皆さん、今話題のあの映画はもう見ましたか? 遥かな宇宙を舞台にした壮大なストーリー、豪華なVFXを存分に使った素晴らしい映像美、アクションフィギュアも多数作られた、誰もが知っているあの超人気IPの最新作、そう『マスターズ・オブ・ユニバース』の話ですよ!
もう21世紀も1/4が過ぎたってのに、80年代に作られた今となってはチープなフィギュアたちを現代の技術で大真面目にヒーローとして描くというこの暴挙! 露出度の高いマッチョが剣を振りかざしスクリーン狭しと大暴れ! 本来ならカルト映画として処理されそうな企画が、大手を振るってビッグバジェットとして公開されてるんだから、これは絶対見た方がいいですよ!…………いや、絶対は言いすぎかもな……でも、まあ、見とけば話のタネぐらいにはなるし、何より普通に面白いっすよ、『マスターズ・オブ・ユニバース』。あとここまで書いてなんですが、最近の旬の話題に触れたいんなら素直にワールドカップの話をするべきだなって気づきました。
さて、そんなわけで今月の金のたまご特集です。こちらも絶対おススメな新作を4本ご紹介です。わざわざ映画館まで足を運ぶ必要もなく、気になった瞬間にすぐ内容を確認できるのがカクヨムのいいところですよね。というわけで、これらの中から気になった作品がありましたら、どうぞ楽しんじゃってください!
ただ強さを求め人生の全てを武術に費やしてきた男、荒木鉄心。死の直前の「――まだ、足りない」という彼の末期の思考を神が聞き届けたのかはわからないが、男は再び生を受けることになる。今度は人ではなくヒグマとして……。
ヒグマである。食っちゃ寝してるだけでも人間の格闘家よりも遥かに強いヒグマだ。だが、一度目の人生を武に捧げてきた武術家がそんな生まれ持った強さだけで満足するはずがない。こうして鉄心は、七十二年分の知識と経験を活かして、仔熊のころから過酷な鍛錬を積み、異常な強さを手にする。手にしてしまうのだ。
熊でもできる独自のトレーニングを考案し、食事メニューにも気を使い、タンパク質を確保するため熱心に狩りを行い、最強の肉体を築き上げる鉄心。こうして本作の序盤では、前世のメンタルと知識をフル活用して、子供のころから高効率なレベリングを行うという転生ものの醍醐味がたっぷり楽しめる。
そうすると当然の疑問として「別に戦う相手もいないのに、そんな強くなっても……」という声が挙がってくるだろうが、安心してほしい。ヒグマという生命体は個体としては最強かもしれない。だが、人間という種は道具を扱う知性と、集団で行動する協調性を併せ持つ。それは生存という観点では個体としての強さより遥かに重要なことだ。そして、人間は自分たちの生存圏を脅かす生物を決して許さない……。
究極の肉体に武術家の魂を備えた頂点捕食者のヒグマと、この惑星の支配者である人類という集団。この異なる種族の対峙はどのような結末をもたらすのか。是非刮目してほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
ノルトマルク連邦の歴史書において天才参謀と記されるクラウス・フォン・ライフェンベルク。普段は沈黙を保ちながら、ただの一言でその場の趨勢を決定づける思慮深さの持ち主……などと書かれているが、実際の彼はどのような人物で、どのようにして歴史に名を刻んだのか本人の視点から描いていくのが本作品である。
結論から言うと、我慢強いうえに怒られるのが嫌なので口数が少なかったというだけのことである。つまり勘違いで周りから評価されていくパターンのやつね……と思いきや、微妙にそういうのとも違っていて、このクラウスという男、とにかく調整が上手い。会議の中で派閥間の意地やメンツがぶつかり合い、角が立ちそうになると、上手いこと問題を切り分けて丸く収めてしまう。主人公は軍人で舞台は軍隊なれど、物語の中心となるのは戦場そのものではなく、それ以前と以後。如何に兵を訓練し、如何に戦争の大義名分を立て、如何に穏便に戦後処理を行うのか。普通の戦争ものとは少し違った角度から軍隊というものを描いているのが本作の特異性で、書類や面倒な上官相手に汗を流すクラウスの姿は、ある種のお仕事ものとしてとても楽しめる。
しかし、彼の職業はサラリーマンや外交官などではなく、あくまで軍人。時には兵に命令を下すこともあれば、自ら火線の前に立たねばならぬこともある。そしてそのような場では彼の調整能力は役に立たない。では彼はどのようにして現実の戦場に対処していくのか?
有能であることには間違いないが、「天才参謀」という評価には決して見合うほどじゃないクラウスが、なぜ歴史に名を残してしまったのか。気になった方はその目で歴史の生き証人となってほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
WEB小説では一大ジャンルとしてすっかり定着した「追放もの」。パーティーで役立たずと見なされ追い出された主人公が実は優れた力を持っており、一方でそんな優秀な人物を追放した元のパーティーは……というのがお約束だが、本作はそのお約束を少しひねってミステリーにしてしまったから恐れ入る。
第一章ではパーティーの成長についていけなくなった付与術師が、第二章では王子の婚約者として国に尽くしてきた聖女が追放のターゲットになる。どちらもWEB小説でよく見かけるシチュエーションだが、その裏には十重二十重の思惑が存在しており、その真相に切り込むのが追放代行団リザードテイルの団長ヴァン・サンライト。
追放のプロを自認する彼の手にかかれば、ありがちに見えた追放劇から衝撃の真実が導かれる。さらに真相がわかってから改めて作品を読み直すと、一見しただけではわからない形で様々な場面に伏線が張られていることや、登場人物たちの自然に見えたセリフに全く別の意味が込められていることに気づかされるなど、ミステリーとしての楽しみもたっぷりで、ただの追放もののアンチテーゼでは終わらない魅力を秘めている。
ヴァンとその仲間であるリザードテイルの面々がいい奴揃いなこともあって、1章2章のどちらも綺麗に話がまとまっており、現在も第3章を執筆中とのことで、そちらの内容も非常に気になる。斬新な追放ものを求める方にも、変わり種のミステリーが読みたい方にもおススメな一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
絶海の孤島で起きた殺人事件に居合わせた、とある探偵と助手。彼らは現場を確認し、事件の真相を見抜くと、なんとその場で証拠を隠滅し、犯人のもとを訪れて、助手の男がこのような提案を持ちかける。
「提案です。この場は私の上司がやったことにします。だから、僕の助手になりませんか?」
なんと本作は探偵も助手も元殺人犯! 彼らは自身の殺人で裁かれるのを拒み、代わりに探偵として殺人事件を解決したのち、その事件の犯人として裁かれる、という奇妙なルールに則って活動するのだ。
ある話で殺人犯として探偵に追い詰められた人物が、次の話では探偵の助手として事件を見守る視点人物となり、さらに次の話では探偵として真相を暴いた後罪を被り、真犯人を新たな助手に任命する。この探偵と殺人犯が数珠繋ぎになるという設定の時点で充分魅力的だが、物語の中盤で読者視点で八代目にあたる探偵の元に、このループ構造を壊しかねない、ある依頼が持ち込まれる。
この依頼を解決するため、当代の探偵と助手は歴代の探偵たちを遡って話を聞いていくのだが、そこで浮かび上がるそれぞれの意外な人間像や関係性がまた面白い。探偵=助手=殺人犯なのだから、どの探偵も一言では言い表せない奇妙な魅力を備えているのだ。
こうして殺人と解決の連鎖に囚われた彼らがどのような答えを得るのか。その結末は是非自身の目で確認してほしい。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)