国の未来を負い、男は戦いの場へと踏み入った

 ヴァナン公国はユグドラ大陸の覇権を握るがための切り札——南海の島国ムスペル公国の戦象を求めた。その交渉を担った全権大使こそは褐色の肌持つ巨漢、シグルズ・ヴォルスング。人語を繰る灰色猫ヨルムンガンドを供連れた彼は、友へは舌先、敵へは切先を振るって使命を果たしていく。それが冒険への第一歩、英雄譚の序幕と知らぬままに。

 北欧神話の風情を匂わせるこの物語、入り口に政治を置く斬新さにまず目を惹かれるわけですが、注目点は相棒のヨルムンガンドさんを語り部に置いたことですね。物語自体の描写の濃やかさに比べ、シグルズさんを綴る彼の言には過ぎた装飾がありません。近しい存在だからこその距離感、この上なく生きているのです。

 その上でシグルズさんの活躍ですよ。政治であれ戦であれ色恋であれ、彼は自らが立った場において強かに立ち回り、飄々と切り抜けていきます。これが相棒のさらりとした語りに乗せられることで逆に際立つのですよ!

 極上の魅力を持つ男を猫が語る物語、その妙味をお楽しみください。


(「剣閃き魔法輝くヒロイックファンタジー!!」4選/文=高橋剛)

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