ついこの前まで夏だったはずが、あっという間に寒くなり、気が付けば今年もあと2週間! 年末進行とかそういう忙しいやつの季節ですよ! みなさん年を越す準備はもう済みましたか? 済んでる? わかりました、では準備の良いあなたはゆったりした気分で今回紹介する新作小説を読んでください。済んでない? わかりました、とはいえ焦ってばかりいたらかえって手が進まないので、休憩がてらに今回紹介する新作小説を読んでください。どれも面白い作品ですので、どうぞよろしくお願いします。
まず初めにマッチ売りの少女、アイカが出て来る。義理の父に命じられ大晦日にマッチを売らされる可哀そうな少女だ。一見童話か何かのパロディに思われるだろう。その後にエルフという単語も出て来る。なるほど、これはどうやらファンタジー世界が舞台のようだ。そして銃も出て来る。なるほど結構文明が進んでいるようだ。その後に真紅のコスチュームに身を包んだ六尺を超える長身の女、超人のロラが出て来る……六尺?超人?
そう本作は超人が跋扈するファンタジー世界で起こる大騒動を時代小説風の文体で書き綴るという異色の冒険活劇なのである!
世界が滅びかねない陰謀あり、怪しげな宗教組織あり、悪の女幹部あり、謎の殺し屋あり、大巨人対謎の生命体あり……そんな種々雑多な要素にも負けないのが正体不明の超人にして大女ロラ。記憶を失って自分のことすらよくわかっていない彼女だが自分が超人であり、めっちゃ強いことだけは自覚している。そんなロラに振り回され、大事件に巻き込まれつつもめげないアイカちゃんが可愛らしく、この主人公二人に限らず、敵役から脇役に至るまで登場するキャラが皆魅力的なのも嬉しい。設定から文体までユニークすぎる要素を散りばめながらも、物語自体は文庫一冊分ほどの分量で綺麗に完結しているのもお見事。
オンリーワンの魅力に満ちている極上のエンターテインメントだ!
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
ファーストコンタクトはSFの代表的ジャンルであるが、本作に登場する生命体はなかなかにユニークである。
8年前、ある電磁波が地球に向けて発信された。その内容は星間航行に必要なあらゆる理論、発信者たちの母星と思われる惑星の座標、そして未知の生物種の外見的特徴。これによって人類は誰もが宇宙へ簡単に行けるようになった。
そして民間人の伽と銀葉は、人類に接触を図った存在が宇宙空間にスターゲートを開いた際にたまたま一番近くにいたというだけで、ファーストコンタクトを務める大使に任命され、その惑星へ向かうことに。そこで二人が目撃したのは何者かが建造したと思わしき巨石構造物。しかしその中には虫のような生命体はいても知性を感じさせる生命の存在は見当たらない……。そして伽は観察を続けるにつれ、この構造物に隠されたとんでもない秘密に気付いてしまう!
未知との遭遇で大事なのは、地球外生命との出会いを通じて、いかに既存の常識を揺さぶるか。そういう意味では本作は大成功していると言える。未知の生命体との出会いをきっかけに、一気に神の存在について話を飛躍させるアクロバットぶり、そしてそれを支えるロジックは必見。短い中にファーストコンタクトの面白さを詰め込んだ優れた一品だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
絶え間なく続くパワハラに耐えかねて、上司の「聖女なんか辞めちまえっ!!」の言葉に即座に反応し、その場で聖女を辞めたアルム。そのままこれまで使う暇もなかった給料で貧民地区の廃公園の土地を買ってそこで暮らすことに。土地はあれど建物はない。そんな環境で若い娘が暮らして行けるはずがない……と思いきや、聖女パワーで結界を張り、聖女パワーで公園に次々と植物に果物を実らせ、快適なホームレス生活を送るのであった。
一方で彼女に逃げられたパワハラ上司にして、国の第七王子であるヨハネス。別に悪気があったわけではなく、彼はアルムの才能を存分に伸ばすために厳しく当たっているつもりだったのでこの状況に大困惑。どうにかしてアルムを連れ戻そうと考えるが、周りにパワハラ野郎と認識されているせいで、アルムの下に向かおうとすると、アルム以外の聖女たちや聖騎士たちにとことん邪魔をされてしまう……一応王子のはずなのに……。
アルムの快適なスローライフ生活を描きつつも、周囲からとことん辛い目に遭わされるヨハネスのギャップが楽しく、貧民街で起きるトラブルやアルムの力を利用しようとする王子たちや国を揺るがす陰謀など次々やってくる難題も、聖女パワーで公園から一歩も出ずに解決していく姿が実に爽快。終始コメディタッチで進むギャグ満載の楽しい一作だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
現代の問題を未来の技術によって解決するというのはSFの大きなテーマの一つ。そして本作では高齢化社会に伴う介護問題に対してロボットによる介助を描いている。
主人公が勤める老人保健施設では、夜勤の時にだけ人間の意識を介護用ロボットに転送して入居者の介護を行っている。だがその施設ではある噂が流れていた。夜になると本来施設にいないはずの人影が現れるというのだ……。
本作でまず注目すべきはリアリティ溢れる介護施設の仕事の描写であろう。施設で暮らす老人たちには、日常の小さな動作や単純なコミュニケーションにも多くの困難が生じる。そこをロボットが持つ様々な機能を用いてサポートしていくのが、物語の前半にあたる。
この時点ではお仕事小説のような趣があるのだが、後半に行くと、主人公は突然思いもよらぬ異常な状況に追い込まれる。一つまちがえれば荒唐無稽にもなりかねないのだが、前半で地に足の着いた描写を積み重ねているからこそ、この展開にもしっかりと説得力を持たせることに成功している。
突如追い込まれた極限状況でありながら、介護の話などどこか行ってしまいそうなものなのだが、そこで主人公の仕事と入居者たちに対する思いをしっかり描ききっているのも実に巧みだ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)