読者の興味を引く創作のコツは「知っているけど、知らないもの」を取り上げることです。例えばスポーツ。サッカーやバスケ、バレー、誰しも体育の授業でやった経験があるでしょう。しかし本格的な競技の世界は部活動にでも入らなければ縁遠いもの。そこが人間の好奇心をかきたてるのです。身近な題材で敷居を低くし、新しい発見や感動を与える。だからスポーツ漫画は根強い人気のジャンルなのです。今回の『和風&歴史』特集は、Discordのテーマ募集企画で集まったテーマを採用させていただきました。実は前々から私も日本文化や日本史に注目しておりました。洋式の生活が標準になった現代の読者にとって、日本の文化や歴史こそ「知っているけど、知らないもの」の代表だからです。さらにそれだけでなく、転生ものや恋愛もの、旅行記など、読者が親しみやすい要素と組み合わさっている点にも注目して欲しいです。今回はたくさんのご投稿ありがとうございました! 是非またやらせてほしいです。よろしくおねがいします。

ピックアップ

和菓子をつくろう! 異世界で可愛い女の子とお菓子作り教室

  • ★★★ Excellent!!!

 庶民の少年アルフレッドとして異世界に転生した日本人の和菓子職人が、洋菓子しかない世界で和菓子を作るために奮闘する異世界ファンタジーです。

 下町で菓子店を営む両親の息子として転生したアルフレッドですが、残念なことに周囲にあるのは洋菓子の材料ばかり。幼い頃から両親の仕事を手伝いながら、市場に出向いて材料を探し回り、現代のお菓子を再現していく過程が面白いんですよね。

 猛勉強の甲斐あって王立の製菓学校に首席入学。王女のシャーロット、お嬢様のカリーナら魅力的な女の子たちと仲良くなったり、貴族のドラ息子から嫌がらせを受けたりと波乱の学園パートが幕を開けるのですが、念願の小豆ともち米をゲットして盛り上がっていく和菓子作りがなにより楽しい。

 苺大福、どら焼き、羊羹、最中、三色団子、ついでにカステラ。読者にとっては慣れ親しんだものでも、異世界の人々にとっては未知の味。その不思議な菓子の噂は王宮まで届き、和菓子目当てに国王陛下その人がアルフレッドの前にやってきて……。和菓子ひとつから、貴族や王族、国を巻き込んで広がっていくスケールが痛快な作品です。


(「和風&歴史」4選/文=愛咲優詩)

至高の頂きを目指して。純情少年の初恋剣戟浪漫

  • ★★★ Excellent!!!

 日本が日露戦争に勝利し、剣術が学校教育として普及した日本。天才美少女剣士・望月螢に一目惚れした少年・秋津光一郎が、彼女に相応しい男になるため、至高の剣を目指して剣の道を歩みだす。

 主人公の光一郎は絵を描くのが趣味の温厚な少年。そんな光一郎が恋した望月螢は、『至剣流』の免許皆伝を持つ天才美少女剣士。一方の光一郎は、これまでまともに剣を握ったこともないド素人。圧倒的な才能と努力の壁を理解しながらも、螢に恋した日から剣を振り続け、最強の剣士を目指す光一郎の姿が熱いんです。

 そんな光一郎を隣で見守りながら、片思いを募らせる少女エカテリーナの乙女心がもどかしくて、純粋な少年少女の三角関係に胸が詰まるんですよ。

 幾度も敗れても再戦を繰り返す光一郎に荒削りながらも才能の片鱗を認めた螢から、至剣流の入門を促され、光一郎の本格的な修行が始まる。果たして光一郎の剣は至高の頂きに到れるのか。恋心と剣戟が交錯する剣術青春ラブストーリーです。


(「和風&歴史」4選/文=愛咲優詩)

歴史の悲劇を覆せ! 転生者が挑む歴史改変ファンタジー

  • ★★★ Excellent!!!

 令和から明治時代の五摂家の近衛篤麿の長男・高麿に転生した歴史学者が、よりよい世界を築くため、現代知識を用いて暗躍する歴史改変ファンタジーです。

 主人公の高麿の父・近衛篤麿は、天皇陛下にも意見を言える大物政治家。そんな父親に助言を与えて陰から歴史改変に挑みます。

 当時、国民病といわれていた脚気の原因をつきとめる。軍部の暴走を招いた憲法の欠点を修正する。寒冷地に適した米を奨励して飢饉を回避する。泥沼に陥る朝鮮半島政策から撤退し、経済発展の道を示す。戦争や病気で失われるはずだった数十万人の犠牲者を救い、日本に空前の好景気をもたらしながらも、救えなかった命に胸を痛める高麿の思いに心を打たれます。

 やがて、青年へと成長した高麿は海外へと飛び出し、世界各地で起こる大虐殺の歴史を変えていく……。何故、第一次、第二次世界大戦は起きてしまったのか、パレスチナ問題はどうして起こったのか。現代にも繋がる近代史の物語に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。


(「和風&歴史」4選/文=愛咲優詩)

路地を歩けば歴史が迎える。古都を旅する夫婦エッセイ

  • ★★★ Excellent!!!

 夫婦二人で京都・奈良の歴史ある古都を巡るのんびり旅行記エッセイです。

 京都・奈良を旅した作者夫婦が、当時の写真を近況ノートへ寄せて、お寺や観光地の歴史を紹介しつつ、そこで遭遇したエピソードを面白おかしく語ってくれています。

 興福寺の五重塔、東大寺の大仏殿、奈良公園のシカなど、定番スポットだけでなく、「ならまち」観光では着物姿のお姉さんに見惚れ、依水園では外国人に混じって苔を眺め、般若寺では500本の紫陽花の庭園を歩き、平城宮跡に展示された遣唐使船の小ささに驚き、ちょっと珍しいところにも目を向けているのがポイントですね。民家の路地裏の先に歴史的名所が隠れている奈良の街の魅力が描かれています。

 奈良だけでも旅気分をたっぷりと味わえますが、これからはじまる京都編も楽しみです。もし古都に旅行にいくとしたら季節は秋がいいとのこと。いまからでも旅行の予約は遅くない。


(「和風&歴史」4選/文=愛咲優詩)