先月からBOOK WALKERで大規模なセールが行われており、特に何も考えず手当たり次第に本を買い込んでいたんですが、その結果この2か月で蔵書が600冊以上増えていることが判明し、流石に真顔になりました。「いくら買っても部屋が狭くならないから電子書籍って素敵、紙の本なんて旧時代の文明ね」なんて嘯いていたのですが、自分でも気づかないうちに600冊本が増えてるのは流石に怖いよ……。とりあえず『ママレード・ボーイ』と『食キング』全巻読まなきゃ……。
そんなわけで、新作紹介コーナー「金のたまご」でございます。ファンタジー世界に超文明の遺産が齎されるSFから、ヤクザの男が語る怪奇なのかヒトコワなのかわかりづらい心霊体験、異世界転生で生じる様々なトラブルを引き受けるコールセンターのお仕事コメディ、野球が消失した世界で人類が再び野球を作り上げる様子を描いた思考実験SFなど、ユニークな作品を取り揃えました。積んでる本が片付いて読むものに困っている方、これを機にいかがでしょう?
実家が没落し学費の支払いも厳しい状況に追い込まれていた貴族令嬢のアリシア。それでもたくましく生きていた彼女だが学園の遠征実習中、同級生によってモンスターの群れに追いやられ見捨てられてしまう。絶体絶命の窮地の中で、彼女が偶然見つけたのは未知の人工物。その正体は銀河連邦によって作られた、AI搭載の惑星開発用コンテナだった……!
実の彼女の祖父は、たまたまこの惑星に不時着してしまった銀河連邦の軍人で、このコンテナの本来の持ち主。そして血縁によって彼女はこのSF的な超文明の遺産をそっくり受け継ぐことになったのだ!
しかしテックフォードという名がつけられたこのAI、意外と融通が利かない。モンスター退治を頼めば、「現地生命体の虐殺は、環境保護の観点から禁止されています」と言い出すし、お金儲けの相談をしても「その質問にお答えするためには、文化や市場、それに常識の情報が必要です」というまともすぎる回答が返ってくる。ファンタジー世界のお嬢様とSF世界のAIという全く違う文化に属する二人のこうした掛け合いがとても楽しい。
また、なぜ銀河連邦外のこの星に、現生人類とそっくりな人間が存在するのか、なぜこの星の人間は魔法が使えるのかなど、ただSF兵器をファンタジー世界に持ち込むだけではなく根幹の設定にSF的な考察要素が根付いているのも嬉しい。
というわけで、最強の遺産を手にしたものの、銀河連邦宇宙軍法により縛りプレイを強制させられるアリシアお嬢様がここからどうやって逆転していくのか、是非今後を見守っていきたい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
怪談を蒐集している主人公はある日、知り合いのライターからある心霊体験を持つ人間を紹介される。しかし、呼び出された先の喫茶店に現れたのはどう見てもヤクザ。それも若いチンピラなどではなく、かなりの貫禄のある人物である。この時点でだいぶ恐ろしいのだが、その老人がいざ怪談を話し始めると開口一番が、「これは俺が、クスリをやっとった時に見た幽霊の話なんだけどな」
いや求めてるのは、そういう怖さじゃないんスよ……。
しかし、この老人、コワモテながらも語りは非常に上手い。過去の薬物乱用や死体遺棄などのだいぶブラックよりのグレーな話をしながら、
「と言っても、ウチはカタギさん、つまり一般市民には手ぇ出したことないから。そこは覚えといて」「カタギかカタギでないか、というのは、どのように決まるんですか」「それは俺らが決めることだね。俺らが手ぇ出すような奴はカタギじゃない、とも言える」なんて小粋なユーモアも交えつつ、自身の体験談を軽快に語ってこちらの興味を惹きつけてくる。
表向きはにこやかに相槌を打ちつつも、内心ではグイグイツッコミを入れる主人公の心情描写も楽しく、もしかしてこれはブラック寄りのコメディなのかな……?と思わせたところで、ちゃんと話は不穏なものになってくるから、ヤクザも作者も語りが上手い。
果たして、この物語の先にどのような種類の「怖さ」が待ち受けているのか? それは実際に読んであなたの目で確かめてほしい……。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
トラックに轢かれて突然異世界へ転生するのは過去の話、きちんと手続きを踏んで勇者たちが異世界に送り込まれるのが当たり前となった現在。しかし、そうなるとただ送りっぱなしでは終われないということで、現地で起きるトラブルの相談を請け負うのが、本作の舞台となる『勇者コールセンター株式会社』だ。
基本は一話完結の短編集となっており、「想定してたレベルでは勝てないような敵が出現した」なんてものから、「動画サイトで学んだチートスキルが通用しない」、「現地の王族に求婚されて困っている」など、様々な事案が盛りだくさんである。
トラブルの状況も千差万別なら、解決方法も多岐にわたり、時には力押しで解決することもあれば、ビジネスの慣習に従って契約の不備を突くなど、状況によって様々なパターンが見られるのが面白く、異世界に勇者を送るのが当たり前の世界だけあって、スキルをサブスクで貸し出す企業や、魔王側をサポートする企業まで出現しており、独特の世界設定もまた魅力的。
社長は大賢者で、マネージャーは元勇者とそれぞれ人間離れした力を持っていながら、ライバル企業との折衝や離職率の高さに悩まされたりと、一般的な職場でも見られるような問題に頭を悩まされているというのもユニークで、変則的な異世界ものであると同時に、お仕事ものとしての面白さも兼ね備えた作品だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
ある日、人類の上位存在によってこの世界の歴史から『バット・アンド・ボール・ゲーム』という概念が消されてしまう。ボールをバットで叩くスポーツ、つまり野球やクリケットなどの存在が根本から抹消されたわけである。
しかし、野球とは人類の歴史から切っても切れないスポーツ。野球が消えた世界でも人類はすぐにボールを棒で叩く遊びに目覚めていく。この後再び野球が産声を上げられるのかを、上位存在の視点から観察するのが本作品だ。
サッカーなどに較べて野球のルールはなかなかに複雑である。しかし、本作では一人の変わり者が、子供たちが棒で玉を叩く様子を見つけて、この遊びをどうすればスポーツとして成立させられるか、真剣にシミュレーションしていく。
この考察の内容がとても興味深く、これまでのスポーツの型に囚われないものはないか、どのような駆け引きの要素があればスポーツとして成立するのかなどと、ゼロから新しいルールを組み立てようとする様子は読んでいて実に新鮮。果たして彼の思考は本当に野球の再発明へと辿りつくことができるのか?
身近な野球の概念をあえて解体し、当たり前だと思っていたルールを新たな視点から見つめ直させてくれる、非常にユニークな思考実験的SFだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)