特集
今月頭に公開されたホラー映画『バックルームズ』。人間がどこにもいない不穏な空間ことリミナルスペースの様子を映像でたっぷりと見せてくれて、なかなか新鮮な感覚を味わわせてくれる一作でした。さて、このバックルームズ、もともとは海外のインターネット上で広まったクリーピーパスタ、日本でいうところの都市伝説が元ネタ。日本でも少し前に『きさらぎ駅』が映画になったりしたよね。やっぱ面白いよね、都市伝説は。ということで今回は都市伝説特集です。
都市伝説的な存在である謎の女が様々なトラブルを解決していく群像劇に、掲示板の怖い話を集めたみんな大好きまとめスレ形式の短編集、古くから伝わる妖怪譚を現代風に再解釈した短編集、北海道に伝わる都市伝説を様々な角度から調査し解体するミステリーと、都市伝説になりそうな怪奇現象を扱った作品4本をピックアップしました。夏も去りつつある秋の夜長にぜひご覧ください!
住宅街の一角に祀られた古びた祠、そこを訪れた者が助けを求めるとカンナギカンナが現れ救いの手を差し伸べてくれる……という都市伝説がある地域の物語なのだが、この巫環奈がとにかく変な姉ちゃんなのだ。
見た目こそ人間の美女なのだが、服を着たまま勝手に人の家の風呂に入ってるし、やたら偏食だし、フルネームで名前を呼ばないと機嫌を損ねるし……と言動一つ一つのクセが強い。されど彼女の持つ力は本物。写真に映っている人間の魂を自らの身体に降ろし、生死を問わず、その人物との会話を可能としてくれる。
この巫環奈が、その力を使って悩める人々の問題を解決していくのだが、各話ごとの依頼者たちが、同じグループの親友と連絡が取れなくなったアイドル、好きな男子にバレンタインのチョコを送りたい小学生、卒論のために都市伝説の取材をしたい大学生、敵対グループに仲間を攫われた不良少年など、事情も深刻さもバラバラで実にバリエーション豊か。それぞれが全然別な話でありながら、各話の登場人物が意外な形で繋がっていたりして、読み進めるにつれてちょっとした驚きも与えてくれる。
そして何より自由奔放に振る舞う巫環奈とそれに振り回される人々のやり取りが一番の魅力。まず試しに第一話を読んでみて、巫環奈というキャラクターを気に入ったならば最後まで楽しめること請け合いの一作だ。
(「令和の都市伝説」4選/文=柿崎憲)
匿名掲示板のオカルト板のスレッドに書き込まれた、怖い話をまとめたという体裁の本作品。元が掲示板に書き込まれた話というだけあって、その内容は千差万別。
ASMRの耳舐め動画や動画サイトで自動生成される字幕、ゲーム内に再現されたお婆ちゃんの家など、いかにも今風の話もあれば、実家の蔵で見つけた怪しい呪物や、子供のころの肝試しの思い出などいかにも怪談の定番というものもあって、怖さの幅がとても広い。
一見すると一話完結の話の集まりに思われるが、ある人物が振り返る大学時代の先輩の思い出が回を重ねるごとに不穏さを増していったり、あるエピソードが以前にスレで語られた話と思わぬ形で結びついたりするなど、独立していたと思ったエピソードが読み進めるうちに関連性が浮かび上がり、またスレッドの編纂者が各話の文末につける注記もどんどん怪しい雰囲気を増していく。
スレで披露される怖い話に対して、住人たちが常に新鮮なリアクションを見せてくれるのも楽しく、特にリアルタイムで語り手に異変が起きていく類の話では、より恐怖を引き立ててくれる。分量はたっぷりあるものの、一話自体は短いため、興味が湧いたホラー好きの人はとりあえず一つ二つつまんでみるのをおススメしたい。
(「令和の都市伝説」4選/文=柿崎憲)
江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕による『画図百鬼夜行』に登場する妖怪たち。本作はこの妖怪と関わってしまった人たちの経験談を一話完結でまとめた短編集となっている。
しかし石燕の時代とは違い、現在は令和。妖怪という存在も半ばキャラクター化されており、デフォルメされることも多く大して怖くないんじゃ……?と思わせといて、しっかり怖いから性質が悪い。
各話ごとに語り手は変わり、老若男女、世代も立場もバラバラな人たちが自身が体験した怪奇現象を語っていくが、語り手を精神的に追い詰めていくものから、物理的にダメージを与えてくるもの、時には結果的に人間を助けてくれるものもいたりして、読み終わるまで、どういった種類の怖さが襲ってくるのか想像がつかないのが大きな特徴。ちょっとほっこりする話の次にとんでもなく怖い話が来たかと思ったら、その逆のパターンも平気であったりして、一話ごとに内容の予想が全くつかないのだ。
各話文末には作者による本来の妖怪に対する解説が記されているため、話の元ネタとなる妖怪をよく知らなくても、作者が妖怪たちをどのようにして現代の怪異譚にブラッシュアップしていったのかがわかるのも嬉しい。
きちんと元ネタの要素を尊重しながらも、既存の視点とは違った解釈を加えて、妖怪たちに新しい光を当ててくれていて、妖怪好きの方や短編ホラーが好きな人は必見の作品だ。
(「令和の都市伝説」4選/文=柿崎憲)
ゼミに提出するレポートのテーマに悩む大学生の「私」は、ネットで偶然見た動画をきっかけに、北海道のある山村に伝わる牛鬼伝説を調査しようと、現地に出向くことに。訪れた新須見村は一見すると普通の村だったが、旅の疲れで「私」が宿で寝入ってしまうと、その枕元に「ムラニ仇ナスモノハ死ス ワレハウシオニ」と書かれた一通の手紙が残されており……。
村に古くから伝わる伝説が題材となっているものの、本作の構造はホラーというよりもミステリーに近い。「人の身体に牛の頭を持つ妖怪が現れ『戦争が来る』と予言した」という村に伝わる伝説の正体を探っていくのだが、そのプロセスが実に丁寧。本州の方で伝わる牛鬼の伝説との比較、北海道における牛と酪農の歴史、宿に隠されたある特殊な構造など、些細な疑問を積み重ねることで伝説への違和感を浮かび上がらせ、最終的には村に隠されたある真実を解き明かしていく。
「牛の身体に人の頭を持つ妖怪『件』が予言を行う」という怪談は昔から存在したが、その伝説の舞台を北海道にしたことで、これまでの件伝説とは全く違う意味合いを持たせるという、全体の構成が素晴らしい。また複数の資料を取りまとめることで、導き出される真相の説得力にも厚みが与えられており、力作という言葉が良く似合う民俗学ミステリーだ。
(「令和の都市伝説」4選/文=柿崎憲)