みなさまは『ヒロイックファンタジー』というジャンルをご存じでしょうか?
 いつものごとくざっくり説けば、現代科学の代わりに魔法が存在する、過去か未来の地球や異世界を舞台とした冒険譚——すなわち「剣と魔法の物語」となります。
 そうなると異世界ファンタジー作品のほとんどが当てはまる気がするのですが。このジャンルの名作群から考えるに、文明という光で照らしきれないが故の、一種の薄暗さがまとわりついているのは特徴的かなと(活劇的な爽快感やキャラクターの魅力があることは大前提としてですけれども)。そうした重たい“におい”が味わえるからこそおもしろい、このジャンルをきっかけに物を書き始めた私などは思うのです。
 ともあれ。今月は数ある作品の中から剣と魔法の4作品をご紹介させていただきますよ。それぞれの作品が魅せてくださるにおい、いっぱいに吸い込んでいただけましたら幸いですー。

ピックアップ

その男の名はただの「タランガン」!

  • ★★★ Excellent!!!

 祭へ酷く暗い目を向ける男に、サラインのダジは興味を惹かれた。タランガンとのみ名乗った男は己が傭兵であり、灰色狼退治の仕事へ赴く途中であるという。と、ダジはその仕事の裏にある事情を語り、自分の仕事が雇い主の真の狙い——すなわち龍退治であることを明かした。ダジと共に向かうと決めたタランガンは、死地の底にて龍と対峙する!

 キャラクター力に圧倒されました! タランガンさんとダジさんの出会いに目を引くような事件はありません。でも、静かな会話劇から各々の個性や心情、スタンスまでが匂い立ち、たまらないドラマを魅せてくれるのです。これはセリフがひとつとして「とりあえず置いてみた」ものでなく、含められた説明すらも物語的な表現として成立していればこそですね。

 そしてバトル! 世界観がたっぷり練り込まれた描写の濃やかさは読み応えしかなし! しかもそれが重ねられていくリズムが気持ちよくて、惹き込まれるのです!

 ヒロイックファンタジーの醍醐味を存分に味わわせてくれる一作です。


(「剣閃き魔法輝くヒロイックファンタジー!!」4選/文=高橋剛)

国の未来を負い、男は戦いの場へと踏み入った

  • ★★★ Excellent!!!

 ヴァナン公国はユグドラ大陸の覇権を握るがための切り札——南海の島国ムスペル公国の戦象を求めた。その交渉を担った全権大使こそは褐色の肌持つ巨漢、シグルズ・ヴォルスング。人語を繰る灰色猫ヨルムンガンドを供連れた彼は、友へは舌先、敵へは切先を振るって使命を果たしていく。それが冒険への第一歩、英雄譚の序幕と知らぬままに。

 北欧神話の風情を匂わせるこの物語、入り口に政治を置く斬新さにまず目を惹かれるわけですが、注目点は相棒のヨルムンガンドさんを語り部に置いたことですね。物語自体の描写の濃やかさに比べ、シグルズさんを綴る彼の言には過ぎた装飾がありません。近しい存在だからこその距離感、この上なく生きているのです。

 その上でシグルズさんの活躍ですよ。政治であれ戦であれ色恋であれ、彼は自らが立った場において強かに立ち回り、飄々と切り抜けていきます。これが相棒のさらりとした語りに乗せられることで逆に際立つのですよ!

 極上の魅力を持つ男を猫が語る物語、その妙味をお楽しみください。


(「剣閃き魔法輝くヒロイックファンタジー!!」4選/文=高橋剛)

鋼の肉体が繰るその剣が、王位への路を斬り開く!!

  • ★★★ Excellent!!!

 超常の力振るう“闇の眷属”に主たる姫を攫われた近衛部隊戦士長、ローレン・パクスター。彼女は道行きの中で己を救った豪壮なる蛮族、ラーカンツのガノンに同行を願った。しかして眷属の巣窟へ踏み入ったローレンは見るのだ。ガノンの豪剣が強大なる敵を易く断ち割る様を……。やがて王となるガノンの旅路はこれより始まる。

 蛮族の超戦士が王位を掴むまでを描く。この構造はヒロイックファンタジーの王道中の王道であり、それだけに主人公の完成度が問われるものでもあります。そして肝心のガノンさん、完成度が高い! 彼に打算は一切ありません。シンプルに太い信念をもって迷いなく剣を振るい、活路を斬り拓いていきます。その過ぎるほどのまっすぐさと強さこそが読者の目を他のキャラクターへ逸らさせず、釘付けにするのです。これほど安心して好きになれる主人公、そうそういませんよ! そんな主人公が描く痛快な戦いの物語も!

 王道を楽しみたい方へ、そして王道を知りたい方へ、迷わずおすすめいたします!


(「剣閃き魔法輝くヒロイックファンタジー!!」4選/文=高橋剛)

若き戦士は故郷たる山を後にし、広き世界へ向かう

  • ★★★ Excellent!!!

 山の戦士の一族の子として産まれたカブリは天賦の剛力を備え、父をも凌ぐ戦士となることを目ざして鍛錬を積んできた。しかし山へ踏み入り、父を含む同胞を罠にかけた賊をひとりで討ち果たしたことをきっかけとして新たな道へと見出す。かくて故郷を後にした彼は出会うのだ。数多の冒険へ共に臨む相棒、鉄弓のブレトと妖艶なるニグラに。

 戦士のカブリさんと弓使いのブレトさんを中心に一話完結型で綴られる本作、最初の3話を読んでキャラクターが把握できればどこからでも読める構成となっておりますよ。

 しかもです、各話が本当に多彩なのですよ。冒険あり、推理あり、訓話的小話あり、飽きさせない上に読み応えがすごい! そして綺麗に閉じられるよりもほろ苦さを残すエンディングが多いのですけれども、それがまた本作ならではの魅力——綺麗事で繕わない人間ドラマの味わいになっていて、実にすばらしいのです。

 そうそう、魔法使いのニグラさんがトリックスターとしてこの上なく機能していることも強調させていただきますよ!


(「剣閃き魔法輝くヒロイックファンタジー!!」4選/文=高橋剛)