カクヨムWeb小説短編賞2022「ご当地短編小説キャンペーン」にご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
出身地への自虐、地元だからこその哀愁など、100作品以上の「ご当地ならでは」が光る作品に出会えて大変うれしく思います。
キャンペーンの担当スタッフがすべて目を通したうえで推薦した作品から、アンバサダーのあをにまるさん(『今昔奈良物語集』作者)、佐々木鏡石さん(『じょっぱれアオモリの星』作者)が選んだ作品は4作品はこちらになります。お二人ともがよいと思った4作品にレビューしていただいています。
またアンバサダーのお二人がそれぞれよかったと思った作品も下記に紹介しておりますので、ぜひ読んでみてください。
※カクヨムWeb短編賞2022とは完全に別の選考を行っているので、読者選考を外れた作品も選ばれています。短編賞の本編の選考は、5月頃の発表を予定しています。

惜しくも「【ご当地短編小説】カクヨム賞」に届かなかった作品
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『のこされたこどもたち』
『透子さんの夏休み』
『三日月が似合う神明社ー沙織と恋と杉玉とー』
『ROOTS ― 貴方の知らない柳田國男 ―』
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あらためて、応募作品を書いて下さった皆さま、読んで応援して下さった皆さまに、感謝を申し上げます。ありがとうございました。

ピックアップ

きっと誰もが「魅」せられる

  • ★★★ Excellent!!!

 日本全国において「鬼」の登場するお祭りは数多あれど、「鬼の魂を天に還す踊りを踊る」というお祭りは、なかなかに珍しいのではないでしょうか。本作は、そんな岡山の独特なお祭り「うらじゃ」をテーマにし、物語へと巧みに落とし込んだ作品です。
 その土地ならではの要素を見事に活かしたコンセプト、文章の綺麗さ、岡山の瑞々しい情景描写、そして読了後の胸に残る、何とも言えない切なさと暖かさ。
 それら数多くの魅力に加え、私が特に目を見張ったのは、「対比」を軸としたその美しいストーリーラインです。
 主人公・ミコトの失った過去である「ウララ」の存在と、彼へ未来を指し示す「津田」の存在。そして物語冒頭と結末における、ミコトの地元岡山に対する印象の変化。
 それらのコントラストによって、ひと夏の不思議な出来事を通して成長する主人公の姿を上手く描いておられる構成は、まさに圧巻です。
 きっと誰もが「魅」せられる、そんな素敵なお話でした。

(「ご当地短編小説」4選/文=あをにまる)

秋は短し。ゆえに貴く、美しい。

  • ★★★ Excellent!!!

 瞬く間に過ぎゆく、秋田の秋。
 その刹那を巧みな筆致で捉え、文章でありながらまるで絵画のごとく色鮮やかに描いた作品が、この「秋は短し」です。
 本作において私が何よりも素晴らしいと感じたのはやはり、秋という季節を表現するその圧倒的な描写力に他なりません。どこまでも緻密で明媚なこの物語の文章を読んでいると、秋田県立美術館のガラス窓を通したオレンジ色の情景が今まさに、自分の目にありありと浮かぶようでした。
 本コンテストを通じて、私が最も「作中の舞台に足を運んでみたい」と感じたのも、迷う事なくこちらの作品です。
 わずか2,349文字の物語でありながら、言葉を超えた美しさにより味わう事のできる、爽快な読後感。いえ、むしろこの小説は、刹那を描いたとても短いお話であるからこそ、そのラストシーンの力強さが一層濃密で、心動かされるものとなっているのでしょう。
 秋は短し。ゆえに貴く、美しい。この一瞬の物語をぜひ、皆様もお見逃しなく。


(「ご当地短編小説」4選/文=あをにまる)

格調高い佳作

  • ★★★ Excellent!!!

 この作品のよさはズバリ、取材性の高さ。作者様が現地に赴き、実際に取材を行ったかはわからないのですが、羅臼地方の方言や昆布漁の様子、人々の何気ない会話や風景の描写全てに「羅臼の営みや風景を描いてやろう」という執念、もしくは情熱のようなものを感じます。
 文章の方も、決して書きすぎることなく、絶妙に行間を読ませる老練とした文体。丹念な描写による映像的解像度の高さと、この熟達した文章により、文芸誌に掲載されていそうな、完成度の高い作品だと感じました。
 ストーリーの方も、それらの描写を邪魔しないとするかのように、実に淡白なもの。羅臼という最果ての街に離婚して戻ってきた訳ありヒロインと、今や羅臼の海を背負って立つ男になっている主人公、二人の乾いた恋愛模様が描かれます。この北の海がキャラクターたちに何を与え、流氷の訪れが彼らに何をもたらすのか、実に想像力を掻き立てるストーリー仕立てとなっています。ご当地純文学小説の佳作として是非ご一読ください。


(「ご当地短編小説」4選/文=佐々木鏡石)

異世界は、楽しい!!

  • ★★★ Excellent!!!

「素直でいいですねぇ」、思わず口をついてしまいました。奈良県の天川村周辺、知る人ぞ知る秘境地帯を、東京と比較した「異世界」として描いているところに、とんでもないところに来てしまったという主人公の新鮮な驚きが表現されております。
 内容の方も実にフレッシュで、天川村での春夏秋冬を描きながら、この村で出会い、すれ違い、体験し、味わい、触り、嗅ぎ、手に取るものの全てに「異世界」を感じ、心から楽しむ主人公の微笑ましさに、ついつい口角が緩んでしまう。
 ご当地小説としては正々堂々とした作りながら、この真っ直ぐで伸びやかな印象が更にこの作品を味わい深いものとしております。これを読むと奈良県に行きたくなってしまうこと必定! です。


(「ご当地短編小説」4選/文=佐々木鏡石)