誕生日、祝ってますか?
わたくしは己の誕生日を呪う心持ちで祝っておりますよ!
なにせ人生折り返して久しいですからね。誕生日ってやつは己の終着点を確かめる日なわけです。でも、やっぱり特別な日であることは間違いありませんし、地元のホテルに泊まってきました。普段泊まる機会がないからこその非日常感は極上ですよねぇ。しかも部屋に閉じ籠もって仕事すれば昔の文豪気分が味わえますから。……結局のところ仕事しかしてないんですけども、大事なのは非日常感ということで。
さて、今月は異世界を舞台に綴られる“差”のある恋愛物語の特集です。異世界は歳の差のみならず、現代世界よりも格差や身分差といったものが明確な舞台ですからね。異世界と恋愛は差というものを生かしやすいジャンルであるものと思うのです。筆頭格はもちろん悪役令嬢ものとなりますが、そのカテゴリに入らない恋愛ものがじわじわと、女性向けばかりでなく男性向けでも書かれるようになってきていることは実に興味深い流れですよねぇ。
というわけで、今後のさらなる発展が期待される異世界“差”恋愛、どうぞご堪能ください。
強き魔力を備えた者が貴族の立場を与えられるアラバイン王国。その地に平民として転生したラキウスだが、彼には確かな魔力が宿っていた。その才能を開花させるべく進学した王立学院で彼は運命の人、辺境伯令嬢であるセーシェリアと出逢う。彼女に釣り合う男となるべく彼は奮迅し、ついにはこうと謳われるのだ――アラバインの竜王。
本作の魅力はなんといってもラキウスくんが成り上がっていく疾走感と爽快感です。でも、読み進めていくにつれ気づかされるのですよ。軽妙な物語運びをしっかり書き込まれた彼の心情や登場キャラクターの有り様が支えているからこそ、迅さと快さが浮き彫られている。
その書き込みの妙は物語のエピローグがプロローグに置かれた構成にもくっきり表れています。この物語が安い成り上がりものでなどではない、ひとりの男が辿り着く果ての万感を、この上ない叙情をもって語り上げた人生録であるものと。
貴族の令嬢に心奪われた一介の平民が描く数奇なる恋路と栄達の道、太い物語を求めるあなたにおすすめします!
(「“差”のある異世界恋愛譚!」4選/文=髙橋剛)
勇者によって魔王が倒された後の世界。両親の悪行のせいで村の忌み子として虐げられていたアラムは、他者から死を与えられることを強く望むようになっていた。が、願いは果たされず、無意味な日々を送り続けていて。そんなある日、無数の疵痕をその身に刻んだ女性――勇者ユーリカと出遭い、望む。「僕の身体を命と魂ごと斬ってもらいたいんだ」。
アラムくんが内に詰め込んだ重い孤独を浮き彫る筆、その濃やかさに鷲掴まれました。派手な演出は一切ないのに、丹念という名の容赦なさでひとりの少年の真実が剥き出されていく。この静やかでありながら激しいうねりを魅せるドラマだけでも見応え十分なのですが。
彼は出遭い、出逢うわけですよ。大きな目的を達成してしまったことで未来を見失った勇者ユーリカさんと。この凄まじく太い「始まり」は物語を十二分の域へと押し上げるのです!
さて、傷だらけのお姉さんに連れられて踏み出した広い世界で、人生に絶望していた少年はなにを見出すものか? 奇しきボーイミーツガールの行方、その目で見届けていただきたく!
(「“差”のある異世界恋愛譚!」4選/文=髙橋剛)
アイリス護衛騎士隊所属の魔術士レイラは19歳年上の騎士隊長サイラスに密かな恋心を抱いていた。とはいえ自分は不出来な平隊員に過ぎず、なにより埋められない歳の差があって、到底告白などできようはずがない。実はサイラスが同じように彼女へ恋心を抱いており、立場と年齢の差によって告白できずにいることを知らず……
いい恋愛ものの定義のひとつに「さっさとくっつけ!」と読者を憤激させるキャラ同士の関係性がありますが、この両片思いで焦れ焦れする「無間じれったい地獄」はまた格別な妙味を味わわせてくれるのです。
どちらかが1ミリ勇気を出せばいいだけのことなのですよ。でもその1ミリの凄絶な遠さ、すなわちレイラさんとサイラスさんの年齢差と立場差が作り出す心理的距離は如何ともし難いもの。本作の見どころはまさにそれ。女子と壮年男性それぞれの切なさでじっくりと距離の遠さを魅せてくれることにあるのです。おかげさまで読者は思いきり焦れたり悶えたり転げ回ったりできるわけですね。
胸締めつける恋物語が読みたい方、あなたの望みは本作で叶います!
(「“差”のある異世界恋愛譚!」4選/文=髙橋剛)
亡き父の母校へ自分も! 能力不足を自覚しながらも必死で努力を重ねてきた大谷一輝だが、唯一の希望だった指定校推薦を「女子生徒が優先される」という理由で遮られた。まさにお先真っ暗な状況、交通事故に遭った彼は異世界へと飛ばされて、思い知らされるのだ。ここが圧倒的な女性優位な世界であることを……
魔力で自然に身体強化している女性が活躍する世界の中、凄腕冒険者の夫として庇護されるよりない状況の一輝=カズキさん。棄てられないよう感情を飲み込んで妻へ傅くよりないとの彼の有り様はある意味性別逆転ネタで、異世界ファンタジーの新たな切り口として目を奪われました。
妻であるソフィアさんを筆頭に、キャラクター造形が絶妙なのですよね。この世界の常識を体現する女性キャラの有り様がそのままカズキさんの壁になっていて、同じ世界から来た絵里奈さんがテーマ性を深めていて。だからこそ自立を目ざすカズキさんの力強さが輝くのです。
最高の成り上がり物語にして極上の恋愛劇を同時に堪能できる一作です!
(「“差”のある異世界恋愛譚!」4選/文=髙橋剛)