オフショルダーはどこまでショルダーからオフすればオフたり得るのでしょうか?
 肩幅広いおじさんなわたくし、オフショルダーのシャツを着てもちょっとしかオフにならず、なんだか困っていたりするのです。もっとこう、オフになってほしい……。
 ちなみに下はルーズなパンツを履くことが多いのですが、腿が太ましいのでこちらもあんまりルーズにならないのが悩みの種だったり。人間って実にままならねぇ生き物ですよねぇ。
 そんな哀愁を噛み締めつつ、今日も今日とて自転車で喫茶店へ出勤しておりますよ。お外でないと仕事できない病も克服したいなぁと思いつつ、こちらもなかなかままなりません。とはいえ、インドア職業でありながら四季の移り変わりを肌で感じられる生活、悪いものではないのですけれどもね。いや、冬はしんどい。もうじき訪れる夏もしんどいですね。肌で感じるのは春秋の二季に留めてぇ!
 ……なんてこともありつつ、今月は『金のたまご』でございます。どうぞお楽しみくださいー。

ピックアップ

最悪から転じる最高の恋愛劇

  • ★★★ Excellent!!!

 八月一日(ほうずみ)なる変わった姓と170センチの高身長がコンプレックスなシューズデザイナー、つぐみ。勤め先の婦人靴店がついに駅前アーケード街へ進出することとなり、店づくりを任された彼女自身も喜び勇むが……その新店の設計を担うのは第一印象からして最悪な六車壱成で。果たしてなかなかうまく転がらない状況が続く中、思わぬ転機が訪れる。

 つぐみさんと壱成さんの関係はまさにどん底からのマイナススタート。そこにはつぐみさんのコンプレックスが思いきり関係しているのですが、その痕になってくれない傷の有り様が濃やかに描き出されていて、読者を超共感させるのですよ。設定を説明じゃなくドラマとして魅せる筆、すばらしいのひと言です。

 加えて壱成さんの人の悪さと誠実さのギャップがまた見事なのです。これはもう、ずるいとしか言い様がありませんよ。

 で。そんなふたりが出逢うとなればもう決まっています。そう、心躍る甘々が生まれ出でるのです!

 恋愛劇をお求めなら、なにを置いてもまずご一読を!!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

センテンスが光る現代ダークファンタジー

  • ★★★ Excellent!!!

 山上の町、空葉町ではこのところ殺人事件、死体損壊事件が多発していた。とあるものを追ってその町に仮住まいを定めた絵描きである真野深月は、唐突に警察官——特殊死体損壊対策課の課長だという少女、黛灯に臨時職員となるよう勧誘を受ける。深月には死した者を救う力があるのだと。

 なぜか死体と行き会ってしまう深月さんがミステリアスな少女と出会い、内に眠っていた特異能力に目覚めて事件を追うことなる。ストーリーラインを見れば異能力ものなのですが——美しい完璧な死体を描くことに至上の悦びを感じるという彼の暗い情念が超熱量で描き込まれることで、それを超えた人間ドラマとなっているのが本作最大の魅力です。

 そして熱を表す文章ですよ! これがまた彼の“ヤバさ”をいや増すのですね。説明描写の長文から心情の短文へ変じるスピード感、高まる鼓動と荒くなる息づかいまで感じられて、読む速度もつい速まります。

 スリルあり、狂気あり、雰囲気あり。甘さゼロの妙なる苦みをお愉しみあれ!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

バスから馬車に乗り換えて、いざ行かん異世界修学旅行!

  • ★★★ Excellent!!!

 修学旅行、東京七番高校三年7組が乗る大型バスは山道を走行中、煽り運転を受けたことにより崖下へ落下したが……異世界へトリップしたことで九死に一生を得る。しかし、招かれたイーストレーテ王国で国王ゼノンから無茶を試させられることになるのだ。すなわち、ローカル路線馬車だけを乗り継いで100日間で王国を一周できるか!?

 主人公で委員長の細山耀太くん始め、クラスメイトからバスガイドさんまでもれなくキャラが濃いです! 愉快な仲間じゃなく、イカれたメンバーという感じですね。そんなメンツが無茶な旅へ挑むわけですから、それはもう賑やかですし危なっかしいのですよ。

 こうした「ドタバタ」はストーリーの上へどんなキャラを乗せるかで破壊力が変わってしまうものです。その点は文句なしの激高なわけですが、各々のキャラに「濃いだけじゃない」、意外なドラマの種が匂っていたりして、それがまた期待値を高めてくれているのも見逃せません。

 さあ、ただならぬ旅の行方、みなさまご一緒にご堪能ください!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

帰ってきた書き手が魅せる軽妙洒脱な小話

  • ★★★ Excellent!!!

 1年の時を経て、木元宗がカクヨムに戻ってきた——! これは再始動した著者(女性)が創作活動で押し詰まった息を抜くがために書きだした、雑なる記録である。

 そんな感じの背景を下敷きにしました著者さんのエッセイ、()内の特記がなぜ必要だったかは本編でご確認いただくといたしまして。

 各話の流れがものすごく綺麗なのですよ。他愛ないお話が意外な方向に転じて紆余曲折したり、まっすぐ語りきられてすっと着地したり。読んでいて思うのは、熟達した噺家さんの「小話」を聞いているようだなぁということ。楽しめるものを書こうという著者さんの心意気と構成センスが合わさっていればこその妙味ですねぇ。

 そうしたお話とは別に創作用メモなどもあるのですが、こちらはご自身のネタへ客観的な分析をされていて、やはり確かな構成力が感じられるものとなっているのも見逃せません。

 ただ読むだけでもおもしろい! その上で創作者としての深みも感じられる良エッセイ、おすすめです!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)