第9回カクヨムWeb小説コンテスト、中間選考結果が出ましたね! ご応募くださったみなさま本当にありがとうございました。
 さて、私も特別審査員として、恋愛部門とライト文芸部門を読ませていただいたのですが。せっかくなので今回私が感じた「カクヨムコンへの応募作でご留意いただきたいこと」を記してみたく思います。
 ジャンル別に分かれてはいますが、カクヨムコンには通常の公募を遥かに越える本数の応募作(今回は12309本!)が寄せられます。そこで数多のライバルを倒し、上へ行こうとするなら、「冒頭部でいかに魅力を押し出せるか」が第一の問題となります。
 ここを設定やキャラクターの説明、または単なる前置きに使ってしまっては、物語的な期待感を上げられません。目を惹く事件、設定を用いたドラマ、キャラのオリジナリティ、内容は様々あるにせよここに読む側の目を引っかける仕掛けを置けていなければ、当然それができている作品に負けてしまうわけですね。
「後でおもしろくなる」、「最後まで読めば魅力がわかる」はぐっと飲み込んで、最初からおもしろく、魅力がわかる構成に拘っていただきたく。
 そして第二の問題は、投稿サイトならではの常道——ある程度の文量を一話としてまとめる「各話形式を利した引きができているか」。
 各話に分けてあることで、読者的には読みやすくなるメリットがあります。ただし分けるとなれば当然、読者の目を次話へ導入するための引きが必要となります。しかしながら書き上げた長編をただ分割すれば、多くの話がおもしろさに欠ける繋ぎとなり、結果として冗長に感じさせてしまうこととなってしまうのです。
 できうる限り各話にひとつのドラマ的な見せ場を作ってください。その創意と工夫が読者を楽しませ、選考側を掴みますから。
 と、長々書いてきましたが、要は「冒頭部をとにかくおもしろく!」、「各話にもれなく見せ場を!」となります。第10回カクヨムコンでのみなさまのご活躍、期待させていただきますよー!
 と、いうことで。今月は色とりどりな新作4本をご紹介いたしましょう。

ピックアップ

迫り来る婚約者! 襲い来るライバル! 公爵令嬢は今日も大変です!

  • ★★★ Excellent!!!

 容姿にまるで自信のない公爵家令嬢エミリー・オブライエンは、それはもうかわいらしい男爵家令嬢アリアナの猛アタックを受ける婚約者フィリップ王太子に婚約破棄されるのだろうと覚悟を決めていた。なのに、いざ王宮へ赴いてみれば、王太子は彼女との結婚を高らかに告げたではないか! 波乱しかない愛と恋の物語がここから始まる!

 王道の婚約破棄から始まる物語……ではありません! 常識と良識を弁えたエミリーさんが、幼稚だけれど一本気なフィリップさんや、礼儀も仁義もぶっちぎっていながら憎めないアリアナさんと丁々発止しつつ結婚というゴールへ向かう恋愛劇なのです。

 仕上がっているのですよね、キャラクターが。それぞれにおかしくて、でも要所ではこの上なく輝いて。思わず全員好きにさせられるのですよ。そしてそれを綴るエミリーさんのテンポのよい語りも相まって、読み始めからもうわくわくが止まりません。

 コミカルもシリアスももれなく楽しい、極上のキャラクター小説です!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

図書館星と呼ばれた星の巫女、その先を綴る物語

  • ★★★ Excellent!!!

 他の星に居を構えるようになった人類は、大切な水や自薦環境を守るため紙の製造を抑え。本の生産を中止した。これにより、とある星に希少物となった地球時代の“本物の本”を管理する大規模施設が建築され、そこにはただひとりの管理者『図書館の巫女』が置かれることとなる。マリはその第15代めに選ばれたのだが……とあることから紙の本が復活することとなったのだ。時代の転換期にマリはどう生きるものか。

 図書館星から出版星へ呼び名を変えつつある星で“巫女”を務めるマリさんは、言わば旧時代の遺物となります。しかしながら彼女は少女であり、新時代の担い手でもあるわけですね。本を芯に置いた舞台設定、その完成度にも目を奪われずにいられませんが、マリさんという新旧どちらもを象徴する主人公! 変じていく世界の中、彼女が綴るエピソードはささやかでやさしくて明るくて、すばらしくリリカルなのですよ。

 繊細さをいっぱいに詰め込んだ濃密な世界観、その芳香を胸いっぱいに吸い込んでいただきたく。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

曖昧模糊なる医療についてをやさしく語る指南の書

  • ★★★ Excellent!!!

 日々さまざまな話題が取り沙汰され、混乱を巻き起こす医療。そこにつきまとう誤解を解き、いざというときの活用を説く、医療関係者が綴る解説と意見の「一助」!

 医療とは難しいものですよね。実際にどんな根拠でどんな体制が構築されていて、我々がどう理解すればいいものかわからなくて。だから表面だけを見て不安になってしまう。こちらはそんな我々がよく突き当たり、囚われてしまいがちな医療的話題をテーマにしています。ごく最近話題になった救急車有料化を皮切りに、医療機関の正しい選択方法や、なにかとお世話になりがちな整形外科についてなどが語られていて、その文章がやわらかくてわかりやすい!

 さらりと読めるのに、医療のシステムを正しく理解できて自分の思い込みも払拭できるなんて最高ですよね。ちなみに医療用語にはもれなく解説が添えられていて、これまたうれしいじゃありませんか。

 知識はなににも勝る武器。いざ追い詰められたときのため、研ぎ澄まして参りましょう。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)

文章が箇条書きだと言われたのでそれを脱却するため練習する

  • ★★★ Excellent!!!

「お前の文字は箇条書き」。自作を酷評されたトクメイ太郎は“復讐”を誓った。箇条書き問題を克服するがために問題の作をあえて公開した上で修正版を並べ、テーマを掲げて練習作を綴り……これはひとりの書き手の挑戦、その軌跡を辿るドキュメンタリーだ!

 隠したいのが当然な自身の問題を曝け出し、向き合う姿勢がとにかくすばらしい! そしてテーマを定めた練習作の執筆、これがとてもいいのです。書き手が「これを書く!」と示せばこそテーマは絞り込まれ、読者もまたその一点に集中して評することができます。ジャンル問わず自分ひとりではなかなか強くなれないものですが、読者の目を助けに筆を磨くこのスタイル、投稿サイトという場の特性を最大に活用した強化法だと思うのですよ。

 加えて、読者的には書き手が進化していく過程を見ることができる、言わば育成ゲーム的な楽しみかたを得られる点もおもしろいですよね。

 これまでにない作家修行企画、ぜひみなさまも応援コメントでご参加を。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)