皆さん、ゲームやってますか? 僕は今年の3月に配信された『Slay the Spire 2』のプレイ時間が、公言するにはちょっと躊躇われるレベルに達したので、心機一転、先日Switchでも配信が始まった『魔法少女ノ魔女裁判』を遊んでおります。しかし、昔の偉い人が言っていた「ゲームは1日1時間」という言葉は、親からの制約が厳しかった子供時代よりも、余暇の時間を自分で自由に差配できる大人になってからの方がずっと身に沁みますね……。ゲームばっかりやってたら書く時間も読む時間もなくなっちゃう……。
そういったわけで今回はゲーム小説特集ということで、初心者がゲームセンターで5年かけて上達するまでを描いた自伝的青春小説に、とあるゲームの異常性をSteam内に残された手がかりから解き明かしていくモキュメンタリーホラー、ゲーム的な手法で魔物を作って異世界に侵攻するダークファンタジー、仲睦まじかったゲーマー夫婦がゲーム内で殺意を漲らせることになる様子を描いたVRMMOもの、とゲームにまつわる4作品をピックアップ。ゲームも楽しいけど、ゲームを扱った小説だって負けないぐらい楽しいですよ!
かつて格闘ゲームで見知らぬ相手と対戦できる場はゲームセンターだけだった。ちょっと強い相手に当たれば一方的にボコられるし、100円玉もみるみるうちに溶けていく。それに較べると、自宅にいながらオンラインで世界中の相手といくらでも対戦できる現代は素晴らしい環境と言えるだろう。しかし、ゲーセンにはネット対戦では味わえない独特のドラマがある。そのことを証明してくれるのが本エッセイだ。
時代は今から10年以上前の2014年、格闘ゲームの初心者だった作者は30才を目前にして『恋姫†演武』と出会い、急速にドハマりしていく。対戦相手を求め人生で初めてゲーセンを訪れ、掲示板やSNSで対戦が活発な場所を探し、さらには地方まで遠征するようになる。当然最初は連敗続きなのだが、自分より上手いプレイヤーたちと交流を深めアドバイスをもらうことで少しずつ上達していく。その過程がとても良い。
ちゃんとゲームシステムや用語の解説、何より対戦中の心理描写が丁寧に描かれているため、『恋姫†演武』をプレイしたことがなくても、格闘ゲームをやったことがある人が読めばプレイヤーの心境やゲームの楽しさはしっかりと伝わってくる。またライバルでもあり師でもあるプレイヤーの人たちがどれもいい味を出しており、中には突然一方的に凄く有意義なダメ出しをしてきた上に、それが最初で最後の会話になったなんて人もいて、ゲーセンならではの空気や関係性が上手く切り抜かれている。個人的にはとある猛者が自分たちがプレイしているのがマイナーゲーであることを自嘲している一幕がとても印象に残った。
タイトル通り初心者が全国大会に出場できるまでの上達を描いたエッセイでもあるが、それと同時に、格闘ゲームの中心がゲーセンから完全にオンライン対戦へ移行する過渡期を背景としているため、一つのコミュニティに人が集まり、やがて散り散りになる哀愁を描いた青春小説としても楽しむこともできる。格闘ゲームが好きな人、かつてゲームセンターに通っていた人にはぜひ読んでもらいたい一作だ。
(「ゲームの世界の向こう側」4選/文=柿崎憲)
集められた断片的な架空の資料から、一つの物語を浮かび上がらせるモキュメンタリーホラー。本作もそうした作品の一つなのだが、最大の特徴は、資料のほとんどをPCゲームの配信プラットフォーム「Steam」上のストアページやレビュー、コミュニティの投稿という体裁で構成している点にある。
物語の中心となるのは、『STILL HERE』というウォーキングシミュレーター。架空の町を歩きまわり住人たちと交流を重ねていくゲームで、レビューページには辛辣な低評価が並んでいるのだが、その中に異様な高評価レビューも紛れ込んでいて……。
この一部の人間だけが高評価をつける現象を疑問に思ったゲーマーたちは、独自に調査した結果をSteam内の掲示板で報告するのだが、興味深いのはこの調査にSteamの機能をフル活用している点だ。Steamでは公開情報をきちんと設定してないと、他のプレイヤーの累計プレイ時間や最後のログイン日時、購入したゲームの履歴などが簡単に見られてしまうのだ。
これらの手がかりを元に高評価レビューをつけた人たちの共通点を見つけていく推理パートが面白く、また他人のレビューを追うだけでなく『STILL HERE』をプレイすることで、ゲーム自体に隠された秘密が徐々に明らかになる展開にも引き込まれる。
あくまでレビューや調査報告などを通じた間接的な紹介がメインであり、直接的にゲームをプレイする様子は描かれないが、それでもゲームの実在感や不気味さが高まっていく構成はモキュメンタリーホラーのツボをしっかりと抑えられている。最終話で提示されたある事実を知ってから読み直すと読み味が変わってくるなど、ミステリー的な要素も用意されている。また、雰囲気作りのためのレビュー文や掲示板の書き込みが非常に巧みで、ゲームを取り巻くSteam内の空気が巧みに再現されており、ゲームが好きな人はもちろん、ゲームレビューや批評を読むのが好きという人なら、より一層楽しめるだろう。
(「ゲームの世界の向こう側」4選/文=柿崎憲)
冤罪によって有罪判決を受けた一人の青年。彼に課せられた刑は、異世界迷宮追放刑――異世界のダンジョンで魔物を製作し、異世界の住人達を襲撃して資源を強奪していく通称ダンジョンマスターの刑だった!
かくして、だいぶ捻じれた性癖を持つ少女を案内人として、ダイスを振ってTRPG感覚で魔物を製作していく主人公。ただ戦闘能力ばかりを設定するのではなく、原住民を生かさず殺さずの状態で捕らえ、その肉体を繁殖に利用するという生態の部分まで細かく設定するあたりが実に邪悪。魔物のモチーフにあえて『アリス』やマザー・グースを採用しているのも、彼が生み出す魔物の禍々しさをより際立たせている。
彼らの侵略の対象となるのは、神の御使いによって〈太陽〉がもたらされるまで、暗黒に包まれていた〈太陽がない世界〉。世界設定だけでもなかなかユニークだが、この世界からその〈太陽〉を奪うのが最終目標というのもスケールが大きくて魅力的である。
主人公サイドも非道な存在だが、一方で敵となる異世界側の住人も、他種族を蹂躙することに一切ためらいがない残酷な騎士たちであり、むしろこの世界で迫害を受ける食屍鬼(グール)の方が感情移入しやすい存在として描かれている。しかし、その食屍鬼たちも少数ゆえに迫害される一方で、人間を容赦なく喰らうため、決して善良とは言い難い。登場人物の誰もが悪性を抱え、誰一人「正義」の立場に立たないまま、争っていく様子はまさしくダークファンタジーの名にふさわしい。
一見コミカルなタイトルとは対照的に、そこに描かれるのは極悪すぎる生存競争。ちょっと重ためなファンタジーが読みたいという方は必見ですよ!
(「ゲームの世界の向こう側」4選/文=柿崎憲)
本格VRMMORPGの正式サービス開始を迎えた近未来。仲睦まじいゲーマー夫婦は一緒に遊ぶ日を心待ちにしていたが、サービス開始当日、ログイン直後に思わぬ事態が発生する。プレイヤーごとに開始地点がランダムに設定されていたのだ! かくして同じ家で暮らす二人は、ゲーム内では遠く離れた土地から別々に冒険を始めることに。
何といっても秀逸なのはタイトルと着眼点。VRMMOものでは、ゲームを通じて新たな仲間と交流を深めたり、あるいはその正体が意外な人物だったと判明したりする展開はもはや定番と言っていい。しかし本作はその逆を行く。互いの素性も性格も知り尽くし、現実では円満だった夫婦が、ゲームを通じて少しずつすれ違い、やがて殺意を抱くまでになってしまうのだ。VRMMOもののジャンルの新鮮さをゲームシステムではなく、夫婦という既存の人間関係から生み出している点が実に面白い。
とはいえ物語はまだ始まったばかり。妻も慣れないゲームに多少イラ立ちを覚える程度で、夫を殺したいと思うほどには至っていない。むしろ、どうやって夫とゲーム内で合流しようか、期待に胸を膨らませている段階である。ここからどのような経緯を経て、この強烈なタイトルへとつながっていくのか……続き、待ってます!
(「ゲームの世界の向こう側」4選/文=柿崎憲)