え、彼の「守りたい」意志が匂い立たせる成熟した大人の強さがいい! 逆巻く不穏のただ中で揺るぎない主人公像を輝かせられるのはまさに彼だからこそですよ。
さて、アンソニーさんが紡ぐ第二の物語の行方やいかに!?
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
「俺、出てくから」。同棲していた彼氏の直哉はそう言って出て行った。彼女であった理系女子の博美は仕事やライフワークのツチノコ捜しをこなす合間に、なぜ彼が自分と別れたのかを分析するのだが……弾き出された解答は彼女にとって意外すぎるものだった!
博美さんが最高なのです! セリフや思考、回想にまで彼女の真剣さや直向きさがきちんと押し出されているのですけれども、それが絶大なる理系的ズレを帯びているのですね。彼女の話を聞かされた読者は、彼女のお友達といっしょにツッコまされるよりありません。そりゃ振られるわ!
と、そんな大真面目だからこそ際立つ外連味を見せつける博美さんだからこそ、気にさせられるのです。彼女が弾き出す意外な答とはいったいなんなのか? 主人公の人となりでもってミステリー的な引きを為す、まったくもって小憎らしいほどの巧緻ですよねぇ。
理系女子の紆余曲折がラストシーンで得も言われぬ風情を匂い立たせる、高純度キャラクター恋愛小説です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
神宮寺家の広間で、神宮寺真紀の姉である真由美が殺害された。しかしながら固く守られた屋敷に侵入できる者はない。だとすれば犯人は、真紀を含め屋敷にいた7名の誰かとなる。果たして探偵ならぬただの女子が、言の葉をもって闇中の真実を探す、姦しくも緊迫した人狼ゲームが幕を開けた!
密室殺人は本格ミステリーの定番ですが、そこに小劇場で演じられる演目さながらな、芝居気というスパイスが効かされていることこそ本作の魅力です。
主人公である真紀さんを始め、その密閉空間へ押し込まれた容疑者たちが、会話と対話で互いを探り合っていく――明確な探偵役がいないからこそ、場面場面で誰かが真実を言い当てたのか、あるいは嘘に騙されたのかわからない。でも皆がそれぞれに尽くしていることが濃やかに描き出されているからこそ目が離せなくて。そしてつい思ってしまうのです。犯人がいなければいいのにと。
それでも犯人はいますし、最終章ですべてが明かされ、証されます。どうぞご自身の目でお確かめを!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
紋章。中世ヨーロッパの名家や団体が掲げるシンボルには「それでなければならなかった」理由が秘められている! その理由についてを七條太緒が時代性や歴史的背景を踏まえて紐解き、解説していく。
紋章といえば王や貴族、騎士団やギルドといったファンタジー作品の背景世界を構築するのに欠かせない要素ですよね。
本作はその創作世界のネタ元である中世ヨーロッパで作られた有名な紋章を取り上げ、紋として描かれたモチーフについてや、それが選ばれた理由についての解説となりますが――おもしろいのはその時代に起きた出来事や常識的知識を捕捉し、紋章だけではない、世界観そのものを深掘りしている点なのです。
実際、知らない内はかっこよさやら単純なデザインで語りたくなりがちですが、意味や謂われを知ることで紋章を深く理解でき、さらにその理解が中世を通してファンタジー世界の有り様というものを鮮明に表す。これはまさしくファンタジー好きの方にとって最高の資料と言えましょう。
紋章を通して西欧史の智慧をも得られる指南書です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)