先週末から今週にかけて特集コーナーでは、カクヨム作家さんたちによる推し作品が連日ご紹介されましたが、どれも魅力的な作品ばかりでしばらく読む作品に困ることはなさそうですね! そして本日お届けするのはそれらの作品にも負けない魅力的な新作を紹介する「金のたまご」特集!
異世界に暮らす少年が日本の中学校に通うちょっと日常ものから、勇者が魔王に敗れた後の世界を描くファンタジーから、掲示板やSNSを題材にした作品まで、今回も多彩な作品を選りすぐりました。是非是非お楽しみください!

ピックアップ

異世界人、日本で中学生活を始める。

  • ★★★ Excellent!!!

父に言われて都会の中学に通うことになったメイジ。電気すら通ってない文明から閉ざされた田舎に住んでいる彼にとって都会での生活は驚くことばかりだった。車がある、テレビもある、スマホだってある。魔術こそ見当たらないが便利なものは大体揃っている!……魔術? そう、実はこのメイジという少年、異世界から日本の学校に通っているのだが、本人はそのことに全く気付いていないのだ!

異世界人ならではのスキルを披露して人気配信者になったかと思えば、魔族や超能力者たちの戦いに巻き込まれたりと、メイジの日常は実に波乱万丈なのだが、地元ではこのぐらい当たり前といった感じで、目の前のトラブルを淡々と切り抜けていく姿は実に爽快。

戦闘などでは非常に頼もしいメイジだがその一方で、友人に教えてもらったカッコいい言葉をすぐに使おうとしたり、初めて見た電車の速さに感動したりする姿は実に素朴で可愛らしく、日本の常識を学ぶにつれて少しずつ成長していく様子はずっと見守りたくなること請け合い!

また周囲の人々が常識はずれなメイジの言動に振り回されつつも、優しく彼を受けいれてくれて、読んでいて心が温まる作品にもなっている。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)

魔王に負けた後の世界で勇者が成すべきことは?

  • ★★★ Excellent!!!

勇者が魔王を倒したその後の話というのは近頃多く見られるが、本作はそれとは逆に魔王に倒された勇者と世界のその後を描く物語。

魔王に敗れ300年ぶりに目を覚ました勇者イサナ。彼の死後地上は魔族に制圧され、人類の生存圏は宙に浮く空島のみとなっていた。しかし、それでも人類は抵抗を諦めておらず、かつての仲間が作った学校では魔族に立ち向かう若き戦士たちが育っていた。そしてイサナも教師として彼らの育成に関わることに……。

物語の冒頭から人類は絶望的な状況下にあるが、それでも本作の登場人物は誰一人諦めていない。かつての仲間たちは勇者が目を覚ましたことを素直に喜んでくれるし、勇者の偉業を聞いて育った現代の人々も勇者の復活を大いに歓迎してくれて、決して暗い雰囲気にはならないのが大きな特徴。そして暗い雰囲気を払拭する大きな要因として女性キャラが皆可愛い! 味方はもちろんだけど、敵キャラもみんないい味を出している。

戦いの後遺症で魔法が使えなくなり戦力としては微妙な存在になったイサナだが、それでも普段は生徒たちの悩みを聞いて少しでも助けになろうと奮闘するし、決めるべきところでしっかり決める姿はまさに勇者!

まだ未登場の仲間の存在や、300年の間で起きた魔族の変化など、先が気になる要素も随所に散りばめられており、これから先の展開に期待が持てるファンタジーだ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)

「めしどこかたのむ」みたいなノリで殺し屋対策を訊いてみる

  • ★★★ Excellent!!!

身の回りの人にあまり言えない相談をしたいときに意外と便利なのが匿名掲示板。本作の主人公も困った状況になって匿名掲示板の住人を頼るのだが、その困った状況というのが「殺し屋に何度も殺されて同じ一日をループし続けている」というもの……うーん、匿名掲示板に相談してどうにかなるもんかな、これ……。

しかし主人公が頼った掲示板には、やたら理解力が高い考察厨、不確かな情報の真偽をハッキングで明らかにする特定班、たまたまその日主人公の近くいた人……などなど様々なスペシャリストが集っていた! かくして主人公は彼らの助言を受けて、目の前の問題を一つずつ解決していく!

作品全編が掲示板内のやりとりだけで構成されているのが大きな特徴で、主人公は生きるか死ぬかという状況なのに、会話のノリだけは基本匿名掲示板のノリで展開されていくのが読みやすくもいい味を出している。また主人公以外は記憶を引き継げないので、ループのたびに状況を説明し直す必要があるのだが、この状況説明がどんどん上手くなっていくのも面白い。また話が進むにつれて主人公や掲示板の住人たちの意外な秘密が明らかになっていく過程も楽しく、軽いノリで最後まで一気に楽しめる一作だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)

新聞記者が作った匿名アカウントに隠された秘密とは……

  • ★★★ Excellent!!!

SNSをやっていてもそのことを周りには秘密にしている、あるいは周りの人間に教えているアカウントとは別に裏アカを持っているなんて人も多いでしょう。本作はそんな周囲には秘密にしているアカウントにまつわる物語。

物語の舞台となるのは、全国紙『日の出タイムス』の宇都宮支局。時には上司が部下を叱ったり、逆に部下が上司に食って掛かったりと、どこの職場でも見られる光景が繰り広げられている。だが、その裏では複数の匿名アカウントによって、職場で起こった出来事が次々と呟かれていく。

本作には合計10個のアカウントが登場するのだが、発信の方向性はアカウントによって様々。部下に対する説教を堂々と書いて炎上するアカウントや、自分が関わった記事を淡々と紹介するだけのアカウント、自分のことを棚に上げて他者への不満ばかり口にするアカウント……「こういう人見たことあるわー」とつい思ってしまうほどの生々しさが本作の大きな魅力。

地方支局での出来事と、SNS上の呟きの両面から展開されていく物語はやがて意外な真相に辿り着くのだが、この真相が非常に後味の悪いものになっている。あまり大きな声では言えないが、ドロドロした人間関係や他人への陰口が好きという人には是非オススメしたい一作である。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)