特集
カクヨム10周年記念企画「ウェブ・現代・小説」にエッセイを寄稿させていただきました。「これからのWeb小説はどうなるのか」を主題に、少しばかり語らせていただいています。文字数の都合上、本文では割愛した話ですが、タイパ・コスパを重視する若い世代にライトノベルを届けるには、これからは「面白い」だけでは足りないのではないかと思っています。サブスクでアニメやドラマを倍速で視聴する人たちに、これからどんなエンタメを提供していけばよいのでしょうか。彼らがなぜ倍速で視聴するのかと理由を掘り下げてみると、必ずしも「作品に興味がある」という理由ではありません。例えば、友達と会話を合わせるため。恋人と映画を観に行く前に、原作を履修するため。つまり、「必要だから」という側面があるわけです。そう考えると、これからは「面白い」だけでなく、「読者の人生や将来にとって必要とされること」。そんな作品作りが、これからのエンタメには求められるんじゃないでしょうか。さて、今回は『法律』をテーマにした特集です。私たちが社会で暮らしていく上で、法律は決して避けて通れないものです。就職すれば労働基準法に関わります。家を借りれば、借地借家法などの法律が関係します。事件やトラブルに巻き込まれれば、民法や刑法をはじめとするさまざまな法律と向き合うことになります。このように、私たちの生活に法律は深く関わっています。それなのに、大人になっても法律について詳しく知らない人のほうが多いのではないでしょうか。自分がまさにそうですね。私は、そこに大きなニーズがあると思っています。「読んでためになる。しかも、面白い」。そんな作品を目指せば、読者に新しい付加価値が、作者には新しい個性が生まれるのではないでしょうか。知識を得ることが、そのまま娯楽になる。これがこれからのエンタメにおける、ひとつの「勝ち筋」なのかもしれません。
現代から異世界に迷い込んだ弁護士・史峰正義。ひょんなことから、一風変わった訳ありの依頼人に代わり、さまざまな難事件や大騒動の解決に挑むことになる。異世界の非常識と法律が入り乱れる異色の異世界法廷ファンタジー。
この異世界では、自力救済が主流。裁判といっても相手は法律の素人ばかり。プロの弁護士である正義が、論理武装して裁判に挑めば勝訴間違いなし!──と思いきや、そこは異世界、毎回とんでもない落とし穴が待ち構えているんです。
妖精から依頼を受けても、姿も声も認識できない妖精では訴訟そのものが成立しない。離婚調停では、依頼人が悪魔の嫁と魂の契約を結んでいて、命まで懸かった一大事に。さらに殺人事件の弁護を引き受ければ、殺された被害者本人がリビングデッドとなって証言台に立つ。「これだからファンタジーは!」と正義が頭を抱える展開に思わず笑ってしまいます。
完全にお手上げな状態から、いつも起死回生の一手を繰り出す正義の悪知恵に驚かされるんです。必ずしも正義や真実に忠実なわけではありません。しかし誰もが納得のいく結末になっているのがお見事。最後の判決が下るその瞬間まで先の読めない、奇想天外な法廷ドラマから目が離せません。
(「法の名のもとに」4選/文=愛咲優詩)
コンビニ強盗から客を庇い、命を落とした女性弁護士・城山律子。彼女が異世界で転生したのは、乙女ゲームの『悪役令嬢』である侯爵令嬢プルデンティアだった。前世の法律知識と魔法を武器に、理不尽な運命へ立ち向かっていくリーガルファンタジーです。
侯爵家の令嬢として育ったプルーは、幼い頃から並外れた才覚を発揮。わずか10歳で執筆した法律論文は学会で賛否両論を巻き起こす。法曹予備学院に首席入学し、友人にも恵まれ、順風満帆な人生を歩むかと思われた矢先、目の前で最愛の母親が通り魔に殺されてしまう。
なぜ母は殺されなければならなかったのか。母はいったい何と戦っていたのか。そこから母の死の真相を解き明かす謎解きミステリーが始まるんですね。見た目は子供、頭脳は大人。それでも愛する母を失った悲しみは簡単には消えません。悲しみに耐えながら真相へと迫っていくプルーの健気な姿に胸を締め付けられます。
法律と魔法を駆使して「悪役令嬢」という運命をひっくり返し、この世界の陰に隠れた陰謀に立ち向かっていく。ひとりの少女の壮大な愛と家族の物語です。
(「法の名のもとに」4選/文=愛咲優詩)
冤罪救済チーム《トゥルース・コード》は、冤罪被害者を救うため、さまざまな分野のエキスパートが集まって結成されたNPO法人だ。一見、完璧に思える事件記録から違和感を見つけ出し、偽りの証拠を暴き、有罪判決を覆していく法廷ミステリーである。
ストーカー男性による殺人事件、ドローンの激突による業務上過失致死、深夜の団地で起きた通り魔事件――。どの事件も「映像・物証・証言」が揃い、被告人の有罪が濃厚な案件ばかり。しかし、代表の御堂慎一は「完璧に思える証拠ほど疑わしい」と語る。
監視カメラの映像はすべてを映しているのか。物証は改ざんされていないのか。証人の記憶は正しいのか。事件記録をひとつひとつ検証し、わずかな矛盾を見つけ出す。有罪の決め手となった証拠が、今度は無実を示す証拠となる逆転劇が痛快でもあり、少し怖くなる。
現代人の私たちは、わかりやすい善悪を求めがちだ。SNSやニュースで得た情報を真実だと思い込み、深く考えずに誰かを悪だと決めつけて正義に酔ってしまうことがある。果たして自分が見ているのは本当に真実なのか、自分たちもまた冤罪を生み出している側ではないのか。裁判での真実が齎す危険と救済を描いた一作です。
(「法の名のもとに」4選/文=愛咲優詩)
新米営業マン・結城悠太が勤める「黒須不動産」には、不動産トラブルを抱えた人々が次々と相談に訪れる。そんな彼らの問題を解決していくのが、社長でありスゴ腕の法律家でもある黒須司だ。悪徳業者に騙された人々を法律の知識で救っていく不動産トラブル解決ストーリー。
「8日以降でもクーリングオフは適用できる?」「仲介手数料は家賃1か月分が原則?」「宅地にできない農地を買ってしまった場合、返却できる?」――。誰の身にも起こり得る、身近な不動産の問題が次々と巻き起こるのが興味深いです。
法律に詳しくない一般人はもちろん、資格勉強中の悠太ですら、悪徳業者の巧みな罠に騙されそうになります。しかし、黒須は契約書や手続きの不備を指摘して不利な状況を覆す。悪徳業者を懲らしめ、鮮やかに依頼人を救っていく光景に胸がスカッとします。
「契約書にサインしたら覆せない」。そんな素人の思い込みや先入観を気持ちよく否定してくれるんです。実際の法律は、契約書にどんな特約や例外が書かれていても、弱い立場の人間を保護するように出来ているんですよ。「法律って、こんなに面白くて、こんなに美しいものだったのか」と感心するばかりです。きっと貴方の人生の役に立つ、土地とお金と契約のお話です。
(「法の名のもとに」4選/文=愛咲優詩)