気がつけば近所の田んぼの稲も刈り入れが終わり、景色ががらっと変わっておりました。気温はまだ微妙な感じですが、秋ですねぇ。
わたくしが秋生まれということもあるのですが、冬に向けて世界が備えにかかるこの時期が本当に好きなのです。ゆるやかに静まりゆく感じと申しましょうか、侘びや寂びという風情が深く染み入る気がしてならなくて。
そういえば10年ほど前にとなりの家で飼われていたのが大脱走、我が家の無農薬庭にて大繁殖した鈴虫が絶滅してしまいました……! 去年までは確かにあの美しい音色がけたたましく聴こえていたのに、他の虫は無事でなぜ鈴虫だけが!? などと困惑したわけなのですが、これぞ盛者必衰の理かと、わたくし太ましい胸をうら寂しさに蝕まれてしまいましたよ虫だけに。
とりあえず初秋の玲瓏、その再興を祈りつつ、今月は金のたまごな4作品をご紹介いたしますー。どうぞお楽しみを!
働きづくめの前世を後悔し、せっかく転生できた異世界では自分の思う最高の生きかたをすると思い定めたルード。しかし彼の埒外な能力は人々の心を鷲掴み、冒険者として頼られてしまって……。夢のスローライフを貫くことに己を尽くしたい、そんな男のままならない日々!
ルードさんの心は休日を全力で楽しみたいという一点からブレません。まさに鋼の意志って感じですが、だからこそです。周りの人々の心が掻き乱されてしまうのは。そして読者は彼らの七転八倒を安心して楽しめるわけですね。最強存在である彼がどれほど偉業を成してしまおうと、後には充実した余暇が敷き詰められていますから。
なにせスローライフを彼が心からのんびり――ギャンブルや闘技など、ある意味殺伐としたものまで含めて――と満喫する様がしっかりドラマ化されていますからね。それが実に愛おしいのですよ。緩急とは云うものですが、これほど“緩”が際立った物語はありません。
モテ話もありますノースローライフ・ノーライフな英雄譚、あなたもどうぞご満喫ください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
見た目はギャルだがしごできな経理部所属の冬堂ゆきと、学生時代からの後輩であり、その清楚な美貌で社内一の人気を誇る人事部の花・桜乃小春。ふたりには周りに隠している秘密があった。それは同居中の間柄であること。そしてゆきには小春へすら明かしていないもうひとつ秘密があった。小春に特別な感情を抱いているという秘密が――
同棲ならぬ同居関係のふたり、この微妙な関係が織り成す寮生活めいた日常だけでも楽しいわけですが、そこに主人公であるゆきさんの拭いきれない感情が加わることで、微妙は絶妙へと昇華するのですね。
おかげで何気ない会話劇にすら恋の予感が匂い立って、でもふたりが甘々しながらも一歩を踏み出さないからこそ読者はトドメを刺されることがなくて……尊さとは時に刃より深く胸を抉るものなのだ! と大悟するよりないわけです。まさに超良質な百合でなければ味わえないほろ苦い痛みではありませんか。
早くどうにかなってほしい思いといっそこのままいてほしい思いが読者をざわつかせる本作、当然波乱もありありですよ!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
真壁湊の元へ10年ぶりに高校の同窓会の案内状が届く。彼がすぐに出席を決めたわけは、「全員、来ること」の文言のせいではなかった。参加者欄にあった白石奈央の名――10年前に死んだはずの少女の名があったためだ。果たして彼は母校へ向かう。死者との再会を果たすために。
謎から始まる同窓会はスタッカートな文章と会話劇とで綴られていきます。それこそ10年前に起きた悲惨な事故、奈央さん始めそこで死んだはずの7人との再会すらも。
ですが、しかし。
行間に詰め込まれたほの暗い風情が、文量を遥かに超える描写を読者の脳裡に情景を描かせるのですね。私などはよく「におい」と表しますが、それをこうも濃密且つ叙情的に味わわせてくれる作品はなかなかありません。
そうして得も言われぬにおいが読者の胸中へ降り積もり、真相が明かされた瞬間ざらっと崩れて寂寥の苦みを醸し出す。この最高で最悪なクライマックスがまったくもってすばらしいのですよ。
普段ミステリーを読まれない方にもおすすめしたい、馥郁たる物語です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)
ネットゲームで知り合った友達に誘われ、伊勢の朝熊山へ登山することとなったゲーマーgyutoro。苦しみ、語らい、苦しみ、楽しんでまた苦しむ中で彼は、山に登ることに開眼する。
誘われたという軽い理由から低山登りへ出かけたgyutoroさん。インドア派にとっての山がどれほど辛いものかが透かし見えて、読んでいるだけで辛くなるのですよ。
でも。山頂へ続く舗装道路を発見したgyutoroさんが自分の足でなくとも登れることを知り、「これではつまんないな」となったそのとき、私も「ああ」と得心したのです。辛いからこそその先が見たくなるんだって。
そうして山頂からの眺めを共に感じさせていただいて、また得心するのですね。先には辛いを積み上げた分だけのなにかが待っている!
gyutoroさんの心情が妙な装飾なしに綴られているのが本当にリアルで、読んでいるだけでいろいろ思わされて、気づけば惹き込まれているのですよ。
読めば自分もちょっと山へ挑んでみたくなる、登山歴6年となったゲーマーによる登山記です。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)