となりのお家から脱走、我が家のお庭で大繁殖した鈴虫の声もそろそろ落ち着いてきましたが、気温的にはようやく秋めいて参りましたね。
気温関係なくお家籠もりおじさんのわたくし、お昼にパスタを食べることが多いのですが、油分を減らそうとするとスープパスタになりがちで、そうなると箸ですすることになって……結局、パスタと同じくらい食べているうどんとなにが違うのかって話になっていたりします。
さて、今月はカクヨム公式Discordにてみなさまから寄せていただきましたテーマ案、その中から『日常の中に潜む非凡』をチョイスし、作品を選ばせていただきましたよ!
異世界ならぬ現実世界を舞台にした非凡なる日常もの、それだけに並ならぬ創意と工夫が求められますが、だからこそ「これ!」という作品を見つけたときには大きな驚きと喜びをもらえるものでもあります。どうぞ創意工夫に満ち満ちた4作品をお読みいただき、驚いて喜んでいただけましたら!
カプセルトイが大好きな主人公、出かけたときに機械を見つけるとつい回してしまうし、それ目当てで出かけることだってある。そして今日も出会うのだ。ちょっと不思議だったりよくわからなかったりするけれど、主人公にとっては大当たりなものたちと。
本作は1話あたり数百字で完結する連続掌編集なのですが、名前を始め設定不明な主人公の心の豊かさ、これが本当に味わい深くて染みるのです。
実は主人公、結構妙なものを引き当てます。でも、その「妙」にかならずいいところを見出して当たりだと喜べる姿は、その人柄をなによりくっきりと浮き彫っていて、読んでいるこちらまでうれしくさせられるのですよ。
ちなみに、それは当たりなのか? という回もあったりしますし、とある回で得たものを別の話で得たものと組み合わせて変なジオラマを作って慄いたりもしますが、それがまた主人公の愛すべき個性を魅せてくれておもしろい。
読むと心がふんわり和らぐキャラクター小説、勢い込んでおすすめします!!
(「日常の中に潜む非凡」4選/文=高橋剛)
長髪マッチョというなかなかに際立った大学生、染谷 大(そめや だい)は、見た目に反して人柄がよく、料理もうまい。そんな彼のなんでもない日常を、その日のメニューを中心に置いて綴っていく連続短編集。
作るのも食べるのも好きな染谷くん、優しさはもちろん抜けたところもあって実に愛らしいキャラクターです。そんな彼がおいしそうに食事をするだけでも絵になるのですが、キャラクターをこの上なく生かす「料理」がまたすばらしいのですよ。
料理は常に物語の中心にあります。染谷くんはそれと向き合い、心を動かしたり過去を思い出したりします。友達に料理を振る舞いつつ、わやわや騒いだりなんでもないやりとりを楽しんだりも。料理が染谷くんという主人公自身を浮き彫って、彼の心情や他のキャラクターとの絡みを盛り上げる。すごくいい関係じゃありませんか!
こんな男子が側にいたら毎日が少しだけ楽しくなること間違いなし。読んだ後ほんのりとあたたかい気持ちになれる、素敵な料理物語です。
(「日常の中に潜む非凡」4選/文=高橋剛)
桐谷きりこと永山ゆいかは同じマンションに住むお隣さんで、共に絶賛引きこもり中の女子高生だ。引きこもってから知り合ったふたりは、学校へ行かずにそれぞれの部屋へ籠もり、同じゲームをする。一定の距離を保って、しかし少しずつ距離を縮めながら。
幼馴染ってほど、仲良くなくて。
親友って言うほど、手放しじゃない。
でも、恋人って程、爛れてない。
上記3行は最初のお話からの引用なのですが、きりこさんとゆいかさんの関係性、その距離感をこの上なく象徴するフレーズで思いきり射貫かれました。
この後お話はそれぞれのパートへ進むのですが、単に彼女たちの心情を綴るような構成ではなく、現在のふたりがいかにして構築されたかが紐解かれ、その心情と個性に深々と切り込んでいく内容となっているのが特徴です。そして、そこまで濃やか且つ細やかに「表された」ふたりが選び取る互いの関係。その形がなにより彼女たちらしくて、心を一気に持って行かれるのです。
最低から始まる最高のGLストーリー、ご一読あれ。
(「日常の中に潜む非凡」4選/文=高橋剛)
1月のある日、“ボク”は第一子誕生の瞬間に立ち合うべく最低4時間半かかる道程を急いでいたが……その途中で「史たん」と名づけられる息子の父となったことを報される。そんな「ボク=おとたん」と家族のそれからを赤裸々に語るノンフィクション。
なによりおもしろいのは本当に赤裸々な男親ならではの感じ!
必死で向かったのに誕生の瞬間には間に合わず、いざガラス越しに我が子を見ればなんだか切ない気持ちが迫り上がる。その他にも夫婦の距離感を計りかねて喰らわされたり、赤ん坊のリアルを突きつけられて辟易としたり。
幸せだけでは語れない、史たんというニューカマーを迎えた家庭のリアルがあって、息子さんとどう向き合い、付き合っていくかを子育ての中で模索していくおとたんのおっかなびっくり感にもまた男親のリアルがあるのですよね。それをこうまできっちり語り上げ、おもしろくしてしまう著者さんの覚悟とエンタメ精神、すばらしい!
女性はもちろんですが、特に男性におすすめしたい育児譚です。
(「日常の中に潜む非凡」4選/文=高橋剛)